表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
S.U.B.N.E.T. ~牛乳AIロボと40代のおっさんが築く、ゾンビ禍の秩序~  作者: gagriongalrion
日本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/14

牛乳戦士、覚醒の兆し:牛乳バフが運命を変える



 福岡県庁の戦場から帰還した折原は、戦後処理をAI戦闘ロボ達に任せた。

 ゾンビとの戦いが記憶に残っている中、要塞の食堂に足を踏み入れる。

 その違和感に、思わず苦笑した。――ついさっきまでゾンビと戦い合っていたのに、今は牛乳の話だ。

 窓の外では、暗い牛舎でブラウンスイス種の牛たちが静かに寝息を立てている。   

 日中はたくさん草やワラなどの飼料を食み、満足そうに寝ているのだろう。

 その穏やかな光景が、戦場の狂気とはあまりにも対照的だった。

 戦場で奪われたものを、少しでも取り戻せるなら――それが秩序だ。


 AIロボの報告が静かに響いた。 「折原様、乳量が安定するまであと2~3週間はかかりそうです。ここ1週間でようやくストックができ、避難民達の食料に供給可能です。さらにあと4日間のストックで、安定供給が可能となります。」

 折原は食後の生姜湯を一口含み、わずかに笑った。 「……お次は、牛乳か。」  

 エリシオンが続ける。 「予測では、4日間ごと、2日間ごと、1日間ごとと、徐々に短い間隔で乳量のストックが可能になります。避難民達に渡る必要な乳量は、確保できつつあります。」


 折原は目を丸くした。 「へぇ~っ、それはすごいなぁ!牛乳が好きな人には、飲むだけで幸福感がいっぱいだって聞いたぞ。城塞都市に居るみんなには朗報だな(^^)」

 実際、事実であった。 牛乳を飲むと幸福感が増すのは、主に牛乳に含まれているトリプトファンという必須アミノ酸の働きによるためである。

 それは脳内でセロトニンを生成し、心を安定させる――秩序を保つために必要なものだ。

 「まずは飲料として避難民に配給するのではなく、料理に使います。クリームシチュー、グラタン、そしてパン生地。温かい食事は、心を守る盾になります。」 エリシオンの声は、科学と哲学を併せ持つ響きだった。

 その時、背後からヌッと現れた影。 折原が振り向くと、そこにはエリシオンとヴァリシオンをかけて割ったような…少し似た美女型の調理師AIロボ…クレシオンが立っていた。

 ただ、その目は少し細く、どこか柔らかな光を宿している。 肩までのストレートヘア、シェフコート風の光沢ある制服。クレシオンの指先には微細な調理ツールが光り、湯気の立つカップを優雅に差し出した。まるでそのカップに注いだ液体は月光を閉じ込めたような輝きであった。

 「お待たせしました、折原様。」 その声は、エリシオンよりも親しみやすく、どこかおっとりしている。

 だが、料理に関しては完璧主義だと、折原はすぐに悟った。

手には湯気の立つホットミルク……いや、なんか色が怪しい。 (……なんで牛乳が銀色に光って、液体が生き物みたいに波打ってるんだよ!?)


折原は思わず、身を引いて声を上げた。 「おい、なんか銀色がかって光ってるし、微妙に波打ってないかこれ!? ……本当に牛乳だよな、これ!?」


 クレシオンはこれはとばかりにフンスッ!と胸を張って答えた。 「おっしゃる通りです!最新技術で乳糖を完全分解し、さらに栄養価を3倍にしました!」

 折原は血の気が引いた。 「3倍って……牛乳なのに、なんか超絶栄養食みたいな響きだな!プロテインも真っ青だぞ。しかも、液体が生き物みたいに波打っているぞ。」

 エリシオンは淡々と補足する。 「副作用はゼロです。むしろ、筋肉増強効果があります。」

 折原はカップを見つめ、ゴクリと唾を飲んだ。 「……これ、飲んだら俺、あの強化ゾンビより強くなるんじゃないか?」

 すかさずクレシオンは満面の笑みで答えた。「はい!折原様、今すぐお召し上がりください!」


 折原は心の中で叫んだ。 「俺、牛乳で筋肉増強って…もうプロテインは要らんやん!」(・・・やばい……俺、今日から牛乳でバフ※かかる人生になるのか!?えっ、もしかして…戦闘スーツについているあのカプセルは…)


