粉ミルク
近所の小さな薬屋には、ネタが沢山あるんだけど、あるんだけれど……、あの店、どうやって経営維持しているんだろう。
【赤ちゃんの栄養補給にこの一缶。もう二度と、粉ミルクの買い足しに足を運ばなくてもOK】
『あれ? なんだかいつもと感じが違う』
それもその筈、白い画用紙に赤い絵の具で書かれていた。ただ……。
『水の量、多過ぎだろ! 文字から絵の具が流れて、ホラーっぽくなっちゃってっぞ!』
粉ミルクは必要なかったけれど、店内に入ってみる。
『わかりやす! しかも、デカ!!』
商品名にひねりがなく《粉ミルク》と書かれた、一缶百キログラムのその粉ミルクは、店のカウンター横と、店主の隣に山積みになっていた。
『ちょっと、近寄り難い場所にあるな』
とも思ったが、いつもの習性で、手に取って眺めてみる。
『お、……重た!! これ買って、どうやって持って帰んだ?』
余計な思考が脳裏を駆け巡るなか、商品に書かれた内容を確認してみようとしたその時だった。
「あんた……。いつも、うちの店の特殊商品をよく見ているけど、興味あるのかね?」
突然、店主に話し掛けられた。
『いや、ただのネタ探しに……』
とも言えずに、軽く頷いて粉ミルクに書かれている事を確認する。
【これは、正真正銘《粉ミルク》です。どこからどう見ても《粉ミルク》です。何度も粉ミルクを買い足しに、走らないといけない主婦の皆様の味方です。これ一缶あれば、もう買い足しの必要なし】
『た、確かに……。これだけデカけりゃぁな……。でも、これは絶対裏がある。そうじゃなきゃ、このデカさは、無理があるだろ!?』
と、更に缶をよく見ると、
【原材料名:脱脂粉乳】
とだけ書いてあった。
『え? 脱脂粉乳百パーセント?』
その他の混入物がないか調べてみるも、脱脂粉乳だけだという事が発覚。
『これ、買う人いるのか?』
そう思いながら、店を出ようとすると、また、店主に声を掛けられた。
「買う買わないは、個人の自由だ。でもな、少年。君ほど、隅々まで見る人は、そうそうおらんぞ。君には素質がある。もし、興味があるなら、また来るといい。今度は、もっと君のためになる話をしてあげよう」
そう笑顔で言った途端。
「冷やかし、ありがとうございました。またのご来店をお待ちしています」
と、真顔で付け加えた。
『な、何? ためになる話? 素質があるの?』
この時は、これが何の事だか、全くわかっていなかった。
どんどん更新が、むずかしくなっていく……。