『月明かりへと』
「三日月!!」
ロイムの斧を完全に止めることはできず、後方に大きく飛ばされる三日月。すぐさま駆け寄るが目の前にロイムが斧を持ち立ちふさがる。
するとロイムが俺を鋭く睨みながら口を開いた。
「よう、人間のくせに怪物らの味方をする裏切り者。お前の家系は代々そうだってな」
初めからひどい言われようだが、今はそんなことを気にしている暇はない。なんとかして恵の居場所を聞き出さなくては。
「妖霊だって全員が全員、人に害を与えるわけじゃない。今だって俺を必死で守ってくれている。そんなやつらもいるんだ」
「そりゃあ、お前みたいな存在は妖霊達にとっちゃ好都合なもんだからな。怪しまれずに人の住む世界に堂々と入れるんだからな」
ダメだ。この男は相当、妖霊に怨みでもあるのだろうか。妖霊を全否定している。この調子だと恵の居場所を聞き出すどころか、戦いの回避は不可能のようだ。
「さぁ、黒夜月はもう動かねえな。妖霊化すりゃまだなんとかなったかも知れねえが。この対妖霊用武器の中でもトップクラスを誇る大斧だからな」
それに、と付け加えるロイム。
「これにはたいそう妖霊に効く素材で作られてるからな。しばらくそいつは動けないと思うぜ」
なるほど。だから対妖霊用武器なんて呼ばれているのか。直接斧が当たったわけでないのに三日月のダメージが異常なほど大きいのはこのためか。
「さーてと、次はてめーだよ」
正直、俺に戦う術はない。ディバインドやインバインドがあったとしてもあくまであれは血が無くならない、状況判断能力が高いというだけだ。
首を跳ねられれば死ぬし、状況判断で相手の攻撃を避けることは可能かも知れないが攻撃手段が無い。
……でも
「それでも、行かなきゃならねえときもあるんだ」
一気にロイムの右脇を目指し走る。慌ててロイムは俺を叩き潰そうとするが……。かかった。
ロイムが右手一本で斧を持ちあげた瞬間。俺は右足を思いっきり踏み込み、減速し、ロイムのさらに右に体をずらす。
既に振り下ろす動作に入っていたロイムは途中で止めきれず、なにもいない空間を叩き潰す。その間に俺はロイムの後ろに倒れている三日月の元へと滑り込んだ。
「おい! 三日月! 大丈夫か!! しっかりしろ!」
「……主か。みっともないところを……見せてしまったな……」
弱々しく呟くように言う三日月。外傷はあまり無いが、きっと内側からやられたのだろう。まともに当たっていないのになんて威力だ。
「なかなかやるようだな。どうする? この死に損ないを捨てて俺たちと一緒に来るか? それとも……。ここで死ぬか?」
威圧的な笑みを浮かべるロイム。俺の答えは……
「どちらもお断りだな。俺はここから友達を救いだしに来た。今死んだらその目的が達成できないし、外には必死で守ってくれている妖霊もいる。だからこいつらを捨てるなんてことはできない」
そういうこった。と、ロイムに告げると少々驚いた顔をしていたがすぐに
「そうか。なら、話は早い……。俺に勝てるとでも思ってるのか。頭は良いと聞いていたんだが」
誰から聞いたのかとか疑問に思うが、今は気にしないでおこう。
さて、こいつをどう倒すかだけど……。
「……くっ」
「お、おい。三日月。無理をするな。俺だけで何とかする」
無理に起き上がろうとする三日月を制しながら、何か策はないかと頭を回転させる。
……策は、無いことはない。
しかし、これは失敗したら確実に俺と三日月、両方が殺されるだろう。仮に成功しても、俺達が多大な損害を受ける可能性もある。
でも、今こいつに勝てる方法はこれしかない。
そう判断した俺は
「んじゃ、始めようぜ。ゴツいおっさん」
ボクシングのような構えを見せ、今度は俺が三日月を守るような位置をとった。
「無力なただの人間が俺と戦うってか? おいおい、正気か?」
「主……やめ……ろ」
馬鹿にしたように笑うロイムと引き留めようとする三日月の弱々しい声。やれやれ、俺って信用無いんだな。