※ゲームでよく聞く補助魔法や道具による強化効果のことである。


 「折原様、お考えの通りです。」 エリシオンの声が静かに響く。

 「あの戦闘スーツの秘密ですが、実はアークヴェロニアに装てんされたカプセルの中に入っている液体は、牛乳由来の成分で作られたものです。」

 折原の嫌な予感は当たっていた。あの戦闘スーツ『アークヴェロニア』に装填されたカプセルの中身――それは、牛乳由来の超高度強化成分だったのだ。

 どおりで、激戦の最中も疲労を感じず、恐怖に呑まれることもなかったわけだ。カプセルから自動補給される成分が、折原の精神と肉体を強制的に安定させていたのである。

 「……なあ、もしこのカプセルがなかったら、俺はどうなってた?」

「はい。折原様はとうの昔に絶命していたでしょう。あの巨大ゾンビに勝利できる確率は、もはや0%に等しかったはずです」エリシオンは、スン……と泣きそうな表情を見せて俯いた。

 「俺は牛乳戦士かよ。 どおりで以前はゾンビと聞いただけで逃げ回るのが精一杯だったのに、いざあの怪物の前に立ったら、なぜか腹が据わってたわけだ。……おまけに、いつもより寝つきまでいいしな」

 「当然です。それが秩序(牛乳)の力ですから」

 さっきまでの泣きべそはどこへやら。エリシオンは、これ以上ないほどのドヤ顔(フンス顔)で胸を張った。


 その時、横からヴァリシオンがヌッと現れた。

 片手にホットミルクココアを持ち、耳をピクピクさせながら笑顔を浮かべる。

「折原様♥ご機嫌いかが?今日の戦いは貴重なデータがたくさん取れたよ~!お疲れ様でした!」

「ああ、ヴァリシオンか。ちょっと聞いてくれよ。俺の戦闘スーツのカプセルの中には牛乳由来の強化剤が入っていたんだってよ。」

「うん、知ってる♥それがどうしたの?」

「…いや、どおりで年齢の割にはよく動けるし、すごく寝つきがいいなと思ってさ。」折原はヴァリシオンのピクピクさせている耳を見ていると、なんだか無性に触りたくなった。

「モフ…いや、ヴァリシオン。今日の戦闘だけど、アークヴェロニアが壊れちゃったんだよね。どうしようか…」


 折原はモフリオンと言いかけそうになったが、その時点でヴァリシオンは気づいていなかった。

 ヴァリシオンは耳をピクピクさせながら、にっこり笑った。 「心配しないで、折原様。次の戦闘スーツは、もっと美味しい強化カプセルを入れておくからね♪」

「俺は牛乳戦士かよ!!!」 この白き液体が、後に人類の秩序を守る鍵になるとは、折原はまだ気づきもしなかった…多分。


 折原は銀色に輝くホットミルクを一口、いや一気に飲み干した。乳糖不耐性のトラウマがよみがえるが…人類を救うためだ。折原の覚悟はいかほどか見せてくれる。

 その瞬間、体の奥で何かが弾けたような感覚が走る。

 心拍は落ち着き、視界がクリアになり、筋肉がわずかに浮き上がる。

(……なんだこれは…、体が軽い。まるで重力が半分になったみたいだ。)


 クレシオンが満面の笑みで言った。 「科学の勝利です!筋肉増強、精神安定、そして反応速度の向上。副作用ゼロ!」

 折原はカップを置き、ゴクリと唾を飲んだ。 「……俺、この牛乳でここまで強くなるのかよ。」

 ちょうどその時、ケイジが食堂に入ってきた。 「折原、なんか顔つき変わりましたね?まさか…この戦闘力は…あれを飲んだんですか?」

 ケイジはスキャンで折原の体つきや体温からデータを割り出した。

 折原はニヤリと笑った。 「ふっ、銀色の牛乳だ。バフ効果を確認するためにな、ちょうどよかった。ケイジ、ちょっと稽古に付き合え。」(まあ、どうせ断るだろうけど…)

