紫月と沙雪
バトル回です!
銀次は目の前で起きていることが信じられなかった。
確かに、紫月の言っている事は筋が通っており、裏付けもしっかりとなされている。しかし、その言っている真実がいかにも信じがたいものなのだ。素直に「ああそうか」と言えるものではない。
「咲希が沙雪様だ」なんて、最初から咲希のことを「人間ではない」と決めてかからないと出ない結論だ。アイツはいつからこのことに気づいていたのだ?まさか、咲希がこの世界に来たその時から・・・?
分からない。紫月は普段は自由奔放な変猫人である。だが、時として底知れなさを感じさせる部分がある。委員が集まらず、ほぼ機能していなかった〈烏天狗〉をここまで復活させたのは紫月だ。・・・紫月には俺に分からない何かが映っている。
紫月が咲希に何か耳打ちをした。そのとたん、咲希の髪が白く染まり始める。──否、白へ戻っているのだ。それと同時にどこからともなく水色がかったひし形の硝子の破片が紫月を襲う。
紫月はまるでそれをあらかじめ予想していたかのように俺の所まで後ろに飛びのき、それを回避する。
すべて、一瞬の中の出来事だった。動体視力のよい俺の目にもまるで世界を倍速にしたかのように見えた。
「大丈夫か」
「うん」
紫月のもとに駆け寄ると、何事もなくこちらを向いた。安堵するのも束の間、俺は紫月の左前髪の一房が不自然に切れていることに気づいた。恐らく、間一髪で避けたのだろう。
「まったく・・・思わず、冷や汗が出たよ」
「お褒めに預かり、まったく光栄ではありませんわ」
紫月が着地した衝撃で舞い散る花吹雪の向こう側から咲希───否、十七歳の沙雪が言う。声は咲希と全く同じだが、口調に尖りと少しの高慢さを感じる。
「かぐや姫様にも程があるよ。三日で十年老けて、十年分強いだなんて」
「『老けて』?『大きくなって』の間違いではありませんこと?親のように成長を喜んでくださいませ」
紫月・沙雪、両者ともに穏やかな笑みを浮かべている。しかし、俺には絶対零度の猛吹雪が吹いているようにしか思えない。
「さて、咲希との約束通り、人間界に帰してもらえるのかしら?」
「いいや、それは無理だよ。だって私、まだ沙雪ちゃんのことも好きだけど、咲希ちゃんのことも好きになっちゃったんだもの」
「結婚したいと?無理でしょう。私によって婚約は破棄されておりますわ」
「いいや、私が雪華家に『花吹雪様は死んでいる』と連絡した時に、情報料として結婚をさせてもらうことにしたんだ」
「そうですの・・・なら、なおさら結婚させれないわ。私にとって咲希は大事な子供のようなものですもの」
つまり、そこから咲希が人間ではないことに紫月は気づいていた。
思ってみればその通りだった。咲希の妖界への順応性は人間の比にならないほどだったし、瞳が光の加減によって水色に見えていた。ただの人間ではないことは俺にも分かっていた。だが、「咲希は人間だ」と決めつける自分が今回、邪魔になっていた。我ながら、馬鹿である。
沙雪は少し考えこむと、先ほどの硝子片を手のひらの上で躍らせた。
「では、拳で解決する他ありませんわね・・・」
「フフフ、それを待っていたよ。手合わせするのはいつぶりかな」
両者が不敵な笑みを浮かべた所で戦闘は開始された。
開始されるが早いか、沙雪が攻撃を仕掛け、先手を取った。自分の〈特殊妖術〉を自在に操り、右に左に上に下にと攪乱を入れつつ紫月へ迫る。紫月は冷静にそれを前に飛ぶことで回避。沙雪の上を取り、大きな隙となっていた背中に蹴りを入れる。
しかし、沙雪は背中へと迫る足の気配を感じ取り、前に反転してよける。そしてすぐ、バネのように飛び上がり、まだ空中にいる紫月との距離を一気に縮めた。
そして、まだ体制の整っていない紫月の頭を破片で狙う。紫月はそれを頭を軽く動かすことで避けようとしたが、別の方向からやってくる破片の群れが目に映った。
──どちらが嘘か──
その二射一択が紫月の動きを鈍らせた。
「ぐっ・・・!」
紫月のこめかみに鈍い痛みが走る。紫月の体は数米先の地面へ吹っ飛ばされた。紫月が地面に落ちた衝撃で、花びらが舞い散る。
「わざと、切れ味を悪くしたね・・・?」
「あら、よくわかりましたこと」
紫月はこめかみを押さえながら立ち上がった。こめかみからはドクドクと血が流れていた。
沙雪の〈特殊妖術〉は切れ味が命。しかし、沙雪はあえてそれを鈍くし投石が当たったようにすることで紫月により、痛手を与える仕様になっていた。
「今、殴りたい気分でしたので」
「あは、かなり強くなってるなぁ。技の種類も攪乱のかけ方も・・・」
紫月はうれしそうに笑いながらこめかみから手を離した。血はすでに止まっている。
「でも、成長していない。だから、私には勝てないよ」
「何をほざいているのかし・・・ら!」
沙雪は俺と紫月の視界いっぱいに破片を出すと一斉に紫月を襲わせた。これは流石の俺でも冷汗が出た。紫月はこれをどうよけるつもりなのだろうか。
チラリと紫月を見ると・・・涼しそうに笑みを浮かべていた。
「ハハハ、やっぱり幼稚だ・・・」
余裕綽々でつぶやくと、紫月はスッと左手を前に出した。まるで、空気をなでるように。
今、飛んでくる硝子の破片を制するように。
「───《同一妖力体 吸》」
その瞬間、沙雪の放った破片が紫月の手のひらへ吸い込まれた──否、吸収された。
「なっ!?〈特殊妖術〉!?」
沙雪が驚きの声を上げる。それは俺も同じだった。俺も紫月との付き合いは一年と少しになるが、紫月が〈特殊妖術〉者だという事は今、初めて知ったことだ。まぁ、高々、一年の付き合いの友達に言う事ではないと紫月が判断したのだろう。
〈特殊妖術〉は妖術者の二十人中三人に発現する。個々人で妖術の性質が違い「妖術名」がある。俺も沙雪も〈特殊妖術〉者だ。しかし、紫月のように〈家系妖術〉をもっている者には〈特殊妖術〉者は少ない。というか零割に近い。
俺も沙雪も紫月がそんな零に近しい存在だったことは全くもって予想していなかった。これによって、戦況は逆転した。
「私の勝ち」
子供のように紫月は笑うと地面を蹴り、一気に沙雪との距離を詰めた。
すさまじい音を立てて、沙雪の体が数米先の地面にたたきつけられた。
「がッ」
「さて、そろそろこの戦いを終わらそうか。全くもって不本意だけど。これ以上、花を散らすのは私の趣味じゃないし、庭師のアキツさんに怒られるからね」
そういいながら紫月は立ち上がりかけている沙雪のもとへ優雅に歩いて行った。そして、その首の後ろを追い打ちをかけるように手刀で打った。
沙雪は糸が切れた人形にようにその場に倒れた。
「はい、事件解決」
前置きの割に、本題はあっけなく終わってしまった。
俺はこちらにⅤサインを送る親友に、ただただ呆れるしかなかった。
読了ありがとうございます。
ここで言うのもなんなんですけど、咲希の語りが三人称と一人称の間をさまよってるのは、二重人格の名残って言う設定なんです。言い訳じゃありません。
自分の作品がどれほどのものか知りたいので、評価などなどよろしくお願いします。
(不定期更新なので、とても空くことがあります)




