ともだちのお兄さん
武 頼庵(藤谷 K介)様が主催されている「すれ違い企画」の参加作品です。
先日投稿しました、同じく「すれ違い企画」参加作品の「妹のともだち」の、友達側視点の作品となります。
視点が違うことで、感じ方もちょっぴり変わるかも?
場所は大阪。時はちょうど私が21歳になってすぐの、さむ〜い冬の出来事でした。私は冬生まれなのに冬が苦手なのです。だって寒いんだもん……。
このお話は、そんな寒い冬に、ちょっぴりあたたかで、ちょっぴり切なくなったお話。
私は小さな広告会社で事務の仕事をしている。会社の寮もあるから、実家からも通えないことはなかったんだけど、家賃もかからず社食もあるので、お料理が苦手な私には、結構ありがたい。母親一人だからそのまま実家に居てもよかったんだけど、最近いい人ができたって言ってたし、私が同居してたらきっと優しい母親は遠慮する。
だから、そんなこともあって私は社員寮に入ることにした。まぁ私自身一人暮らしもしたいって思ってたんだけどね。
一人暮らしはまぁいいんだけど、さむーい冬に、彼氏もいないのは淋しいのです。
今までに何人かとお付き合いはしたことはあるけど、なんだか私って男運悪い?? のかなんなのかわからないけど、中学の時も、高校の時も、すんごく怖かったり。見た目はカッコいいかなーと思って付き合ったら、めちゃくちゃ自分勝手で、しかも偉そうだったり! 私がはっきりしないというか、嫌なことを嫌って言えないのもダメなのかなぁ、って思うんだけどね。
そんなある日、メールが届いた。
『やほー、カヨっち元気? なんかウチのバカ兄貴が京都にライブ見に行くって誘いがあったんやけど、よかったら一緒にいこー! いちお、もう一人ヨッシーも誘ってる』
親友のマチュだ。名前はマツリ、私と違ってめちゃくちゃかわゆいの。マチュとは高校の時の同級生なのです。バカ兄貴って……マチュってお兄ちゃんいたんだ。でも、なんか楽しそう。
『うんうん、いいよー。最近マチュにもヨッシーにも会ってなかったし、嬉しいな。その日なら次の日休みだしちょうど良さそう』
すぐにメールを返した。
◇ ◇ ◇
マチュのお兄さんの知り合い? 先輩? のHIPHOPのライブは意外と楽しかった。ユニット名が「スルメ」ってなんかフザケてるのかと思ったけども、噛めば噛むほど味が出るという、そんな意味を込めて付けた名前らしい。ふむふむ、なんか深い。
一緒に行ったヨッシーは途中体調が悪くなって、駅まで送ってあげて、帰った。人酔いしてしまったみたい。大丈夫かな。
あ、実は凄い事件があったのです。あの……あの……マチュのお兄さん……かっこよ!! ちょっと聞いてないんですけど。ライブの打ち上げでユニットのお一人と、マチュと、マチュのお兄さんとご飯行くって言うから、喜んで行きました。
「リョウくん、妹さんとか、お友達も一緒に来てくれてありがとうございます。嬉しかったです」
「ううん、全然ええですよ。凄く楽しかったし。ああいうHIPHOP縛りのブッキングもたまには楽しいですよね」
スルメのお一人と、マチュのお兄さんが会話をしている。ブッキングてなんだろ。でも、そんなことはどうでもいい。途中にスルメの人が帰って、マチュとお兄さんと、私の三人で結局朝までカラオケしたのです。あぁ……楽しかった〜!! というか幸せ……。
「マチュ! マチュ! ちょっとお兄さんカッコよ過ぎん? 番号教えてって言うてよ!」
帰りの始発の電車で、マチュに言う。
「えー、どこがカッコいいんかわからんけど……まぁカヨっちの頼みならしゃーない。聞いてしんぜよう」
マチュはお兄さんに聞いてくれた。
「カヨちゃんがあんたの番号教えてほしいってさ」
「あ、そうなん。まぁ別にええよ」
よし!! 私は心の中で天高くガッツポーズをした。イケメン歳上彼氏ゲット! いや、まだ気が早い気が早い。
◇ ◇ ◇
その通りだった、私は気が早すぎた。マチュのお兄さんは私が聞くことには答えてくれる。でも、それ以上がないんだよ〜。なんというか、ガツガツ来る人よりもいいんだけど、あまりにも欲がないというか……あー、私がこんなだから、あまり欲もわかないのかな〜。ちょっとしょんぼりだな……。
番号を交換してから二週間ほど。私は勇気を出して、ご飯に誘ってみた。
「ご飯、よかったら行きませんか?」
果たして、返事は……??
『うんうん、ええよ~』
かる〜〜〜い!! あれ、いいの? うーん……でもいいって言うことはいいのかな。でもまぁ、これが第一歩だよ! カヨっち頑張るのだ!
