体温計3
また、体温計……
さぁて、今日も始まる近所の小さな薬屋探険。今日は、どんな不思議に出合えるのかなぁ。
『あれ? 何も貼ってない……。目玉商品はないのか?』
一先ず店内に入ると、狭い店内を一周する。ふと、店主の前の、カウンターに置かれた体温計が気になった。
「おや? これはこれは、毎度何も買わない迷惑なお客様ではありませんか。ん? こちらが気になりますかな?」
店主が、カウンターに置かれた体温計を手に取った。僕は思わず頷く。
「流石、迷惑なお客様。見る商品が違いますな。これは、悩みを解消する優れた機能が付いた、便利体温計でございます」
店主の差し出したその箱を確認する。
【腋の匂いでお困りのあなたに画期的な体温計が誕生。測定部位が超振動することにより、汗腺閉鎖症に伴う腋臭を改善。しかも、高機能体温計付き】
『測定部が熱を発したら、正確な体温なんて、測定出来ないんじゃ……』
心の声は、表情に現れていたが、僕は無言で体温計を返却すると、黙ったまま薬屋を後にした。
「毎度、冷やかしありがとうございます。またのご来店お待ちしております」
嫌味ととれるその言葉を、背中いっぱいに受けながら……。