月が見ている
アナスタシアは優秀な成績で癒術を修め屋敷内での魔法術の勉強はほぼ必要なかった。必要な単位もすぐに取れそうだ。
公爵夫人は合間に令嬢としての教育を施したがそちらも器用にこなしていった。
「これなら成年の儀には間に合いそうね。」
「成年の儀⁉︎あれに出るの?私が!」
「当たり前よ、何があっても貴女はシュヴァリエ公爵令嬢。世間にもお披露目しなくちゃ。パートナーは誰にしようかしら?」
「ちょっ、ちょっと待ってお母様。私そんな晴れやかな場所には向いてないわ。第一パートナーを引き受ける人なんでいるわけないじゃない!」
「アナスタシア。貴女のためなの、この成年の儀が終わればあなたには王宮に上がってもらいます。」
「何のために⁈」
「同い年のヴィルヘルミナ王女殿下から立ってのお願いがありました。貴女はヴィルヘルミナ王女及び双子の妹姫の筆頭侍女として、お勤めしてもらいます。」
やっぱり、私を一人にするの・・・?
「ねぇ、聞いてアナスタシア。私達は貴女を愛しているわ。その事を忘れないで。あなたも籠の鳥のように屋敷にこもっているのはたまらないでしょう?」
・・・・・
「お母様、私のお願いを聞いてくださる?」
アナスタシアは無事成年の儀までに単位を取り終えた。
「よく頑張りましたね、お嬢様。」
今では離れで屋敷預かりの魔法魔術学校の生徒を主とし仕えているエイナルが卒業資格証書を持ってきた。
「あなたの教え方が良かったのよ。折角の魔法省の就職も蹴って・・・離れの執事に収まるようなものじゃないでしょう?」
「大叔父と公爵夫妻に望まれましたし、ご恩返しもしたいとも思いました。ですが、それより昔ある方と約束をしましたからね。」
そう言ってオブリーは離れへと体を向ける。「ねぇ、約束を本当に覚えている?」
背を向けたまま答える。
「ええ、決して忘れませんよ。」
「私、成年の儀のパートナーがいないの。あなた、近くで守ってくれないかしら?」
「お嬢様のお望みで公爵ご夫妻に許可を頂ければ。」
「ありがとう。実は許可は先に取り付けてあるの。」
背中が反転し驚いた顔で振り向く。
「私ね、成年の儀の後は王女様付きの筆頭侍女になるんですって。だから、暫く会えないと思ったのそれで、それでお母様に我儘を言って・・・」
あれ?変だわなんで泣くのかしら。こんな偏屈な男の側を離れるくらいで・・・なんで?
考えていると温かいものに包まれた。
「私は約束は守ります。貴女がどこにいようと、一番に思っています。」
おずおずとアナスタシアはオブリーの背に手を回した。
「いつか、貴方が迎えに来てくれることを待ってる。」
月が照らす人気のない部屋で暫く二人は抱き合っていた。