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三日月が夜空に輝く頃  作者: オルソー
~序章~『妖霊と少年の秘密』
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『三日月が夜空に輝く頃』

「一瞬でけりをつけてやる」


 そう言って三日月は刀を抜き、ロイムに向ける。


「妖霊ごときが俺に勝てると思ってるのか? 笑わせてくれる」


 両者ともに臨戦態勢だ。ロイムは斧を持ち上げる。きっと俺を襲ったあの痛みはあの斧が当たったのだ。

 放り投げ、落ちていた斧。それがロイムの意思でロイムの手元に戻ったのだ。

 その際、俺の腹部を切っていったみたいだ。


「主を、傷つけた罪。決して軽くはないぞ」


「そーかい、そーかい。ならお前も同じ目に会わせてやる」


 一瞬の間の後、先に動いたのはロイムだった。斧を横に振る。それをなんなくかわす三日月。

 さらに蹴り、それから斧と多彩な攻撃が繰り出されるが三日月には予測できているのかのように全てかわされる。


「なんじゃ、貴様はその程度だったのか。少々がっかりしてしまうな」


「くっ! なめた真似を!!」


 力の差は歴然としていた。ロイムの顔に焦りが生じ始めたとき。ロイムは斧を突如、また俺に投げ出した。

 コースは完璧、真っ直ぐ俺の方へと向かってくる。ダメだ……!

よけれないっ! 今度こそ死んだ……。そう思い、体を硬直させた。



 ……が、カンッと無機質で固い音が響き斧は俺の目の前寸前で方向を変え、飛んでいく。そこにはいつの間にか三日月が立っていた。


「……」


 先程までロイムの側で戦っていた三日月が今度は俺の目の前にいる。なんてスピードなんだ……。


「貴様は何度、罪を被ろうとする……。死を持って償え」


 三日月がそう言うとロイムは圧倒的な力の前にやけを起こしたのか


「ふ、ふざけるなああぁぁぁぁ!!」


 素手で向かってきた。三日月はそのロイムを見据える。そして


「皇、第二型……」


 そう呟き鞘に皇を戻す。間合いにロイムが入ったところで……


小桜羅しょうおうら!!」


 目に留まらぬ速さで抜き、その刃はロイムの右腕を捉えた。血が溢れ出るロイムの右腕。


「くっ……。ぐっ、この……」


 右肩辺りから無くなってしまったロイム。三日月は止めを差そうと歩み寄る。だが


「!?」


 慌てて飛び退く三日月。その足元には神社などにある札のようなものが突き刺さっていた。


「……誰だ」


 それだけ三日月が問うと、暗闇からひとりの男が現れた。ロイムより断然細身で背の高い男。ロイムに手を貸しているところを見ると仲間なのだろう。


「私は名乗るようなほどではありません。が、境遇はこのロイムと同じですよ」


 優しい神父を連想させる声。どう見ても戦闘員には思えない。


「えぇ、えーと。邦広零夜君でしたっけ? あなたのお察しの通り。私は戦闘員では無く、まぁ、作戦参謀と言ったところでしょうか」


 未だに倒れたままの俺に男は答えてくる。もちろん俺は思っただけで言葉にしていない。が、作戦参謀とか自分で言ってたから相当に頭がきれるやつなのだろう。


「その非戦闘員が戦場に何をしに来た。恵の居場所はどこだ」


 三日月が冷徹な声で問うと男は口を開いた。


「ここに来た理由は、撤退ですかね。ロイムも片腕じゃあなたへの勝算も落ちますし。恵と言うのはあの想佳燐そうかりんのことですかね?」


 恵の妖霊名を出す男。三日月は黙って頷く。


「それならすぐ近くの建物の中に監禁してますよ」


 それだけ答えると男はこれ以上ここに居ても立場が悪くなるだけです。

と、言い残しこちらに背を向けた。しかし


「あ、そうそう。ひとつだけ教えてあげましょう。この空想世界のことを」


「この世界のことを……?」


 三日月がそれに反応する。恵が何かの目的て作ったんじゃないのだろうか?  と、俺も思う。


「えぇ、あなた方は想佳燐が何らかの理由があり作り出したものだと思っているでしょう。しかしそれだけでは五十点です」


 さらに男は続ける。


「我々、騎士戦団は妖霊を敵としていますが、何も討滅することだけが目的ではありません」


 討滅だけじゃないって……。どういうことなんだろう?


