眠りから覚めた魔法使い
事件から二ヶ月ほど経ちやっと二人が目覚めた。この間、問題児である両国の王太子は一人は婚約者に会えずもう一人はこの仮の住処に近付くことすら許されていない。
それが、カリンの一声で一転しヴィルヘルミナ王女は無事婚約の運びとなった。
その婚約披露には私がアナスタシア様をエスコートすることになる。これは、彼女の成年の儀以来のことだ。
お互い顔には出さないがどうも胸につかえるものがある。しかし、彼女も離れている間に随分大人になったようだ。昔のように無邪気に絡んでくることはない。そのことに一抹の寂しさを抱いていたが少しの間離れて戻ってきた彼女は私の顔を見るなり真っ赤になった。わけがわからない、さっきまではお互い平静を装いダンスをしウルリヒの貴族に挨拶をして歩いていた。なぜあの表情なのか?
「アナスタシア様、熱でも出たのでは?」
額に手をやるとますます赤くなる。
「な、なんでもないのよ。ち、ちょっと暑いのかしらね?」
ふむ。さっぱりわからんがとりあえず飲み物を二つ取りテラスに連れ出した。
「ここなら少しは暑さも薄れるでしょう。」そう言って飲み物を渡す。幾分か落ち着いたようだ。
「ありがとう。」
「成年の儀以来ですね、こういった場にご一緒するのは。」
「ふふ、そうね。ほんの何年か前のことなのに・・・。ねえ、エイナル。私、帰国したら家に帰るの。」
「そうですか。」
「お兄様達は二人とも結婚したわ。そして今はウィレムに縁談の話が幾つかきてるらしいの。」
「・・・・」
「でもね、あの子ったら私より先にそんなことできないって。馬鹿でしょ?いつまでもシスコンで、私の結婚なんて待ってたら一生独りよ。」
「貴女が結婚すればウィレム様は結婚に前向きになられるんですね?」
「え?あ、そう。そうなのよ。でも私はその気はないし。」
「なぜ?」
「なぜって、だから魔力持ちなのよ!跡継ぎなんてきっと望めない。だから、結婚するなら公爵家の縁が欲しいとか、愛のない政略結婚になるしかないわ。だって・・・いえ、なんでもない。喋りすぎたわ。」
「アナスタシア。」
彼女に敬称をつけず呼ぶのはいつ以来だろう?
「私はこれから少しやることができました。ヴィルヘルミナ様の婚礼の儀の後すぐに帰国します。」
「は?何突然どうしたの?ルディやカリンはどうするのよ。」
「あの二人は二人でいれば大丈夫なのですよ。それよりも私は守らなければいけないものがありますから。」
「失礼、今日はもう下がります。準備がありますので。とりあえず冷えすぎるといけない中へ入りましょう。」