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さきとさゆき

タイトルちょっと変えました。

 重たい、暗い、水の中にいた。なぜか、苦しくない。呼吸は出来ている。その中をサキはゆっくりと底へ底へと落ちていた。


 ここはどこ?

 見回しても、暗い水中が広がるばかり。まるで、真夜中の大海原へ放り込まれたようだ。だが、なぜか恐怖心や心細さはない。自分でも不思議なほど。それは、恐らく自分がここがどこなのか薄々、気づいているからだろう。

 確固たる証拠がないから何とも言えないけど。


 ふと、足元から光を感じて下を見ると、そこには青白く輝く───花園があった。どうやら、サキはその中心に向かって落ちて行っているようだ。

 近づくにつれ、花園の花たちが良く見えるようになった。


「わぁ」


 水の中だというのに、自分の声が聞こえた。口から泡がでて、はるか上にあるのであろう水面の闇に吸い込まれていく。

 花たちは全て、水色がかった驚くほど薄い硝子(ガラス)の破片のようなもので出来ていた。舞い散る花びらも硝子だ。触れたら、今にでも壊れてしまいそうなほど繊細。しかし、なぜか鋭さと力強さを感じた。

 

 底に足がついた。砂が静かに舞い上がる。

 あ。

 すると、いつの間にいたのだろうか、銀髪の少女がサキの目の前に立っていた。


「彼方は・・・」

「そう、私が沙雪よ」


 少女───沙雪はサキと同じ歳の気の強そうな感じのする娘だった。

 これが、本当の自分・・・

 サキは上辺(うわべ)の部分。今までそんなはずがないと思って───否、そんな事、考えたこともなかった。自分が偽物、作られたモノだと知らずに「自分こそが本物だ」と疑いもせずに生きてきた。それが今日、すべて崩れた。

 もう、何を言いたいのか、自分が何をしたいのか分からない。思考がグチャグチャだ。

 サキが頭を()きむしりたい衝動に駆られていると、沙雪が口を開いた。


「彼方が今、何を考えてるのか私には分からないけど、一つ言うわ。彼方は私の作った『子供』。そして、『理想』だわ」

「子供?・・・理想?」

「そう、私が二重人格(あなた)を作る時、自分の理想を詰め込んで設計したの。私の魂の一部を使って。だから、彼方は私の『子供』、そして『理想』でもあるの」


 沙雪が何を言わんとしているのか、サキにも分かった。見た目のまま、不器用な性格のらしい沙雪は自分なりにサキのことを励まそうとしているようだ。しかし、自分は所詮偽物。サキの心は複雑に多数の感情が入り混じったままだ。


「彼方、自分の事を『偽物』だと思ってない?」

「でも、そういう事ですよね?」

「違うわ。彼方は『意志ある仮面』。偽物なんかじゃない。そもそも、私と彼方の魂は完全に分かれているから、彼方は立派な一人の人間───いいえ、妖怪よ」

「え?」

「紫月も言っていたでしょう。『完全な二重人格』というのは魂が二つなの。彼方か私、どちらが働くかによって人格が変わる・・・だから、彼方は自立した一つの魂なのですわ!」