「妖霊にも少なからずストレスと言うものは生じます。特に彼女らのような人の姿をした妖霊はね。そのストレスを溜め込むと人間同様、心身共に悪影響を及ぼします」


「……つまり、この世界は恵のストレス発散のために作ったと?」


「えぇ。しかしこれは想佳燐の意思ではありません」


 ん?  恵のストレス発散のために作った世界が恵の意思じゃない? どういうことだ?


「結論を言うと私は騎士戦団の非戦闘員。作戦を練るなら研究も必要ですから研究員でもあります。だから、研究として想佳燐を実験に使わせてもらいました」


な、なんとことを言うんだこいつは。実験だと? なんの? なんのための? 心の底から怒りが沸いてくる。

しかし悔しいことにまだ体が言うことを聞かない。


「大丈夫。危害は加えてませんから。ただ少し眠ってもらっているだけですよ……。さて、このくらいで良いでしょう。私達は素直に撤退させてもらいますよ」


 そう言うとロイムに肩を貸し、去っていく二人。三日月はそれを、追わず俺の元にやって来た。どうやら今回は自我を保っているようだ。


「主……。大丈夫か?」


「あ、あぁ。なんとか平気だ。思ったより傷は浅い……」


「そうか……。それはよかった……」


 そう話していると……


「おーい! 弥生、零夜君!」


「ん? 鎗水?」


 向こうから入り口を守ってくれていた鎗水が走ってきた。どうしたんだ……。


「いやさ。なんか戦ってたら急に撤退しはじめちゃって……。二人とも遅いし、心配で見に来たんだよ」


 そうか。きっと司令官が撤退したからだろうな。


「って、零夜君、大丈夫なの!?」


 俺が血を流して倒れてるのを見て驚く鎗水。遅いな。


「大丈夫だ。傷はそんな大したことない。それより……」


「恵じゃな」


「そうだ。まだ動けそうにないから悪いが二人で行ってきてくれないか?」


「うん。そう言うことなら全然大丈夫だよ~」


「了解した」


 二人の背中を見送る。よし、俺は少し、休憩でもするか……。なにしろ、これで一件落着だ。









 数日後。俺の傷は深くなかったが大事を取って入院していた。そして今日。退院の日だ。


「いやぁー。やっぱり外は良いなぁ」


「何、じじくさいこと言ってるんじゃ」


「まぁ、ずっとベットの上だったし、そう思うこともあるんじゃない?」


 三日月と鎗水が病院まで迎えに来てくれた。しかし恵の姿がない。キョロキョロと探していると


「あ、恵ならちょっと用事があって来れないって。大丈夫。今夜の退院祝いには来れるって」


 なるほど。用事があるなら仕方がない。今夜は俺の退院を祝ってくれるらしいし。


「んじゃ、帰るかぁ」







「……。え」


 久しぶりの我が家に入るとなんか変な物体がうろちょろしてた。


「な、なぁ三日月、鎗水。これは……」


 物体としてはただの段ボールだ。しかし……なんかちょろちょろ動いてる。たまに壁にぶつかってはイテッとかなんか言ってる。


「え、えーとね~……。まぁ、これはなんと言うか」


「住み着いて居たんじゃ」


「それは無理があるだろ!」


 はぁ……。ついついため息が漏れてしまう。誰なのかは予想がつくがなんのためにこんなことしてるんだろう?


