アナスタシア・フォン・シュヴァリエ
春の日差しを受ける産室に産声が響きわたる。アナスタシアは春の恵みを受けて生まれた。誕生したのが女児だということで公爵とその小さな子息二人は喜びに沸いた。 しかし、一転夫妻は暗闇に落とされる。
魔法省から来た技師が生まれたばかりの待望の女児に対し「おめでとうございます。ご令嬢は魔力持ちでございます。」そう祝辞を述べたからだ。
母であるブリジッタは何かの間違いではないかと思いたかった。しかし、技師が魔力を見誤ることはない。父であるシュヴァリエ公爵は既にこの時宰相の地位にいたので、祝辞には「公爵家に魔力持ちが生まれるとはありがたい。」と、答えるしかなかった。
本来ならばこの幼子は未来の王太子妃の座に座るべく生まれ育つ筈であった。しかし、魔力持ちであるからには跡継ぎが望めない確率が高くなる。夫妻は決して権力の側にありたいと思う人柄ではなかった。だから、王太子妃候補から外れたことなどどうということはない。ただ・・・ただハヴェルン3大公爵家令嬢として果たしてはるか未来だがこの娘を損得抜きに喜んで迎えてくれる家はあるのか・・・その事にただの親として胸を痛めた。
それから数年経ちアナスタシアの下には弟が生まれ、彼女は男ばかりに囲まれて育つ。
特に上二人の兄が大層な可愛がりようでアナスタシアが6歳の歳までに乗馬を教え更に剣術の指導まで親の目を盗んで始める。
兄二人にとって妹は女にしておくのが惜しいと言わしめるほどだった。
そして、7歳になる年に魔法魔術学校から入学案内状が届く。
普通、公爵家ともなれば魔法省から魔法技師に出向いてもらい家庭で魔力の扱い方について学ぶことが通常であったがアナスタシアは案内状が届くと両親に言った。
「お父様お母様、私ほかの子ども達と同じ様に寄宿舎に入ります。」
これにはさすがに兄達も反対した
「なぜダメなですか?」
「アナスタシア、お前はこの国3大公爵家の一人娘だ。大事な娘を10年も手放すわけにはいかん。10年もあればお前は覚えることが山程あるだろう、いつまでも兄達と男の子のような真似もできんのだ。」
「そうですよ、シア。貴女にはこれから魔法以外のお勉強や貴族の娘としての礼儀作法もまなばなければ。魔法の勉強ならちゃんと魔法省から魔法技師に来ていただくしそれでいいでしょう?」
アナスタシアは力強いオレンジの瞳で家族を見据えた。
「寄宿舎には主に庶民の子どもが集まると聞いています。貴族として国の政治に関わるお父様を見て考えたのです、私達はもっと庶民の生活を知らねばと。そして、それを領地を治める領主としてまた、国を守る者としてやくだてねばと。」
7歳の子どもにしては立派な先見だと父はうっかり思ってしまた。
「アナスタシア、本気なのだな?」
「はい、お父様」
公爵はしばらく頭を抱えていたが譲歩した。
「10歳までだ、確かにお前の言うことも一理ある。しかし、貴族の令嬢としての嗜みを覚えることも大事だ。3年だけ時間をやろう、ただし寄宿舎では皆平等だ侍女が世話を焼いてくれはしない辛くとも弱音を吐いて帰ってくるなよ。」
「ありがとうございます!お父様大好き‼︎」
結局、天下の宰相公爵も娘には甘かった。こうしてアナスタシアは魔法魔術学校に期限付きで入学するのである。