「それじゃ、そろそろ……。殺っちまうぜ!」
一瞬で間合いに入られ俺はなんとかそれに反応できた。ずらした体のすぐ横を斧が縦振りに通過する。
と、思ったらすぐにそのまま切り上げてきた。体を反らせなんとか距離を取る。
なんとか紙一重で反応できてるな……。しかし、あのパワーとスピード。半端なものじゃない。
「ほう? すばしっこいな。でも、これならどうだ!」
「っ!!?」
いきなりロイムは斧をこちらに投げ飛ばして来た。が、ある程度の間合いは先ほど開けていたのであまり苦にせず避けることができた。
だけど、ひとつしかない自分の得物を投げるなんて……。あまり頭がよろしくないのかもしれない。見た目や今までの攻撃パターンからして、力で押すタイプみたいだし。
「ちっ。避けられたか」
「あぶねー……。でも良いのか? あれってひとつしかないんだろ?」
俺が笑みを浮かべ、ロイムに言う。すると
「ふん。お前くらい素手で大丈夫だ」
そう良い構えるロイム。しかし俺は何か違和感を感じた。何かが変なんだ……。でも今は素手対素手。さっきよりかは勝率が上がった。
新たな武器なんかを持っていられても困るし、早く勝負をつけたい。
「そうか。なら、今度は俺から行くぜ!」
俺はロイム目掛けて走り出す。
早く、少しでも早く恵に会いに行くんだ!
「うおぉぉぉぉ!!」
ガツッっと鈍い音を立て、俺の右拳に痛みが走る。俺は避けようとする素振りすらしないロイムの顔を容赦なく殴り付けた。
意外にも効いたようで、少々後方によろめくロイム。
「ほぅ……。なかなかやるじゃねえか」
だが、すぐに何もなかったように立ち上がるロイム。前言撤回。全然効いてねぇ。
「よし。この一発はハンデだ。くれぐれも死ぬなよ、ガキが!」
「ぐっ!?」
「主!?」
またも一瞬で間合いを詰められ、腹部に一撃を食らう。腹部は反射的にガードしやすい部位のひとつなのだが、それも全く追い付かなかった。
つまりロイムの攻撃は人間の体が一番早く対応できる反射より早く動いている。避けようがないのだ。
「安心しろ。あの斧みたいにかすっただけで致命傷とかにはならねえからよ」
まぁ、素手でも何発か食らえば同じかもな。と、付け加えるロイム。くそ……。なんて力なんだ……。
「ぐ……、くそ……」
一撃食らっただけなのに体へのダメージが大きい。腹部を中心に広がる痛み。それをなんとかこらえ立ち上がる。
「主! もう下がっておれ! 私が……つっ!」
三日月もこちらに参戦しようとする。が、やはりまだ初めの一撃が効いているのだろう。立ち上がることすらままならない。
「無理するな。こいつくらい、俺がなんとかしてやる!」
再びロイムに向かい合う。だがロイムは残念そうな顔をしてこう告げてきた。
「俺もな、退屈だからお前の相手をしたいわけよ。でもな……」
すっとロイムの目に完全な殺意の色が灯る。
「時間がねえんでな。悪いが、死んでもらう」
「……えっ?」
右腹に鋭い衝撃が走る。な、なんだ……? 後ろから?
「あ、主っ!!」
立っていられずその場に倒れ込む。そこには既に大量の血が溜まっていた。
「俺もこんな不意打ちみたいな勝ち方はしたくねえんだが。なにしろ時間がないらしいからな」
それだけ言ってロイムは俺に背を向ける。手にはさっきまで持っていなかったあの斧がある。
待て、まだ戦える。そう言いたいが空気が抜けうまく言葉にできない。
「待て、貴様」
言いたかった言葉を代わりに誰かが言ってくれた。それは
「み、かづ……き?」
三日月は立ち上がっていた。初めてあった夜や、鎗水と戦ったときに見せたあの殺気と言うか雰囲気が再び三日月を取り纏っていた。
「ほぅ……。妖霊化したのか」
ロイムもその異常な空気に気付いたのだろう。三日月を見る。
「これからが勝負だ。一瞬でけりをつけてやる」
そう言って三日月は刀を抜いた。
よろしくお願いいたします!




