『解けていく謎』
そうこうしているうちに目的の弥富原家に到着した。
「三日月、鎗水。俺は信じれないけど……。たぶん恵は妖霊なんじゃないかって思う。まだ、確信はないけど……」
こういう切り出し方はどうなのだろう? と自分でも思ったが今は時間がない。なりふり構っている暇はなかった。
「そうじゃな。私も少々そう思っていたとこじゃ」
「そだね。恵ってけっこう怪しかったし~」
二人ともやはり思っていることはあったみたいだ。それなら話が早い。
「お前たちにこの家を調べてほしい。もし、恵が本当の妖霊なら何かしらの手がかりがあるはずだ」
「そうだな。ずっとここに妖霊が住んでいたなら匂いや微かな気配くらいは残っているかもな」
「んじゃ、さっそく調べよ~」
無断で部屋などに入ることもあるだろうが今の状況じゃ、そんなこと言ってられない。相手は騎士戦団だ。
妖霊なら問答無用で殺しかねない。俺達は家の中へ踏み込んだ。
さすがに女の子の部屋に男の俺は入らない方が良いと言うことになり、恵のプライベートルームには鎗水と三日月が探すことに。
なので俺はリビングなど家族が共同で使う場所を調べることにした。
「しっかし、唱歌さん。見かけによらずしっかりしてるんだなぁ」
あの超マイペースでゆっくりしている唱歌さんだが、リビングやキッチン、洗面所などの細かいところまできちんと整理整頓されていて、ほこりひとつ落ちていないほどだ。すごいな……。
しかも、家具の位置も決めているのだろう。前に来たときも思ったが昔と全く変わっていないから実はよほどな几帳面なのかもしれない。
「零夜くーん! ちょっと来てー!」
二階から鎗水の声が聞こえてきた。恵の部屋は二階にあるのできっと何か見つけたのだろう。
俺は急いで階段を駆け上がっていった。
「なんだ!? どうかしたか?」
扉を開け、中を確認する。すると三日月と鎗水は机の上にあるなにかを見つめていた。二人の隙間から見るとそれはゴミ箱だった。
「あ、零夜君。これ……」
「……。」
鎗水が俺に気付き、ゴミ箱の中を指差す。そこには……。
「……なんだこれ? 紫色の……羽か?」
しかも、大量に。鎗水と三日月が言うには上にたくさん物が捨てられて偽装されているようだったらしい。そして三日月が口を開いた。
「この羽からは……。妖霊の匂いがする」
「って、言うことは……」
つまり、やはり恵は妖霊だったということになる。
弥富原 恵は自分がどこにいるのかわからなかった。薄暗く、なんとなくジメジメとしているような場所。
確か、零夜に本当のことを話そうと思って、それからお母さんが帰ってきて……。
「ようやくお目覚めか。待たせやがって」
向こうから声をかけられ自然と体が硬直する。野太く、力強い印象を持たせる声だ。辺りは暗く、相手の顔はおろか姿すらよく見えない。
「そんな言葉遣いは良くないですよ。女性にはやはり、優しくしないと」
今度は優しそうで聞き取りやすい口調。どちらも声で判断する限りは男だろう。そこで恵は自分の両手が縄で太い柱に繋がれており、身動きがとれない状態だと気付いた。
「ふん。妖霊に男も女もあるか。さっさとこいつを始末しようぜ」
屈強な男の方のセリフに恵は背筋を震え上がらせた。自分はここで殺されるのだろうか、殺されなくても妖霊と言うだけで何も危害を加えていないのに始末されるのを待つだけなのか。
そんな負のイメージが頭の中をくるくる駆け回る。すると今度はあの優しい口調な男が
「いえ、ダメですよ。あのお方からはなるべく傷を付けず力を使わせず捕獲しろとの命令ですからね」
そして、その優しそうな声の主は屈強な男に向かって続けざまに言った。
「ロイム。そろそろお仲間がこの世界に来るようですよ。お相手、よろしくお願いしますね」
どうやら、大柄な男の方はロイムと言うらしい。それより、仲間と言うのは零夜達のことだろう。無事なのか聞こうと思い声を出そうとしたら、ロイムの野太い声にかき消された。
「んじゃ、ちょっくら準備してくるか」
すると首元でバチッ! っと何かが鳴り響き、また恵は気を失った。
「この近くから反応を感じる! 主! 周辺に特別な心当たりは?」
恵の家をすぐさま飛び出し、捜索へ向かった俺と三日月、それに鎗水。三日月があの羽をたよりに恵の反応がする。二人がすぐ近くまで案内してくれた。
「特別な……。うぅん……」
心当たりと言ってもここら辺は近所だし全て心当たりがあると言えるくらいだ。すると鎗水が口を開いた。
「たぶん、恵はあの羽の色から想佳鱗。前もちょっと言ったけど、昔の記憶から空間を作り出すことができるんだ。その世界の出入口は記憶の中で最も有意義に過ごした場所や思い出深い場所になる。そういうところで考えるとどこか無い?」
