ハヴェルン王国立魔法学校
この大陸にはハヴェルン王国を中心には6国の大国があり7国の小国が点在している。
その昔、主神ハーヴェイが作ったとされる大陸にはほぼ全土で魔法が当たり前の事になっている。特にハヴェルンに次ぐ隣国ウルリヒでは国土をほぼ山脈に囲まれており兵を動かしにくい冬期には更に山を越えた隣国ヴァンヴィヴリアから翼竜に乗り魔法師が攻撃をしかけてくる。彼らの狙いは山脈に眠る鉱山から取れる魔法石で、毎年一触即発の事態が起きておりいつ開戦してもおかしくなかった。
今の時代からは古と言えるほど古い時代には完全に山に囲まれ独自の文化・宗教を持っていたが、あまりに禍々しい神々を祀る風潮が激しく主神ハーヴェイが怒りのあまり山を一つ崩してしまいそこからいろんな文化が入り交じり現在は安定した国政を行っている。
ハヴェルンは主神の加護を受けた国でありヴァンヴィヴリアからは離れているが同盟国であるので、開戦となれば高みの見物とはいかなくなるだろう。
したがって、この国は特に魔法魔術技師の育成に力を入れている。そして今日、シュヴァリエ公爵家令嬢としてなに不自由なく育ったアナスタシアが魔法魔術学校に入学する。
普通の学校と違い親は入学式に参列することはない。その敷地の一歩手前と一歩中に入ることができるのは結界をくぐり抜けることのできる魔力持ちだけなのだ。
新学期は春から始まるため春休みを終えたエイナルが付き添い馬車に乗り住み慣れた我が家を離れた。
エイナルは既に5年生になる。成績も良く教師、魔法省の期待も厚いと聞いている。
「エイナルは何の魔法が得意なの?」
「お嬢様は学校で習う魔法をご存知ですか?」
「ええ。えっとね占いでしょ、癒しと守護と戦術。あ、あとそれ全部できる人がいるんでしょう?で、エイナルは?」
「僕は戦術と守護のクラスにいます。」
「あら、それってなんだか正反対ね。」
「はい。ですが、護るものがあればこそ戦術も強くなるそうです。」
「なに!なに、なぁに?エイナルの守りたいものって。」
大きなオレンジの瞳を輝かせて聞いてくる。
「そうですねぇ、まずはお嬢様でしょうか?」
「はへ?わたし?なんで⁉︎」
「僕の大叔父がお世話になっていますし、僕自身長期休暇は離れで住まわせていただいています。その御恩のある公爵家の一番大事にされていらっしゃるお嬢様がこれから3年魔法学校で学ぶ間は僕の一番護るべきものはやはりお嬢様かと。」
「学校にいる間だけ?」
「は?」
「私がお屋敷に帰ったらエイナルは他の人を守るの?私が一番じゃなくなるの?」
え・・・そこ?そこで瞳をウルウルさせちゃうのっ⁉︎まいったな〜。ついにアナスタシアは涙を零し始めた。
「私は、エイナルにずっとお屋敷にいて守ってほしいわ。だって、お兄さまもウィレムもいつかお嫁さんをもらってその人が一番になるの。私は魔力持ちだからお嫁には行かないの。行けないんじゃなくて行かないって決めたの。だから、だから同じ魔力持ちのエイナルにはそばに居て欲しいの。」
小さな少女は自分が何者かわかっていた。公爵令嬢と以前に一人の個人、そして花嫁になることは叶わないかもしれない魔力持ちの娘。
「お嬢様、いえアナスタシア。僕は君を一人にはしませんよ。いつでも、一番にお護りすると誓います。」
「ほんと?」
「ええ、どこにいても。アナスタシアを一番に考えます。」
「じゃあ、私が大きくなってお嫁に行かなければエイナルのお嫁さんにしてくれる?」
小さい子の言う事だ、ましてや今日は初めて親元を離れるさみしさもあるのだろう。
「わかりました。いつか私がお嬢様に相応しい立場になれば必ずお迎えにあがります。」
途端に花が開いた様な笑顔で小指を差し出す
「約束ねっ!」
幼い二人は馬車の中で二人だけの秘密の約束を交わした。まさかそれが本当になる日が来るとは思いもせずに。