申し込みと報告と
国王陛下から爵位を拝命し、すぐに離れに帰る。ウルヒリから帰国する一行はもうじき着くだろう。その前に済ませておきたい。
今日の宰相のスケジュールも押さえてある。娘の長旅を労うため休暇を取って屋敷にいるはずだ。
身なりを整え深呼吸をし珍しく震える身体に自嘲しながら落ち着けと、しっかりしろと言い聞かせる。
さあ、準備は整った。いざ、決戦へ。
本邸の執事アーウィンさんにご夫妻への面会を申し入れる。彼は私を見てにっこり微笑んでお待ちくださいと言う。暫くして客間の方に通される。目の前のソファには公爵夫妻。これまで何度も見慣れた情景なのに今日はこんなにも喉がカラカラだ。足は逃げ場を探している。しかし、決心し一息ついた。
「オブリー、大事な話があるようだとアーウィンが言っていたのだが?」
「・・・はい。本日はシュヴァリエ公爵ご夫妻にお願いがあってまいりました。」
「ほう。で、内容は?賃上げ?部署替え?それとも・・・」
「どれでもございません公爵。先日、ウルリヒで行われましたヴィルヘルミナ様のご成婚の披露宴にて、私エイナル・オブリーはシュヴァリエ公爵家ご令嬢アナスタシア様に求婚んいたしまして、それをお受けして頂きました。私のようなものがお嬢様を望むのは間違いかもしれませんが、私にはアナスタシア様しか伴侶として考えられません。そのため、少しでも相応しい立場になるようにと先日魔法省にて昇格試験を受けニームの称号とともに、伯爵位を国王陛下から賜りました。どうか、私にアナスタシア様をいただけないでしょうか。」
背中にはびっしょりと汗をかいている。
沈黙が痛い。
「よく、いままでこらえたな。」
「おめでとうオブリー、いえ。ありがとうあの子を受け入れてくれて。」
「え、では・・・」
「娘は小さい時からお前しか見ていない。しかし、お前が折れるとはな。あれの手綱を取れるのはお前しかおらん。まさかあれの花嫁姿が見られるとは・・・」
「早速、婚約やら日取りやら決めなくてはね。忙しくなるわ、本当にありがとう。」
夫人は既に瞳を輝かせ娘のドレスの生地選びを頭の中でしているようだ。
「あの、ご承諾いただきありがとうございます。必ずお嬢様を幸せにします。」
「あら、あの子はね貴方がいればそれだけで幸せなのよ。」
「しかし、離れの執事がいなくなるな。まさか伯爵にやらせるわけにはいかんし。」
「住まいもね。考えることは沢山あるわ。」
そこへアナスタシアが帰ってきた。
「た、ただいま戻りました。あの、アーウィンがこちらにオブリーが来ていると・・・」
「お帰り。疲れただろう、いかんオブリー立ちっぱなしじゃないか。まず二人とも腰掛けて。」
「え、あの?どうなったのかしら・・・」
「あら、いつもの強気はどうしたの?」
「だって、お母様」
「安心しろ、お前は未来のオブリー伯爵夫人だ。今日までの彼の努力に感謝しろよ。」
「はく・・・そこまで⁉︎」
私を見た彼女の目が動揺と喜びに満ちている。それからは4人でとりあえず婚約までの手順を話し合った。