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三日月が夜空に輝く頃  作者: オルソー
~序章~『妖霊と少年の秘密』
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『懐かしい記憶』

 靴を脱ぎ、一歩恵の家に踏み入れると懐かしい感情が頭を駆け抜ける。

 家の中まで昔と何一つ変わらず、曖昧な記憶そのままを形にしたような光景だった。そりゃ、細かいところは変わってるだろうけどさ。


「あれ? お袋さんと親父さんは? 仕事か?」


 恵の両親と俺の両親は何かの縁で仲が良く、いつも一人の俺を家に泊めてくれたり、夕飯を作ってくれたりとても親切にしてくれた。どちらも優しく人当たりも良くて、親しみやすい人だった。

 恵の穏やかな性格も二人の血を受け継いでいるからこそなのだろう。


「……あ、う、うん。二人とも今日は遅いみたい。あはは」


 答える恵は一瞬顔を曇らせた。何か言いづらいことでもあるのだろうか?


「ん? そうなのか……? 久し振りだから挨拶くらいはしようと思ってたんだけどな」


 まぁ、理由はともあれ、不在なら仕方がない。

 俺は促されつつ客間に通され、恵はお茶を入れにキッチンへと向かった。

 一人残された俺は少し考え事をして待つことにした。今のところ気になるのは三つ。一つはなぜ恵がわざわざ俺を家に招いたのか。これはもうすぐ明らかになるだろうからまぁ、良いだろう。

 二つ目は一瞬顔を曇らせた理由。事故にでもあったのか喧嘩でもしたのか色々と推測はできるけど、これは恵本人に聞く事以外に方法はない。

 そして三つ目が……


「どうしたの? ボーとして」


「あ、悪い。ちょっと考え事をな……」


 いつの間にかお茶を入れ終え、すぐ近くにまで来ていた恵に話しかけられ驚いてしまう。とりあえず机を挟んで俺は恵と対面する。

 すると、少ししたら恵の方から話題を出してきた。


「いきなりごめんね。呼び出したりして……」


 いつもの穏やかで優しさがにじみ出ているような声と口調。しかしその声はいつもより、ためらいがあるように感じた。


「いや、どうせ暇だったし。家には三日月と鎗水も居るから」


 しかし、あの二人は長い間ほっておくと家がどうなるかわからないのでなるべく早く帰らなければならないのだが。


「そっか。……あのね、今日零夜を呼んだのはその、きっちり話しておきたいと思ったんだ。ぼ、僕の……性別とか……。その理由とか……」


 なるほど。そのために恵は俺を呼んだのか。

 少し間が開いてしまったが、恵も恵なりに色々と考えたのだろう。気にはなっていたし、良い機会かもしれない。

 俺はひとつ頷き、恵に話をするよう促した。


「……僕の家、弥富原家は実は特殊な力を持っているらしいんだ。零夜……。邦広家のようにね」


 さすがに邦広家みたいな妖霊に真っ向から対抗できる力ではないけどね。と、恵は付け加えた。

 そしてさらに続けた。


「そしてね、弥富原の力は本来、女子にしか受け継がれないんだよ。うちはお父さんが婿で入ったから弥富原はお母さんの名字なんだよ」


 昔、婿入りの話は聞いたことあるように思った。

 仲睦まじい恵の両親だが、たまに喧嘩すると絶対にお父さんが負けると恵本人が言っていたはずだ。あれは婿入りだったからなのかもしれない。


「……でも、その力を隠さなけりゃならないような事があった。ってことか?」


 俺が確認するかのように恵に言うと


「そうだね。力を隠すって言うより、僕が力を受け継いでないように見せる必要があったんだよ」


「……誰に?」


 その俺の問いに初めて恵が言葉に詰まった。


「そ、それは……」


 その時だった。客間のドアが急に音を立て開いた。俺はすぐドアから恵を守るような姿勢を取り、開いたドアの方を見る。しかし


「お、お母さん?」


「し、唱歌さん?」


 俺と恵はほぼ同時にその人物の呼び名を発していた。


「あらー、やっぱり零夜君だったのね~。久しぶりじゃない~」


 このゆっくりとしたしゃべり方、優しく細められる目。

 間違いなく恵の母親。弥富原やとみはら 唱歌しょうかだった。


「お久しぶりです。すいません、いきなりお邪魔しちゃいまして」


 なんとか驚きながらも言葉を返す。唱歌さんはいつも気付くと近くにいる

 。意識している間は決して周りにいないのに気が抜けるといつの間にかすぐ側にいるような人だ。


「いえいえ~。どうせ恵くんが呼んだんでしょ?」


 そして、また、勘がすごく鋭い人でもあった。


「ちょ! お母さん! 帰ってくるなら事前に連絡してよ!」


「ごめんね~。でも、ちょっと急なお客さんができちゃったのよ」


「急なお客さん……?」


「そうなのよ。ちょっとそこで会っちゃってね」


 なにか重要な話でもあるのだろうか。それだと俺がいたら少々まずいこともあるだろう。

 いくら家同士も仲が良くても他人の家の事情だ。あまり長居をしても迷惑だろうし。


「あ、なら俺は帰りますよ。俺たちの話はまた今度でも大丈夫なので。めぐ……さとしもそれで良いだろ?」


 危うく『めぐみ』と呼ぶところだった。唱歌さんは気付いてないみたいだから良かったけど。

 恵も頷いたので俺は帰る支度をした。





「お邪魔しました」


「ごめんなさいね。また、いつでも遊びに来てね~」


 一旦、ここは帰るが恵が俺に言いたかったことはまだ他にあるはずだから近いうちに話すときが来るだろう。別れを告げ、俺が玄関のドアを開け、外に出ようとしたとき


「……いて」


 何かにぶつかった。しかしそれはすぐ人だとわかったのですぐ謝罪をした。


「あ、すいません……」


「いえ、こちらこそすいません。大丈夫ですか?」


 ん? どこかで聞いたことあるような声だな……。どこだったっけ。思い出せない。顔を見ようにも帽子を深めに被り、夕日の逆光でよくは見えなかった。


「あ、はい。すいませんでした」


 きっと唱歌さんが言っていた『急なお客さん』なのだろう。

 俺はその人に謝り怪我がないことを確認してから帰り道を進んだ。しかし頭の隅ではまだ何かが引っ掛かっていた。

評価等、よろしくお願いします。

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