「恵~? なにしてんだ?」


 すると段ボールはビクッ! として停止した。その隙に俺は段ボールを持ち上げた。するとそこには……


「……え、え? め、恵……?」


 なんとチャイナドレスの恵さんが。しかもギリギリまで丈を短くし、足の露出を強調している。なんか……すごいな。


「あわわはわ……! れ、零夜! これはそのね! えと、えと……」


……………。


「うわああぁぁぁ! 杏佳やっぱりこれ無理だよぉ!! 恥ずかしくて死んじゃううぅ!!」


 自身の身を抱くように隠す恵。これはやっぱり鎗水の仕業か。


「大丈夫、大丈夫! 似合ってるよ! グット!」


 ケラケラ笑いながら言う鎗水。た、確かに何でか知らないけど非常に似合っている。


「主~。私はどうだ?」


「ん? 三日月か。いつの間に……ってうわ!」


 三日月は白を基調としたヒラヒラのワンピースを来ていた。普段、和服しか見てないのですごく新鮮でこれはこれで似合っていた。


「んじゃ、最後はボクだね~。じゃん!」


これまたいつの間にやら鎗水も着替えを済ましていたらしく衣装を着ていた……。が


「い、いやいや! これはアウトだろ!」


「えー、可愛いでしょー?」


 なんと鎗水は胸からヘソ上、それから腰回りにしか布面積がない黒の毛皮を着用し、頭にはなぜか猫耳。これまたなぜだか似合っていた。


「へ、変じゃないかな……零夜」


「どうなんじゃ主」


「か・ん・そ・う! か・ん・そ・う! 零夜君~」


「え、えぇ~……」


 退院早々、頭が痛くなるような出来事だった。






 夜。四人で食事をしてそれから俺はベランダへ出てなんとなく夜空を見上げていた。


「……零夜」


「おぉ、恵か」


 後ろから恵に声をかけられた。……まだワンピース着てるんだなお前。


「あの……さ。まだ言えてないことあったから言いに来たの」


 そういや、こいつ急に女の子らしいしゃべり方するようになったよな。気持ちの面でも踏ん切りがついたのだろうか。


「ん? なんだ?」


「その、助けてくれてありがとね」


 あぁ、きっとこいつはあの空想世界でのことを言っているのだろう。


「あんまり俺は役に立たなかったけどな。無事でよかったよ」


「ううん。弥生から聞いたよ。あの……僕のために戦ってくれたんだよね」


「ま、まぁ……」


 なんだこれ。すっごく恥ずかしい。

 すると、恵がなにかを差し出してきた。


「……なんだこれ?」


 それは、袋だった。中身までは見えないが、何か入っているようだ。


「開けてみて。その……、僕からのお礼の気持ち」


 言われるまま開けてみると、写真を挟める小型アルバムのようなのが入っていた。

 実はけっこう前の事になるんだが、俺は恵に写真は思い出がそのまま残るから良いよなって話をしたことがある。そのことを覚えてくれていたのか。


「ありがとな。恵」


 そして俺はついつい恵の頭をなでてしまった。すると


「……!?」


 ボンッ! と音がしそうなくらいの速さで一気に首まで赤くした恵は走り去ってしまった。


「……な、なんなんだよあいつは」


 その背中を見送っていると、三日月が怪訝な顔をして現れた。


「主……。恵に何かしたのか?」


「い、いや! 何も……」


「何も?」


 えー……。別にいかがわしいことはしてないし、でも何もしてないって言うのは嘘になるし……えーとえーと……。


「したない」


「どっちなんじゃ……」


なんか変な単語を作り出してしまった。


「まぁ、よい。主。恵から何かもらったと思うんじゃが、私からもある」


「え? 三日月からも?」


 今日はよくプレゼントをもらう日だ。まぁ、俺の退院祝いだから当然かもしれないけど。


「これじゃ」


 そう言って手渡されたのは綺麗な三日月型のペンダントだった。月明かりに照らされ、輝いている。


「その、悩んだ結果。一番、私らしくて良いかなと……」


「お前らしいって言うかまんまだけどな」


「な、なにぃ?」


 あはははと二人して笑う。そして


「……その、ありがとな三日月」


「なんじゃ。急に」


「何度も助けてくれて。それが契約だとしても……。嬉しかったよ」


 なんか自分でもわかるくらいらしくないこと言ってるな……。でも、本心だから仕方がない。

 すると初めは驚いていた三日月が口を開いた。


「そうじゃな。契約は契約じゃが、まぁ、その契約を結べたのが主で良かった」


「三日月……」


「だから、じゃ。……これからもよろしく頼むぞ主」


「……おぅ」


 そして二人で一緒に空を見上げた。


 そこには三日月が夜空に輝いていた。

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