『血塗られた戦い』
「いってぇ……。ど、どこだここ?」
周りを見渡すとよく見慣れた家の近くの通学路だ。
しかし、いつもと違うとすれば俺と三日月しかこの世界にいないような感じだった。
「あ、主……。大丈夫か? どうやら空想世界に入ることはできたようじゃが……」
「そうだな……。とにかく、恵を探そう」
「しかし、どのようにどこを探すんじゃ? こう広いと時間がかかるような気がするな」
やれやれ、と言った感じに三日月が言う。しかし俺がそれを首を横に振り否定すると三日月は不思議そうな顔をして首をかしげていた。
「ここはあいつの空想世界なんだよな? だったら簡単だ。さっきの公園に目を付けたように、印象深いとこを探すんだよ。恵が知らないところはこの空想世界には無い。それだけでだいぶ絞り込めるはずだ」
そう説明すると三日月はその赤い目を少し見開いていた。
「いや……。さすがじゃな主……。この少しの時間でよくもそこまで思考を巡らせるものじゃな」
こいつがこんな素直に俺を誉めたことは無かったし、見た目上、すごい美少女にここまで言われるとだいぶ男として恥ずかしかったので
「ま、まぁ……。とにかく早く探すぞ! 」
返事も曖昧に再び恵捜索を開始した。
それから俺達は二手に別れると俺が心配だと言う三日月のもっともな理由で一緒に行動している。
効率は少々落ちるだろうが仕方がない。どうやら、この空想世界は本当にごく僅かな恵の思い出深い場所しかできていないらしく、面積的にはそう大きくないと思う。
しかし、ある程度の時間が経っても恵は見つかるどころか手がかりの一つも出て来ないでいた。外で戦って敵の侵入を防いでいる鎗水も心配なので早く見つけたいんだが……。
「……主。少し聞きたいんじゃが」
唐突に三日月がこちらを向きもせず、ただ前だけを睨み付けていた。異常な空気に俺は周囲を警戒する。
「この空想世界に、恵の知らん奴はおらんのじゃな?」
「そりゃな。少なくとも……」
俺は三日月が何を言いたいのか理解した。そして俺も三日月の前に立つ男を睨み付けた。
「俺や恵の知り合いにそんなにゴツくて敵意むき出しの奴は知らねーな」
「ははっ。どうやら嬢ちゃんだけじゃなく、後ろの坊主もやるようだな」
野太く、力強い声。全体の細かなところまでは見えないが、シルエットからだいたいの体格はわかった。生半可な攻撃じゃびくともしないような大男だ。
「……味方、じゃ無いようだな。誰だあんたは」
この大男がどんな攻撃をしてくるのかわからない以上、下手に動くことはできない。
こういう場合は、少しでも相手の口から自身の事をしゃべらすのが基本だ。
すると大男はなんの警戒も無しに口を開いた。よほどの手練れなのか、ただそこまで考える頭が無いのか。どちらにせよ、戦いにくそうな相手だ。
「俺はロイム・スターゼム。つってもわかんねえよな。まぁ、だいたいわかっちゃいるだろうが騎士戦団の幹部ってとこか?」
やはり騎士戦団の仕業だったのか。そのロイムと言う奴は少しずつ俺たちに近づいてきた。
だんだんとシルエットが明らかになってくる。予想した通り、ロイムは筋肉質で大きな体の持ち主だった。右手には斧のような物を持っている。俺の背丈はありそうな大斧だ。
きっとあれが奴の得物なのだろう。
「主……。奴は相当できるようじゃな。私が隙を作るからその間に主は脇を素早く抜け、恵の元へ急ぐのじゃ」
俺とロイムの間に立つ三日月が言ってきた。俺は無言のまま頷き、その瞬間に備える。
「作戦タイムは終わったか~? なら、さっそく行かせてもらうぜ!」
そう言うとロイムは大斧を軽く持ち上げ、一気に距離を縮めてきた。
体付きからは全く想像できないほどのスピードを出し、瞬く間に三日月との戦闘距離に入った。
が、三日月も黙って初撃を喰らうほど甘くはなかった。素早く身をずらし、最低限の動きで完全に相手の攻撃を避け、そのままあらかじめ少量俺の血を取り込んで作った皇を横に振るった。
しかし、その三日月の攻撃をなんとロイムは斧の持っていない左手一本で止めたのだ。しかも、素手で。
「!?」
さすがに三日月もそれには驚いたのか慌てて距離をとる。ロイムの左手は少しの切り傷があり、そこから微量の血が流れ出ているのみ。
ロイムの表情も痛みを感じていないのではないだろうか、と思うほど穏やかで戦いを心の底から楽しんでいるように思えた。
「な、なんじゃ、こいつは……。化け物じゃ」
三日月の率直な感想にロイムは、お前に言われたくねーよと言うような顔をしたが急に怪訝な表情をし、いつか鎗水が三日月に言ったセリフを口にするのだった。
「……お前は妖霊化しないのか?」
「……」
あの時と同じように三日月は無言を返す。でも俺は少し気になるところがあった。ロイムはさっき、明らかに三日月に向かってお前はと言った。
つまりこの時点で誰かが妖霊化しているということだった。
「くっ、こりゃまた骨が折れそうだね……」
鎗水杏佳は二人が入っていったゲートを迫ってくる多数の騎士戦団から守る形で立っていた。この時点で杏佳はあることに気付いていた。
敵の罠にはまってしまっていることを。
「最初っからボクらを引き離すことが目的だったんだね。まんまとやられちゃったよ」
鎗水はそう言うが、今なお迫ってくる騎士戦団からは誰一人とその言葉に反応する者はいなかった。
「……なら、さっさと片付けて合流しようかな」
そう言って鎗水はペットボトルに入った水を飲み干す。
と、ほとんど同時に鎗水の目から明るい光が消え失せ、ただ目の前の敵を殲滅することのみを考える妖霊の目へと変わる。
「さ、どっからでもかかってきな。皆殺しにしてやる」
「ほらほら! 避けてばっかじゃ勝てねーぞ!?」
次々と振られる大斧を避ける三日月。ほぼ確実にこの騎士戦団幹部、ロイムが使っている斧は対妖霊用武器だろう。
対妖霊用とは言うものの人間にだって効果はある。あんなもの、かすっただけでも致命傷になりかねない。
「貴様など! 妖霊の力に頼らずとも倒せるわ!」
なお、斧から避け続けながらもロイムの目標が俺に変わらないように自分に気を引き付けるように動いている。
「ほう……。なら、死ね!」
再びロイムは斧を大きく振り上げ、三日月に向かって走ってきた。
頑張っていきます!
よろしくお願いいたします!




