うがい薬
近所の小さな薬屋……。
「君は……、ここで、働いてみる気はないかね?」「まあいい。次にここに来た時に、説明してあげよう」
『あの言葉……。嫌な予感がする……』
そう思いながらも結局、ここに来てしまう僕。そして、表から薬屋を眺めている僕。そして、あの黒い画用紙に書かれた白い文字。
【口腔ケアに、たくさん使うともったいないというあなた!! 今すぐ買ってみて。新登場の画期的うがい薬!】
『とうとう、売り文句に【買ってみて】と付けてしまったか……』
とは思いつつも、そのネタ的誘惑に負けて店内に入ってしまった。
「いらっしゃいませ〜」
店主が、不気味な声で誘惑している。ひとまず店主は無視して、目的のうがい薬を探す。
【喉にこびりついた雑菌も、歯垢も、口臭雑菌も、全てまとめてノックアウト! 口腔ケアの救世主《もう歯磨きなんて古臭い》登場!】
毎度の事ながら、ネーミングが意味不明だが、その内容に興味がわく。
『うがい薬で、口腔ケア? しかも、歯磨きしなくて、虫歯にならない!? ありえない。そんな事が、あってたまるか!』
胡散臭さ全開のその商品を手に取って眺める。
【使用上の注意。一日三回以上の使用は、お避けください。薬剤の成分が強すぎる為、口腔環境が悪化する恐れがあります】
『ま、まともだ……。いいのか? この薬屋で、こんなまともな商品を売っていいのか?』
疑い始めたらキリがない。僕の頭の中では、この薬屋にまともな商品なんてなかった。
「ちょっと持って来な!」
突然、時代錯誤な店主の声が聞こえたので、カウンターの方を見ると、店主がカウンターに片足を乗せて、人差し指で誘っている。
『おいおい……。そこは、土足厳禁じゃないのか……?』
とは思いつつ、うがい薬を持ったままカウンターに近付く。
と、突然、店主が商品を奪い取ったと思うと、おもむろにパッケージを開けだした。そして、目の前に掲げられた白い紙。
『……! 取り扱い説明書!!』
ぶん取るように、手に取るとパッケージと違う個所を探す。
【この商品は、細菌駆除のため、強力な薬剤を使用しています。飲み込むと、何かしらの障害が起こる可能性があります。必ず、本剤を使用後は、一般的薬品会社のうがい薬にて、口腔内を洗浄してください】
『あった……。しかも、中に……。詐欺だ。しかも、あからさまに確信犯だ……』
店主の顔を覗くと、何か納得したように頷くと、パッケージをテープで止めて、カウンターの後ろに置いた。
「で……、働いてみる気になったかい?」
何が『で……』で、『働いてみる気に』なのかさっぱりわからない。
「そうか、じゃあ君の仕事を紹介しよう」
ちょっと待ってくれ。何が『そうか』なんだ!? 僕の仕事って何だ?
「じゃあ、こっちに来てくれるかい?」
納得も理解もしていないのに、店の奥へと案内される。そして、ネタ探しの旅は、悪夢の旅へと変わっていくのだった。
「ようこそ! 裏日本、うふふんジャポンへ!!」
さあ、物語の急加速です。
ただ、毎回何かの商品だけは書いていきたい気がします。
リクエストお題募集中。ネタでもいいですよ。(←「それは自分で考えろ!!」と自分にツッコミ)