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S.U.B.N.E.T. ~牛乳AIロボと40代のおっさんが築く、ゾンビ禍の秩序~  作者: gagriongalrion
日本編

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環境兵器:戦略的知性との遭遇と30分の活動限界


 次々とゾンビを倒していく折原と戦闘AIロボたち。腐食しないのも、火山ガス特有の腐食ガス向けに開発・生産されたナノセラミック複合装甲と自己修復コーティングのおかげであった。

「エリシオン、この腐食ガスの濃度。奴らの行動が、それを意図的に利用している可能性は?」

「解析中。ただし、単なる生物学的行動ではない、戦略的意図の可能性は98.2%です」

「かなりの高確率だな…。ということは、この先に知的ゾンビがいる可能性が高いってわけか。」

「はい、そうです。先ほどから火口に向け、ドローンを飛ばしていますが、1機も返ってきません。」

「よし、わかった。そこに向かおう。」

 折原の言葉に、周囲に随行していた特殊素材で覆われた最新鋭の戦闘AIロボット群が、一斉に駆動音を上げた。腐食ガスの影響を受けない特殊装甲が、硫黄の煙を撥ねのけながら、阿蘇山の火口へと続く、旧型のAIロボ部隊が撤退したばかりの道を突き進む。

――「エリシオン、周囲の地形データと旧型機体からの最終ログを統合せよ。敵が我々の進路に対し、次にどのような環境トラップや戦略を仕掛けてくるか、三段階で予測を出せ」

「解析完了しました。折原様。」


 エリシオンAIの無機質な声が折原の脳内を響く。

『予測されるのは、腐食ガスによる待ち伏せ、物理的な遮断、そして火口地形を利用した誘導。すべて敵の戦略的意図の範囲内です。』

 折原は、戦闘スーツのグローブを軽く握りしめた。40代の肉体はすでに訓練通りに反応を待っている。

「面白い。ただの獣ではなく、戦略を理解する敵か。……ならば、我々も最大の奥義をもって応えるまでだ。」


 知的ゾンビとの戦略的対決が、今、腐食ガスの渦巻く火口縁で幕を開けようとしていた。

 先を進むにつれ、ゾンビ達を順調に倒していく折原だが、ゾンビ達の奇妙な行動が気になった。手足を切られ、動けなくなったゾンビが這いながら火口に飛び込んで行っていた。

 火口に落ちたゾンビはすぐに大量の毒々しい煙を出しながら消し炭となり、やがてマグマの一部と化した。

「なっ?これは自殺か?いや、エリシオン、何かわかるか?」(周囲の煙が充満していくのを感じながら)

「これはただの自殺ではありません。」エリシオンAIの無機質な声に、微かな緊張が走る。

「これまで火口に飛び込んだ数百体のゾンビの体組織が、マグマに触媒として作用し、腐食ガスの濃度を急速に上昇させている可能性が高いです。警告。ガス濃度、耐久限界タイマー予測値を大幅に上回り急上昇。このままでは、最新装甲でも活動限界までの時間が短縮されます。」

「まさか…くそっ!自殺に見せかけた、環境兵器としての利用か!」

 折原は即座に叫んだ。「全機、火口縁から離脱しろ!奴らは、腐食ガス濃度を高め、我々を戦闘不能に陥らせるつもりだ!」


――知的ゾンビの冷徹な戦略は、常に折原の想定の斜め上を行く。


 しかし、エリシオンの戦闘準備に怠りはなかった。

 エリシオンは即座に腐食ガス濃度を下げるための浄化パウダーを上空のドローンによりばらまかれたのであった。

「んっ?視界がよくなったぞ。エリシオン、これは?」

「浄化パウダーです。これで腐食ガス濃度を下げ、視界度が改善されるでしょう。一時的にですが…」

「助かった。ナイス!」

 と、言いかけた折原であったが・・・、硫黄の煙の奥、一歩一歩静かに現れたのは、これまでのゾンビとは全く異なる存在であった。それはゾンビのようでありながら、朽ちかけた研究者の白衣を纏い、異様な知性を感じさせていた。


 しかし、決定的に異なる点がある。そこら辺にいるゾンビと違い、目の奥から強い意志を感じさせる、鋭い眼光を放っていた。

「これが『知的ゾンビ』ってやつか……ついに親玉が姿を現したか。だが……生きているようにも見えるが?」と折原。

「分析完了。呪いによる可能性が見られます」とエリシオン。

「呪い?ゾンビに噛まれたりとかじゃないのか?」

「いえ、現時点では断定できません。更なる分析が必要です。今は目の前の敵を最優先で注視してください。」

 知的ゾンビは、近くにいた一体に「オイ・・・オマエ・・ココニコイ」と人差し指でクイクイッと呼ぶと、手に持っていた丸薬をそのゾンビに飲ませた。

 途端にゾンビは苦悶の声を上げ、体が一気に膨張した。

 体が3倍の大きさになり、4~5mの巨体へと変貌。そのゾンビは咆哮を放ち、折原に向け、戦闘態勢をとる。

 知的ゾンビは「ククク・・・、オマエの相手は・・・コイツだ」と嘲笑し、いずこへともなく姿を消した。

「なっ、消えた?」

「エネルギー反応なし。奴はもうここにはいないようです」とエリシオン。

「ちっ、逃げやがったか。どうやらこのデカブツが相手のようだな」と折原。

 大きな咆哮と共に、4メートル超の巨体となった強化ゾンビが、硫黄の煙を巻き込みながら、地を蹴った。筋肉の塊と化した脚は信じられない速度を生み出し、その一歩ごとに地面を揺るがす。