 ふと、サキの心にに光が差した。

 自分は偽物ではない。

 この事実がサキの入り混じった複雑な感情を少し、やわらげた。表情に出ていたのだろう。沙雪が「フッ」と満足そうに笑った。


「ありがとう」

「あら、自分から感謝されるなんて心外だわ。これからは言わなくていいから」


 照れたようにそっぽを向く沙雪。

 何だか、可愛いな。


「さて、これからどうしようかしら」

「そうですね」


 妖界に残るのか、紫月と結婚するか否か、周りに妖界の面々にはどう説明するのか(特に当主()霞夜(かすみよ)様だっけかに)、そして第一にどちらが()を支配するのか。

 考えることはたくさんある。


「私は、()の所有権はサキ、彼方でいいと思うわ」


 「所有権」って・・・

 その例え方には少々抵抗があるが、それより、沙雪(本体)ではなくサキ(仮面)が体を操ってもいいと沙雪が言ったことに驚いた。


「いいんですか?」

「ええ、どうせ、私では人間関係や妖怪関係はさっぱりうまくいかないと思うんですの。私の自慢のサキ(子供)ならうまくやり遂げれそうだし」

「いや、そんな。期待されても困りますって」


 サキだって、妖怪は分からないが人間関係をうまくやっているというような覚えはない。むしろ、問題ありまくりなような気がする。


「ま、私よりはうまいでしょう?」

「は、はぁ」


 とりあえず、このままだと無理にでも押し付けてきそうなので、お言葉に甘えて、ありがたく体の「所有権」はいただいた。


「そして、妖界に残るか、紫月と結婚するかってことなのですけど・・・これも、サキ任せよ」

「えっ」


 なんか、さっきから思うのだが、一方的に話が進まされてないだろうか。というか、任されっぱなしではないだろうか。まぁ、それで沙雪が良いと思っているのならいいのだが・・・


「私は・・・妖界に残りたいです」

「それはなぜですの?」

「自分の本当の正体を知ってしまった以上、人間界に戻っても普通に、今まで通りに生きてけないと思うんです。それに、ここで人間界に戻るのは本当の自分から『逃避』しているようで、悔しいんです」

「そうなの・・・だとすると、紫月との結婚は避けれないと思うけど」

「え、どうしてですか」


 沙雪が婚約破棄したって言ってなかったっけ?

 ものすごく、嫌な予感がした。いや、悪寒がした。


「紫月からの復讐よ。お母さまが死んでいるとお父様に伝える時、情報料として結婚を申し出たらしいわ」

「・・・」

「その上に、()()捜索依頼料も兼ねてると思うから絶対に断れないと思うわよ。後、『私、サキちゃんのことが好きになっちゃった』って言ってましたわ」


 オゾゾゾゾゾゾッ!

 すごく寒気がした。でも、なぜだかそのことが「苦じゃない」と思っている自分がいる。これは、サキにとっても驚きで何よりも不思議だった。

 なんでだ?


「私は結婚には反対だけど、さっきのサキの話で私はサキに妖界にいてほしいと思うし・・・言っとくけど、紫月は最悪な性格よ。それでもいいのなら残るべきだと思うわ」


 ・・・どうしよう

 サキは迷っていた。紫月と結婚するのか否か───つまり、妖界に残るのか人間界に行くのか。自分はどちらがいい?

 紫月の顔を思い浮かべた。

 ・・・


「・・・起きてから、考えようと思います」

「分かったわ。心行くまで悩みなさい」


 沙雪は突き放しているようにも聞こえるようなことを言っているが、逆にサキはそちらの方がやりやすかった。


 その後も、サキと沙雪は話し合った。妖界に残ることとして、人間界に行くとして・・・色々な事態を予想しながらその対策を立てた。

 そして、残るはサキの決断次第という事になった。サキは心の中ですでに決断が決まりつつあった。だが、話し合いの最後まで踏み切れなかった。


 ありがとう。

 口に出すと怒られそうな気がするので、心の中でそう言いながら、サキは沙雪に背を向けた。

 戻り方は本能的に分かっていた。地面を蹴ればいい、それだけだ。


 サキは水色の破片とともに水中へ飛び上がり、決断の暗い大海原へと泳ぎだした。ふと、そのとたん何かが決まったような気がして、後ろを振り返った。

 小さくなる沙雪が見えた。そのとたんに答えは決まった。


「私、妖界に残ります!」


 すると沙雪は一瞬驚いた顔をし、そのあと、満面の笑みで笑った。普段は仏頂面に近いが、笑うととても輝いて見えた。

 サキは意外だった。てっきり沙雪は悲しそうな顔をすると思っていたからだ。


「分かったわ!頑張るのよ!」

「はい!」


 自分には合わないが、元気に返事をしてみた。

 どんどん上に体が登って行く。それと同時に意識も薄れていった。


 さあ、起きたらそこからが戦いだ。


読了ありがとうございます。一山、終わりましたー。これからは日常回書いてく心算です。なお、これから「咲希」は「サキ」と表記いたします。


自分の作品がどれほどのものか知りたいので、評価などなど、どうぞよろしくお願いします。


(不定期更新なので、とても空くことがあります)

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