『覚める記憶』
「妖霊化……?」
どこか聞いたことあるような単語を思い出すかのように口に出す。三日月、鎗水、双方ともに行動を止めている。
「私はもう……。あんな姿になりたくないのだ。生き物を殺すことだけにしか楽しみを覚えられないあんな姿にはな!!」
鎗水に怒りをぶつけているのでは無く、ここには居ない誰かに叫ぶような声を上げる三日月。
「くっ……。あははは!」
声を上げ小馬鹿にしたように笑う鎗水。
「ははは……。いやぁごめんごめん。妖霊が妖霊化したくないって。……そんなこと、言ってられるの?」
「……つっ!」
「み、三日月!!」
鎗水が放った槍が三日月の右肩を捕らえた。
そこから一瞬、黒い霧のようなものが出てすぐに収まる。妖霊の体内にはきっと血液は流れていないのだろう。それはそこまで驚くことではない。姿形こそ三日月と良い、この鎗水と良い、人間の見た目をしているがこれはこいつらがそこそこの力と知能を持っているからだ。
力も知能も低い妖霊なら姿は本当にただの化け物ってこともありうる。三日月から出ていた霧はすぐ収まったが、傷跡ははっきりと残っており三日月もその痛みに端整な顔を歪ませている。
辺りはもう日が落ちかけている頃だった。
「だ、大丈夫。このくらい平気じゃ……」
心配する俺を笑顔で見返してくる三日月。
しかし明らかに平気と言える顔ではなかった。
「あー。もう、なんか退屈だな。せっかく借りが返せると思ったのに……。あの黒夜月も何百年っていう年月が経つとこうも衰えるんだねー」
黒夜月。俺にはその単語にまた、聞き覚えがあった。
妖霊の時代を圧倒的な力でほぼ統一した一族の名称。
水蛇と同じ五族に数えられている。鎗水の言ってることを信じれば三日月はこの黒夜月の一族みたいだ。
そして鎗水が借りがどうとか言っているのはたぶん家系上、因縁深いものがあるのだろう。
「……はは。成り上がり五族のしたっぱ風情に言われるとは。私も落ちたものだな」
「……あー、そーかい。そーかい。なら、ここでもういっそ死んじゃうか?」
明らかに苛ついた声の鎗水。これは少し荒れた攻撃をして来そうだ。そう考えた瞬間……。
「ぐっ!?」
「主!?」
腹部に激痛が走り、そのまま倒れ込んでしまう……。水で作られた槍が俺を貫いていた。血が狂ったように流れ出る。
「ただ楽に殺されるとでも思った? 三日月弥生! ボクがそんな生ぬるいことするとでも?」
薄れ行く意識の中、俺は激情する三日月を見た。
私の後ろで倒れているのは……。主? いや、そんなはずは、私はやつと主との射撃線上に立っているはずだ。主もそれをわかってくれていて一歩も動いてないはず。
なのに、なのになぜだ? なぜ私の主は倒れている?
「さぁ! 君の大切な人なんだろう? 怒れ! 悲しめ! 泣きわめけ! そしてその力を解放しろよ!!」
「……さ……い……」
「んー? なんだって? ぜんっぜん聞こえないよー?」
「うるさい!! 黙れ!」
自分でもこんなに大声が出せるのかと少し驚くくらいの怒号。一瞬にして周りの空気が張り詰めた。
「……くっ」
主は意識が戻ったのか立ち上がろうとする。が、やはり力が入らずまた倒れてしまう。
私は痛みをも半ば忘れ、慌てて主に駆け寄る。
「大丈夫か! 主! しっかりしろ!」
「あ、あぁ……。そんなことよりお前……。肩は大丈夫なのか?」
「え、あ、私は大したことないから大丈夫だ」
「そうか、そりゃ良かった……」
私が身の安否を心配したのに自分の状態はそこそこに、こんな時まで私の、他人の心配をしてくれる優しさがそこにあった。
……本当に馬鹿としか言いようがなかった。
「そんなさ、泣きそうな顔すんなよ……。知ってるだろ? 俺の体質。失血死は絶対にないから……」
「わ、わかっている! でも……。痛みはもちろんあるだろう……?」
「そ、そりゃ少しはな……。わ、悪いけど、ちょっと意識が……」
「あ、主!?」
また気を失ったようだ。
いくら主が永久出血体ディバインドを持っていても身体にはそうとうな負荷がかかるだろう。そこへ……
「いやぁ、この邦広だっけ? すごい血が出るねー。びっくりだよ」
鎗水が声をかけてきた。
「……貴様、私の主をこんな姿にしたからにはそれ相応の覚悟はできているんだろうな?」
「……やっとやる気になった? なら、こっちも本気でいくよ?」
私はそっと主を横たわらせこう言った。
「すまない……。血をまたもらうぞ。主」
主の腹部から流れる血を私は口を付け、喉に通した。
この久しぶりの感触。
体の中をなにかとても熱いものが暴れ、全てを壊したくなるような衝動に刈られる。できるだけ力を制御しなくては……。
いや、もういいか。壊したいだけ壊してしまえば良いか。目の前でこちらを見ているこのチビを跡形もなく消し飛ばしてそれから……。あぁ、もう消し飛ばしてしまったらその後なにもできないな……。
「今のうちに懺悔の言葉でも考えておくことだな。私の……。せめてもの情けだ」
「ふん。懺悔なんて必要ないね。死ぬのはお前だ」
「そうか。まぁ考えたところで言う暇も無く貴様は塵となるだろうがな」
そして、私の背中に右だけ、しかも骨格だけの羽が生えた。頭の少し上から腰くらいまでの全長。やはりまだ、全ての力が戻っているわけでは無いか……。
どこか禍々(まがまが)しい雰囲気を纏っている。刀を血で形成し、構える。
「……準備はできた。もう……、後戻りはできん」
「はっ!! 決戦と行こうじゃないか!」
平成の世で初めて二体の妖霊が剣を交えた。
長いことバトルが続いてしまってすいません……。もう少し、お付き合いください。
次回予告ですが、ついに鎗水との戦いがクライマックスになる予定です!結果はいかに!
では、いつものようにご指摘、ご感想などいただけたらありがたいです。よろしくおねがいします!