――『エリシオン、攻撃予測だ。』

 折原は即座に命令した。

 その巨体は、一見、力任せの獣に見える。しかし、知的ゾンビが「丸薬」という手段を使った以上、その攻撃には何らかの意図が隠されているはずだ。

『解析完了。攻撃パターンは従来のゾンビと異なり、予測値外の加速かと思われます。ですが、回避は可能です。』

『目標、左2m移動。実行。』

 エリシオンAIの無機質な指示が、折原の聴覚中枢に直接響く。

 巨体の右腕が折原のいた空間を叩き潰す――そのコンマ数秒前、折原は既に地面を滑るように離脱していた。

 叩きつけられた地面はことごとく砕かれ、黒煙を上げる。

「危ないな。こんなの食らったらひとたまりもないな。」

 折原は冷静に状況を分析した。この場で長引かせれば、浄化パウダーの効果が薄まる前に、装甲が破壊されてしまう。

『最新型戦闘AIロボット隊、フォーメーションβへ移行。攻撃優先度は、四肢の動力源破壊に設定。』


 折原の周囲に随行していた三体の最新鋭AIロボが、一斉に巨体の周囲を走り始めた。彼らの装甲も特殊素材だが、長時間戦えることはできないだろう。短期決戦だ。

 戦闘は、時間との勝負。

『目標:右膝関節攻撃。実行。』

 一体のAIロボが巨体の懐に飛び込み、セラミック複合装甲を纏った義手から、高周波ブレードを展開した。それは、巨体が次の攻撃体勢を整える、わずか0.5秒の隙を突いた、エリシオンAIの計算による「最大効率」の一撃だった。

 巨体の膝関節は、強化された筋肉と硬化した皮膚によって守られていたが、高周波ブレードは熱と振動を同時に加えながら、その防御を深く抉った。

――キィィン!

 火花が散り、巨体がわずかにバランスを崩す。成功だ。しかし、完全に切断するには至らない。

 巨体となった強化ゾンビは、傷を負った右脚を無理やり引き上げ、まるで巨大な鉄槌のように、AIロボへ向けて振り下ろした。

 奴の皮膚は醜く硬化し、まるで表面が溶岩のように熱を持った黒い岩石を思わせる質感だ。丸薬によって急激に膨張した筋肉は、血管が浮き出て、生命活動の限界を超えた過剰なエネルギーを放っている。4メートル超の巨体が動くたび、体表から硫黄のガスとは違う微量の蒸気が立ち上る。

 AIロボは回避を試みるが、薬物による予測外の加速がそれを許さない。

 ドォン!

 叩き潰されたAIロボは、バラバラになった装甲片を硫黄の煙の中に撒き散らし、沈黙した。

 折原は、戦闘スーツの**HUDヘッドアップディスプレイに表示されたデータを瞬時に確認した。HUDの左上隅には、破壊されたAIロボの機体番号『RH-03』が【DECOMMISSIONED (解体)】と赤く表示されている。同時に、右下に表示された耐久限界タイマー(残り28分40秒)**の数字が、焦りを生む。

 破壊されたAIロボは、一機の製造に旧型AIロボ10体分の製造コストを費やしている。

「ちっ、予想以上に硬いか!」

 折原は、これ以上損害を出させないよう改めて状況を再構築する。

――脳裏に、かつてエリシオンと協議して、FXと株で得た巨大な資金を元手にベンチャー企業を買い取った後、旧型AIロボを量産する傍ら最新鋭のAIロボ部隊の増強を計画した日のことが蘇る。『リソースは消耗品。ただし、最大限の成果と引き換えであるべきだ』。それが折原の哲学だ。今回、AIロボの犠牲は、極めて重要なデータを残してくれた。犠牲は決して無駄ではない。

 彼は、必要なのは巨体が無防備になる一瞬の予備動作が、次の攻撃チャンスになると判断した。

『エリシオン、残りの2機を一時退避させろ。私が中央の囮となる。奴の大きな攻撃後の隙を2機が最大限のパワーで叩くんだ。』

『了解。目標:折原様を中央へ誘導。実行。』

 折原は戦闘スーツの推進器を起動させ、巨体の注意を引くように、わざと火口へと続く道の中央へ踏み込んだ。

「さあ、強化ゾンビとやら。俺が相手だ。」

 敵の戦略とAIの論理、そして人間の実行力が、硫黄の渦巻く阿蘇の火口で激突する。


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