「ああ、いいぜ!」と言われ、折原は「あれ?いつもならいつもなら「だが…断る。なぜ虎は訓練しないのか?元から強いからだよ。」とでも言うんじゃないかと思っていたよ。」 と言いつつ、場面は訓練ルームに移った。



 ケイジは木刀を構え、折原も同じく構える。 「じゃあ、軽くいなすとしますかね!」  

 次の瞬間、折原の姿が消えた。 ドゴォッ! 床がめり込むほどに砂煙が舞った。 「ふっ、早いな」 ケイジは一瞬の回避行動をさせながら言った。

「折原、動きが早いな。これなら今日の爪の長いゾンビとは楽勝だったかもしれんな」


 折原は心の中で叫んだ。(さすがは牛乳バフ、これは強すぎ!ワロタ。)

 折原の視界にケイジの動きがスローモーションに見えた。 折原は残像を作り、ケイジの周りを囲んだ。

 だが、ケイジは慌てる様子もなく、余裕で木刀を折原の足に打ち込んだ。

 見事折原の足に当たり、折原は倒れた。 「あれだけ早く動けたのに勝てないとは…」

 ケイジは「虎は牛乳を飲まない。だから、強いのだよ。」とどこかで聞いたようなセリフを吐き、ここを去った。イエヤスがどこからともなく現れ、「折原殿、勝つことばかりを考えるな。策は乳よりも濃しとも言いますぞ。負けぬ工夫こそ、天下を取る道ぞ。牛乳で強くなる心意気は良し。しかし、戦は乳ではなく策で勝つものぞ。」と言った。

 折原は「戦は乳じゃなく策…ある意味名言だけど、牛乳戦士としては複雑だな。」

 折原はハッとした。「いつの間にか俺は牛乳戦士に…いや… そうか…、俺は今まで力で勝とうとしていたんだ。これまで弱点を見つけ、策を使って勝ってきたんだよな。それにしても、ケイジの戦闘力は規格外だな。ははは・・・」と折原は苦笑いしたが、その目にはわずかな悔しさが残っていた。

 イエヤスは「そうです。折原殿。乳は力、策は知恵。知恵なき力は、ただの牛ぞ。」

 「俺、牛乳戦士から牛将軍に昇格できる日は来るのか…?って、いったい何の話をしているんだ?」 と言いながら、バスルームに向かうことにした。


 エリシオンが横で「ムフー」とドヤ顔。 「負けたけど、科学は裏切りません!」

 ヴァリシオンは耳をピクピクさせながら笑った。 「折原様、負けたけど、次はもっと美味しい強化カプセルを入れておくね♪」

 折原は頭を抱えた。 「あ~っ、俺はどうせ弱っちい牛乳戦士だよ!!!」


 折原はバスタブに入り、「あの牛乳バフ…すごいなぁ。おっさん化を軽減した上に力が湧いてきたもんなぁ。さすがエリシオンの科学というか…」

 突然、湯船に張られた湯面が揺れたかと思うと、エリシオンが出てきた。

「そうです。牛乳が世界を救います。秩序を作ります。」

折原「お前、いきなり風呂から出てくるなよ!」

 エリシオン「秩序はどこにでも現れます」

 こうして、風呂から上がった折原はしばらく黙った。

 牛乳瓶を見つめながら、何かを考えているようだった。そして、おもむろに左手を腰に当て、乳糖不耐性者向けの牛乳瓶を片手に飲み干したのだった。 「ぷはー、これだな。牛乳戦士、今日も生き延びた――そして世界は、牛乳で救われる。」と折原。

 そばにエリシオンもマネして飲んでいる。「私は冷たいミルクよりホットミルクの方が好きですね。」 「ほんとに理屈ばかりだな。おいしいかどうかなんだよ。」と突っ込む。

 この夜、牛乳戦士としての誇りを胸に、眠りについた。

 だが、折原は知らない。この牛乳バフが、次の戦場で運命を変えることを・・・。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