マチュのお兄さん(名前はリョウということを聞いた。名前もかっこよ!!)とは、私の寮と、お兄さんの住んでる家のちょうど中間地点くらいの駅で集合して、居酒屋に行くことにした。
私、普段は前髪作るのとか面倒なのと、あと目にかかるのが嫌なのもあって、髪は横分けにしてるの。でもね、初デートだから前髪の作り方とか調べて、少しでも可愛く見えるように頑張ったのだ。
待ち合わせ場所に着くと、もうお兄さんは来ていた。お兄さんは割と早めに来るタイプのようだ、しっかりしてるなぁ。
「あっ、髪型少し変えたん?」
あぁ……神様!! 前髪の神様〜! そんな神様いるかどうかは知らないけど。でも、ありがとう〜!
「あ、そうです。ど、どうですか?」
「うん、可愛いと思うで〜」
あぁ〜! 前髪の神様!! 私、これから毎日拝みます〜! お兄さんに可愛いといってもらえるなら!!
「ホント……ですか。よかった」
顔が赤くなってないか心配だったけど、周りも暗いし大丈夫だよね。駅前のチェーンの居酒屋に入った。私もお兄さんもそんなに飲まないので、少し飲みながら、軽いツマミを頼んだ。
「マチュのお兄さんは、歌上手いですよね」
「マチュってなんなん? 妹? あとお兄さんてなんか呼び方くすぐったいやんね」
え、え、マチュはマチュだよ。あとお兄さんじゃなかったらなんて呼んだらいいの〜。リョウくんって呼んじゃっていいの〜??
「えーと。でもお兄さんだし……あっ、カラオケは好きなんですか?」
「うんうん、カラオケというか歌うのは好きやで。カヨちゃんは音楽好き?」
「はいっ、音楽は好きです! 歌は下手くそなんですけどね……」
居酒屋を出たあと、カラオケに一時間だけ行くことになった。あぁ、二人でカラオケ〜! 私デートしてるよ〜! マチュ〜! あなたのお兄さんと、私! デートしてるよ〜!
「ありがとう、楽しかったやんね。また都合あったら行こうね」
「はいっ、またいきましょう! マチュのお兄さん……あ、えーと……リョウくん……」
勇気出してリョウくんと呼んでしまったよ……大丈夫かな?
「ん? どうしたん?」
「今日はありがとうございました。楽しかったです!」
あ〜、もう私って、なんでこんな会社の上司に言うようなセリフしか言えないんだろ〜〜!
でも……でも……幸せだなぁ!
◇ ◇ ◇
それから、何度かご飯いったり、カラオケいったりした。リョウくんはホント優しくて、おっとりしていて、一緒にいると、なんかほわ〜んとするの。んーと……ほんとは手を繋いだり……キスをしたり……あんなことしたり……こんなことしたり……
カヨ! カヨ!! 戻ってくるんだ! いきなり飛び過ぎだぞ〜! 危ない危ない。そうそう、でもね。少しずつ仲良くなれたらいいかな、って思う。だって急に仲良くなって、急にそんな仲になってしまったら……それはそれで冷められちゃったら、私泣いてしまう。
ある日、たまには中華料理屋さんに行こう、ということになって、いつもの駅前で待ち合わせる。時間がギリギリだったこともあって、ちょっぴりダッシュで向かった。リョウくんが見えたんだけど、その前に前髪チェック!! やばい!! 私のおでこが出てしまっている! 前髪の神様がぁ! 手鏡をみながらリョウくんに気づかれぬように、素早く前髪の神様を降臨させた。よし、ばっちりだ。
「中華屋さんていっぱいメニューあるからいっぱい食べたくなるやんね〜」
「あっ、私も思う! もしリョウくんが良かったら、いくつか頼んでシェアしませんか?」
「おっ、いいやん。そうしようそうしよう。僕は天津飯と麻婆豆腐とレバニラ炒めと餃子食べたい」
私は思わず吹き出してしまった。リョウくん意外と食いしん坊!
「リョウくん、それすでに頼み過ぎ〜! あ、でも私もそれ全部好きだから、それでいいかも。あ、デザートに杏仁豆腐頼みたい、リョウくんは杏仁豆腐好き?」
ちょうど私も大好きなメニューだったから、それを頼んで分けることにした。そして、いつものカラオケに行く。何曲か歌ったあとに、私から話した。
「リョウくんって、すごく優しいですよね。カッコいいし歌も上手いし、マチュが羨ましいです」
「え。特に優しくないし、カッコいいなんて言われたこともないで。よう言われるんはやる気あるんか、って職場で言われる」
えー!! ウソウソ絶対嘘! 言われたことないわけないやーん!
「それはおっとりしてるから、そう見えるだけかもですよね〜。私、今まで付き合ってきた男の人が自分勝手で偉そうな人ばっかりだったんです」
リョウくんは、私の方を見て少し黙った。少ししてから口を開く。
「そうなんやね。カヨちゃんは可愛いからモテるやろ」
「えっ! 全然全然! それに可愛くないよ〜」
え、え、リョウくんがまた可愛いって言ってくれてる! ホント? ホント? それは信じていいの? あぁ、もう言うなら今しかない!