「んー。あいつのそんな場所ってあるのか……。あ」
思い出した。この近くで、俺達が初めて一緒に遊んだ場所。何をしたか覚えてないが、とても楽しかった。
それだけは覚えている。その場所は……
「あの公園だ!」
「よし、行こう! 手がかりがあるかも知れん!」
「ここからはそう遠くないよ!」
三人で公園へと向かい、走り出した。
「はぁ。はぁ。はぁ……。こ、これか!?」
「ビンゴだね! しっかりゲートが開いてるよ」
今ではすっかり来なくなってしまったこの公園。大きな桜の木が公園の一番奥に立っているのだが、そこに青白く光る拳大ほどの模様があった。
鎗水が言うにはこれが想佳鱗の作り出した空想世界へ繋がるゲートらしい。
「では、行くか。主」
「そうだな。できるだけ急ぎたいしな」
そう言って俺と三日月がゲートに近付こうとしたとき
「待って、二人とも。このゲート……少し様子がおかしいんだ」
鎗水がそれを止めた。なにやら鎗水は非常に困ったような、難しい顔をして何かを考えている。
「どうした。早く行かないと……。恵のことが心配だ」
「それはボクも一緒だよ零夜君。だけど、どうやら先客が居るみたいだね」
「先客……?」
俺たちより先に恵の空想世界に行ったやつが居るって言うのか? いったい誰が……。
そもそも故意的に入ったとは限らない。ここで遊んでいた誰かが偶然このゲートを見つけ、入ってしまったのかもしれない。
そうだと空想世界なんて不安定な所にいつまでも妖霊の事を知らない一般人を放っておくわけにもいかない。それなら尚更、急がなくては。
「それでも鎗水……」
「危ない! 主!」
突如、俺の体が左から軽い衝撃を受け右に飛ぶ。そしてさっきまで俺が立っていた場所に矢が通過する。
俺はとっさのことで受け身を取れず地面に倒れこむがなんとか無事で済んだ。三日月がいち早く矢の存在に気付き、突き飛ばしてくれなかったら直撃だったな。
「先客はどうやら……。ボクらを歓迎してくれは無さそうだね」
既に矢が飛んできた方向。公園の入り口から俺を守るような場所を取っている鎗水が言う。
その前にはいつの日にか見た西洋の騎士をそのまま持ってきたような装備の人間が10人ほど立っていた。
「……くっ、騎士戦団か」
そこでようやく思い出した。俺が恵の家を出たとき、ぶつかってしまった唱歌さんが連れてきた客人。あれは三日月と会ったときに居た騎士戦団だったのか……!
「つまり……。今回の仕業もこやつらが犯人と言うことじゃな」
三日月も皇を構える。鎗水も持ってきていたペットボトルから水を体内に取り込み、戦闘準備をしている。するとその鎗水が
「ここはボクに任せて。零夜君と弥生は先にゲートに入って」
「な、なんだって!? このくらい、私の力なら……」
「……わからないの、弥生。ここに騎士戦団が居るってことは中にも騎士戦団が居て、恵が危ない目に遭ってるかもしれないって事でしょ? なら、早く行かないと取り返しのつかないことになるよ」
ここまで言われては、三日月も反論できないでいた。俺も理屈がわかっているから余計に反論もできず、他に良い案が出ず、固まるだけだった。
「す、すまん……。俺に力がないばっかりに……」
ようやく振り絞れた俺の声に鎗水は少し驚いたような顔を見せたがすぐ、いつもの元気な笑顔に戻り
「なるべく早くね。なんとか持ちこたえて見せるから」
と、言ってくれた。その笑顔に少し見とれていたが、すぐ我に帰り気合いを入れ直す。
「本当にごめん。鎗水。お前の事、信じてるからな!」
すると鎗水は
「……そ、そう……。は、早く行ってきなよ。時間がないよ。成功したら、なんかご褒美でももらおうかなぁー」
こちらを見ず、相手の方を見たまま返してきた。
「成功したらなんでも言うこと聞いてやるよ! また後でな、鎗水!」
俺は鎗水と約束を交わし、三日月に先導されつつゲートへ乗り込んだ。
(信じてるから……か)
二人を見送ってから鎗水杏佳は初めて言われたその言葉に戸惑っていた。
(正直反則だよね。そんなこと言うなんてさ……)
さっきは素っ気なく返してしまったがすごく嬉しかった。頑張れ、頼んだとか無責任な言葉じゃなくてただ信じてるって言ってくれた。
「そんなこと言われちゃ……」
一人の騎士戦団員が鎗水に襲いかかる。鎗水目掛けて剣を降り下ろす。が、バキッと音を鳴らし、騎士戦団員の剣が根本から折れる。
鎗水の手には水で作った刀が握られている。
「何がなんでも守るしか無いじゃないか」
なかなか思い通りに進みませんな……。
でも、がんばっていくので応援お願いします!




