『勝負の行方』
「……う、ぐ」
ようやく、零夜は気を取り戻した。
しかしその腹部からはまだ常人では考えれないほどの出血があった。だが零夜はいつものことと捉え、あまり気にしていない。
いや、それ以上に衝撃的なものを目の当たりにしてしまい、それどころでは無かったとも言える。
「な、なんだ……。これ……」
零夜は電光石火で相対する二体の妖霊に一瞬にして翻弄された。自在に腕を伸ばし後ろの貯水タンクから水を供給し、槍を作り、目に見えないほど速いスピードで移動する物体に飛ばす。
が、移動する物体が速すぎてその後ろを通過したり当たったと思いきや弾かれ水滴が飛んでいる。
「あ、あれ?」
ここで俺はあることに気づいた。三日月が……いない。
と、するとあの高速移動する物体は……
「主。目を覚ましたか」
いつの間にか三日月は俺の目の前に降り立っていた。その声は初めて会った夜の、凛としてどこか冷たく、対象の攻撃に静かに燃えている声だった。
それと同時に俺は三日月の背中に骨格だけの片翼が生えているのを見た。
「そう。これが本当の私の姿……。正真正銘の妖霊。黒夜月の末裔、三日月弥生さ」
三日月の手には皇というあの歪な形をして、赤黒く光っている刀が握られていた。
「……主。悪いが少々派手にやってしまうかも知れん。くれぐれも巻き込まれないよう注意してくれ」
「え、でも、お前……。どうする気だ?」
きっと三日月はあの妖霊、鎗水杏佳を殺すつもりだろう。確かに俺はあいつに殺されかけ、三日月も俺と血の契約があるから俺を守っているんだろう。
しかし俺はこの時、どちらか一方が勝つ、負ける。死ぬ、生きるということは考えていなかった。
「……決着をつける」
どうしたらどちらとも生きて楽しく残りの生活を送れるのか、それしか考えていなかった。
「さぁて、話は終わったかい? 待ちくたびれたよ」
こちらもいつの間にか座っていた鎗水はゆっくりと立ち上がり構えをとる。それに対する三日月は……
「ふふ、そう焦らなくてもすぐ殺してやるさ」
「み、三日月!?」
なんと三日月は血の刀、皇の形を解きその手にはなにも持っていない状態となった。俺でもこいつがなにを考えているのか全くわからなかった。
「主もそう慌てるな。なにも無策と言うわけでは無いわ」
そう言うと三日月は鎗水に向かって全速力で駆け出し、蹴りを放った。そのスピードに驚いたような表情をしたが辛うじて水の壁を作り初撃を防ぐ鎗水。
今や攻撃をためらっていた三日月の姿は微塵も残っていなかった。
「ほう、初見の攻撃をよく止めたな。大したものだ」
「はっ、なめないでくれるかな? そんなのぜんっぜん! 通用しないから!」
またも無数の水の槍が飛んでくる。
三日月はそれらを全て避け、鎗水との距離を縮めて行く。そして俺と鎗水の中間地点ほどで三日月が止まる。それに合わせて鎗水の攻撃も止まった。
その時、三日月はあることに気づいて歩みを止めたようだ。数瞬後、ようやく俺もその理由についてわかった。それはごく単純でよく考えれば誰にでもわかることだった。
「やはりな……。水切れか」
「……くっ」
そう、ここはビルと言っても廃墟となったもの。貯水タンクの水もいつでも供給されるわけでは無く、この長い戦いでタンクの水をすっかり使いきってしまったらしいのだ。
大きさから見てまだ少しありそうなのだが、俺が気絶していた時にでも大量に使ってしまったのだろうか。それとも意外と効率が悪いのか。何はともあれ今使うような水は無くなったみたいだ。
もちろん近くには水を素早く供給できる場所は無い。
明らかに三日月の勝ちだった。
「み、三日月。もうあいつは攻撃の術がない。拘束しよう」
そう言って俺が一歩前に踏み出すと……。俺の足元に刀が突き刺さった。
赤黒く月明かりに照らされている。皇だった。
そこで、三日月の様子がおかしいことに気がついた。
「み……かづ……き?」
「主……。に、逃げて……くれ……」
膝を地面に着き、苦しそうに胸の辺りを押さえる三日月。行動と発言の矛盾から見るに三日月は力を制御できてない……のか?
「お、おい、どうした! 大丈夫か!?」
慌てて駆け寄りたいが俺はそうすることができなかった。きっと三日月はとっさに血で再び皇を形成して俺に放って来た。
つまり、まだ三日月の武器である血は十分にあると考えられる。こいつがどういう状況かわからない今。動こうにも動けなかった。
「の、飲み込まれ……て、くあああぁぁぁ!!」
「三日月!!」
三日月は叫んだかと思うと先程よりも比べ物のにならないくらいのスピードで鎗水に向かっていく。そしてまた蹴りを放った。
「っぐ!」
ガードはギリギリのところで間に合ったように見えたが、それでも後方に飛ばされる鎗水。威力も桁違いだった。
「三日月!! もう鎗水は戦闘能力を失っているんだ! それ以上の攻撃は無意味だ!」
叫ぶ、俺にはただそれしかできなかった。妖霊同士の戦いでは人間はこんなにも無力だったんだ。
そんな俺の忠告を聞くわけ無く、三日月は新たに形成した皇を構えた。
「さ、さすが黒夜月ってとこ……だね。これはヤバイかも……」
次の瞬間、三日月は鎗水に皇を本気で刺しに行った。が
「水平面防御壁!!」
鎗水が叫ぶと後ろのタンクが割れ、水が出てきた。やはりまだ少し残していたようだ。水は肉薄する三日月を捉えその四方面に壁を作った。完全に閉じ込められた状態となった三日月。
だが、それは一瞬のことだった。三日月が皇を一振りするとすぐ水壁は壊れ再び突進を開始した。
「よ、避けろ鎗水!」
あの突進を喰らったら鎗水でも消し飛ぶだろう。そして、三日月は皇を縦に振り下ろし地を引き裂いた。
いよいよバトルはクライマックス!!これからどうなるのか……。
次回は決着、そして物語は新展開へと進みます!
では、また次回で会いましょう!




