鳶色の髪の少年
シュヴァリエ公爵家には屋敷預かりの魔法師を住まわす専用の離れがある。屋敷預かりとは魔力が大きく安定しない者を王宮に次ぐ結界を張った中に建つ離れで力が安定するまで預かったり、また各貴族は警備の為や病弱なものがいればそれぞれの分野から魔法師を雇い入れる事があり公爵家の離れもその都度様々な魔法師を受け入れてきたが、その結界の大きさから主に国からの依頼で魔法師を預かってきた。当時、この離れには魔法師は在住していない。それでも、常に本邸の執事とは別に離れ専属の執事が置かれていた。この時の執事の名はバスティアン・オブリーで魔力持ちであり長年公爵家に仕えていた。結界は必ず魔力を必要とするので彼は常に綻びがないかなど日々点検をし、いつでも屋敷預かりの魔法師を受け入れられるように離れを整えていた。つまり、仕える主がいない離れでもやる事はそれなりにあるのである。
公爵家令嬢アナスタシアが3歳の頃、彼の兄の孫になる少年が魔法魔術技師学校に入学することになった。少年の名はエイナル・オブリー、後に大叔父の後を継ぎ離れの執事となる鳶色の髪に紅茶色の瞳をした彼は実家が首都アデーレからかなり離れているため長期の休みにはこの大叔父の管理する離れに住まわせてもらう事になっている、そのため今日は公爵家に挨拶に来ていた。
オブリー家は地方の商家でそれなりに裕福な暮らしをしていたが兄弟が多く魔力持ちとして生まれたエイナルは生を受けた瞬間から家を離れる子どもとして親兄弟から扱われていた。つまり家族の愛情を十分に受けずに育った少年だった。しかし、魔力以前に利発で機転の効く子どもであったため、公爵夫妻にも完璧な挨拶ができた。公爵夫妻はこの少年をいたく気に入り自分たちの家族を紹介する、まだ赤ん坊の三男ウィレムを抱いた夫人のドレスの裾から人懐こい笑顔を見せたのは当時3歳のアナスタシアだった。まずは歳の近い長男のディルク、次男のカスパルと挨拶を交わしているとズボンの裾を引っ張られる。ふわふわの金色の髪にオレンジ色の瞳をした愛らしいアナスタシアが舌足らずな話し方で声をかけてくる。エイナルはアナスタシアの目線まで腰を落として挨拶をした
「初めまして、エイナル・オブリーです。」
「あなたも魔法使いさんね?私もよ、一緒ね。」
そう言ってくすくす笑う。同じ仲間に会えて嬉しいといった笑い方でこちらもなんだか嬉しくなる。
「はい。僕は明日から魔法魔術技師学校に入学します。長い休みの日にはこちらの離れにお世話になりますのでまたお会いしましょう。」
「明日にはもういないの?」
「はい。お嬢様。」
「そう、つまらない。ね、離れに来たら遊んでくれる⁈」
「え・・・と、皆さんがいいですよと仰ってくださったら多分、少しは・・・」
公爵夫人が助け舟を出す。
「あらあら、シアはエイナルがお気に入りなのね。彼はこれからたくさんお勉強をしなくてはいけないのよ、お兄様達のように。でも、長いお休みの時にはたまには遊んでもらいましょうか?」
「ほんとう!お母さま、やくそくよ。」
「はいはい。さあ、エイナルあなたも長旅で疲れてるでしょう。今日はゆっくり休んで頂戴。明日は本邸の執事のアーウィンに学校まで送らせますから。」
これが、後に世紀の大恋愛と後々まで語り継がれる二人の出会いであった。