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突発恋愛短編シリーズ

突発恋愛短編「国語辞書」

作者: 皐月晴

「あ、やべ辞書忘れた」

 それは、たしか中学の頃だったと思う。

 その日、俺は予告されていたにも関わらず国語辞書を忘れていた。

「誰かに借りなきゃ、つっても辞書なんて持ってるかなぁ?」

 今回の授業は辞書を使うからないわけにはいかない、でも他のクラスの友人が都合よく辞書を持ってるとは思えなかった。

「まぁダメもとで……」

キーンコーンカーンコーン♪

 始業の鐘、結局辞書を借りにはいけなかった訳だ。

「ほら、おまえら座れ。授業始めるぞ」

 すぐさま教師が入ってきて授業が始まった。

 結局辞書は隣の席の女子に見せてもらって事なきを得た。

 割と仲のよい女子だったので特に気まずい思いをすることもなく和気藹々と授業は終わった。


 翌日、俺はこの日も辞書を忘れていた。

 次も、その次も、そのまた次も辞書を忘れ続けた。

 なぜかと問われれば、たぶんその女子と話したかったんだと思う。

 ある日、俺はちょっとしたいたずら心から彼女の辞書の「セックス」の部分にラインマーカーでマークをしてみた。

 ただのいたずら心、それだけだった。


 でも、次の授業で彼女は辞書を忘れた。

 それから彼女は辞書を持ってこなかった。

 さすがに必要に刈られて俺は自分の辞書を持ってきたのだった。

 俺が辞書を持ってきた日、その日も彼女は辞書を忘れていた。

 今度は俺が彼女に辞書を見せるようになった。

 彼女は俺に何も言わず、いつも通りに話してくれていた。

 それでも彼女は辞書を忘れていた。


 ある時、彼女は昼休みにはいると同時に教室を出ていった。

 特に気に留めなかったが、俺はこの時から彼女を目で追っていたと思う。

 昼休み明けの五時間目、国語の授業だったが授業で辞書を使わなくなった。

 それからはもう辞書を使うことはなくなっていた。

 そのせいか俺は彼女を常に目で追うようになっていた。

 昼休みになるとすぐに教室を出る彼女はすごく忙しく見えた。

 帰ってくると決まって俺をちらりとみてため息をつく、なぜかこれはいつまでも続いていた。

 それから、俺は受験も無事終えて卒業した。

 卒業する前日まで彼女は昼休みに教室にいることはなかった。

 高校は彼女と違い、それから会うことも少なくなった。

 辞書のことなど、忘れていた。



「こりゃまた懐かしいな」

 中学を卒業してから10年が経ったある日、俺は引っ越しのために荷物の整理をしていた。

 住み慣れた実家から、新居へと引っ越すのだ。

 その整理の最中、懐かしい中学の時の教科書やらがでてきたのだった。

「お、こんなのまであるのか」

 見つけたのは、国語辞書だった。

 古ぼけた国語辞書を見て、俺はあの頃を思い出した。

 パラパラと辞書をめくっていくと、ある場所にラインマーカーが引かれていることに気がついた。

「マーカー引くほど真面目な生徒じゃなかったんだがなぁ?」

 ラインマーカーは「セックス」の一文に引かれていた。

 そして、シャーペンで付け足された文字が残っていた。

『仕返しだバーカ!昼休みに図書室で待ってる』

 読んだ瞬間、すべてを理解した。

 古い記憶が鮮明に思い出されすべてが理解できた。

「そういうこと、か……」

 苦笑して、わるいことしたなぁ……と思いながら

 とりあえず嫁に見せてみた。

「なんで今頃見つけるんだバカ!」

 怒鳴られたが、彼女は顔を真っ赤にしながら笑っていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] いいですね、すごく羨ましいシチュエーションです! 10年経って今隣にいるというのは幸せそのものですね。 大学くらいに運命的な再開をしたんでしょうかね? なんかサイテーと言っていいのか最高だ…
[一言] なにか、甘酸っぱい香りがすると思ったら…。 いいなぁ、こういう恋愛。 できるなら、こんな感じで恋愛したいです。 いや、ラインマーカーは引きませんが。 ……ところで、実話だったりします?…
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