「わ、私。マチュに誘われて一緒にライブに行った日から、リョウくんのこと気になってて。こんな人と付き合えたらなぁ、って……」
言ってしまった。と言うか……あれ、リョウくんが私の方を見てる。というか近づいてきてる? え、え、どうしたの? もしかして……キスしようとしてる?
「リョ、リョウくん……さ、さっき餃子食べてしもたし、んと……」
私はもう、なんて言ったらいいかわからなくて。
「二人とも食べたからええよ。こっち向いて」
普段すごく優しくて、おっとりしてるのに、こういう時はちょっぴり強引なんだ……それもなんか好きかも。私は目を閉じた。
初めてのキスはとても優しくて、でも凄く男らしくて。ちょっと恥ずかしいんだけど、ちょっぴり興奮してしまった……。
いつのタイミングで渡そうかずっと、迷っていて、カバンの中に入れていた物があった。家族旅行でお土産屋さんで買ったおそろいのストラップ。可愛らしい猫ちゃんの飾りで、ピンクと青の色違い。
お揃いで付けたかった。でも、なかなか言えなくて渡せなかった。今なら渡してもいいかな?
「あ、リョウくん、そういえば前に家族で旅行してて。お土産に携帯のストラップ買ってきたんよ」
二つある一つをリョウくんに渡そうとする。でも、少しリョウくんは気まずそうにしている。
「旅行いいやん。あ……でも携帯電話にストラップ付けない派なんよ……ごめん」
あ。そうなんだ……。えと……携帯電話に付けない派。他の場所にも……? あれ、そもそも、いらないのかな……。
「あ、そっか、そうやんね……付けてないもんね元々。じゃあ、友達か誰かにあげよかな」
なんだか、それ以上聞くのも辛くなってしまって。
私、このまま自然消滅しちゃうのかな。というか、元々付き合ってもないもんね。ご飯して、カラオケ行って、ただ、キスをしただけ。
そのあと何度かメールのやり取りはしたけど、なんとなく気まずくて、ぎこちなかった。
そして、マチュから、リョウくんが隣の県に職場が異動になったことを聞いた。リョウくんからは全然聞いていない。私はやっぱりその程度だったのかな。あぁ、でもリョウくんも仕事忙しかったり、バタバタしてたのかもしれない。んーでも、メールひとつくらいくれてもいいよね〜。マチュに少しリョウくんの愚痴を言ってしまった。
『あのバカ……カヨっちホントにごめんやで……今度会った時ボコボコにしとくわ!』
『マチュいいよ〜、私もあまり何も言わなかったのも悪いし。もしかしたら何か色々あったのかもしれないし』
◇ ◇ ◇
気持ちのすれ違いって、ホントふとしたきっかけであるんだね。
もしあの時こうしていれば、あの時ちゃんとできてなくても、少しあとに気持ちをちゃんと伝えていれば。
私って、いつからこんな臆病になったんだろう。あぁ……リョウくんにもう一度会いたいな。お揃いのストラップなんてホントはなくていい。だってそのせいで仲良くできなくなったのなら、なくてもいいもん。
最後にひと言だけメールする?
というか、転勤先の方に会いに行ってみる?
とにかく電話してみる?
——ピローン♪
メールが来た。
『カヨちゃん、あの時はごめん。カヨちゃんが僕のために一生懸命選んでくれた、可愛いストラップ。自分が普段付けないっていう理由で嫌な言い方しちゃったやんね。結局それがきっかけで気まずくなって、連絡もしなくなって。転勤のことは伝えようと思ったんやけど、それだけ言うのも言いづらくて。もし……まだあのストラップまだ持ってたら、よかったら貰ってもいい? 今度連休取れそうやから、大阪に帰ろうと思ってて』
ずるい。今さらずるい。もぉ〜! もっと早く言ってくれたらよかったのに。でも……でも……私も思ったこと言わなきゃ。リョウくんにすぐ電話をかけた。
『もしもし……カヨちゃん?』
「リョウくん……私、リョウくんのこと、大好き」
気持ちを伝えることをせずに、モヤモヤした気持ちを引きずってしまうなら、いっそのこと泣いてしまうかもしれないけども、気持ちを伝えよう。
嫌なことがあったとしたら、その気持ちもちゃんと伝えよう。
思い通りにいかないことなんて、山ほどある。もし、ちゃんと話し合っても上手くいかなかったら、それはそれで仕方ないよね。
私、今まではちゃんと言えてなかったかもしれない。でも、リョウくんと知り合えて。ホントに良かった、って思ってる。
すれ違うこともあるよ。これからもあるかもしれない。でも、すれ違いの向こうにはまた再び出会う可能性もある。
私は冬生まれなのに、冬が苦手だった。だって寒いから。でもね、今年からは少しだけ、冬が好きになるかもしれない。




