謎解きタイムーしかしここは妖界ですー
5000文字超えてます。覚悟してください。
「さて、これから沙雪ちゃんの居所を〈時空記録帳〉で確認する訳だけど、その前に咲希ちゃん、君が妖界にどうやって来たのか今一度説明させてくれないかな?参考として」
咲希が不本意ながら紫月を心の中で殴ることで怒りを鎮めていると、紫月が勝手に司会進行を始めた。
「・・・はい」
「推理」などと大仰な言葉を使ったにしては、紫月が少しずれた質問をしてきたので咲希は少々、拍子抜けした。しかし、紫月も紫月で考えがあると思う・・・ので、咲希はとりあえず言われた通りに自分がどういう経緯で妖界にやってきたのか、淡々と話し始めた。
○ ○ ○
私は交通事故にあって、妖界に来たんです。いや、正確に言うと、事故にあう直前に妖界にやってきたんだと思います。こちらに来た時、私の体にダメージはありませんでしたので。・・・えっと、事故にあった時の詳しい描写が必要なんですか?───分かりました。
私はその日、人生初の彼氏と近くのショッピングモールに行く予定だったんです。なんですか、二人とも。その可哀そうなものでも見るような眼は・・・?
まぁ、いいです。簡潔の言うと、私達はその道中の交差点で事故にあったんです。今思うと、すごかったですね。トラックが目の前にから突っ込んできたんですよ。バーンッて。
彼氏は多分、軽症で済んでいると思います。何せ、
私を突き飛ばして回避してたので───
後は、彼方達の知る通りです。気づいたら紫月の『館』の庭にいて、お姫様抱っこで運ばれてたんです。話によると、この庭の桜の木の下に居眠りするように寄りかかって眠ってたらしいですね。それを紫月が見つけて運んでくれてたとか・・・。
紫月、とぼけるんじゃありませんよ。
○ ○ ○
「「・・・」」
咲希が話し終えると、紫月と銀次はしばらく何も言わなかった。沈黙の中、庭の花々が夕風にサワサワと揺れた。それに驚いて、まるで幽霊のような半透明の蝶が空に舞い上がった。
あれ?
「どうしたんですか?」
「いや、何度聞いてもひどい話だ、と思ってな」
「うん、そうだね。彼女を犠牲にして自分が助かるだなんて・・・」
「別に大丈夫ですよ、人間とはそういうものだと思ってますから」
「「・・・・・」」
重い空気が流れた。
あれ、何かおかしな事を言ったか?
咲希は首を傾げた。紫月と銀次は何を考えてそんな顔をしているのだろうか。
数秒の沈黙の後、紫月が懸命に話を進めようと笑顔を作って切り出した。
「まぁそれはともかく、次は銀次、よろしく」
「あ、ああ、分かった。こちらは雪華家の有力な情報を持っているであろう人物を回れるだけ回った。しかし、あの下女以上の情報は得られなかったな」
「そうですか、お疲れさまでした」
「い、いや、どうも・・・」
なんだか、気まずそうな銀次。もしや、中々〈時空記録帳〉に出会えなかったのは・・・
咲希はある結論に至った。まだ憶測の段階だが、確信はある。
「そういえば、紫月さんも何か気になることがあるって言ってましたが、何か分かったんですか?」
「フフフ、秘密。後でね」
人差し指を口の前に持ってくる紫月。何だか妙に色っぽい。その一方で、目の奥は心ここにあらずとでも言うように何かを考えている気もした。
「そういえば、中々〈時空記録帳〉に出会えなかったんですけど、これって『時空乱流』とかと関係あります?」
「! そ、そうだけど」
会話の流れに乗って咲希が質問すると、紫月と銀次はビクリと体を震わせた。
おやおや・・・
憶測が推測に変わりつつあった。咲希は更に紫月と銀次に追い打ちをかける。
「そうなんですか・・・まさかとは思いますけど、こうなる事を知っていて私にこの仕事を押し付けたんじゃありませんよね」
「「!!」」
やっぱり。
紫月は意外に表情が読み取りにくいので分からないが紫月が咲希に頼んでいた時、銀次の表情がどこか申し訳なさと憐みを含んでいた。妖怪に当てはまるか正直不安だったが、「仕方なしに面倒ごとを押し付けている」という顔だった。本人は気づいていないようだったが。
「へぇー」
「「・・・」」
「完全にばれてましたよ。芝居だって」
途中から気づいたんだけど。
非常に気まずそうな紫月と銀次。ジーッと見ている(睨んでいる)と「ごめん!」「すまん!」と見事に同時発声して謝ってきた。
「・・・・・」
なんだか、面白いものが見れた。不服だが、今回ばかりは許してやろう。
「と、とにかく、ここで〈時空記録帳〉見てみようか。少なくとも、これで二人が人間界にいるか妖界にいるかもわかるし。ま、ほぼ人間界にいることは分かっているんだけど・・・はい、操作よろしく」
「え、なんですか」
突然、〈時空記録帳〉を渡された咲希は右往左往した。そんな咲希を見て紫月は面白そうに笑う。さっきの動揺っぷりはどこへやら。もしかして、仕返しの心算だろうか。だとしたら、飛んだ筋違いだ。
コイツ・・・絶対いつか殺す!
「この中に入るんだよ。ほら銀次、私と手をつないで。で、私は咲希ちゃんと・・・」
「嫌です」
咲希は反射的に後ずさったが、紫月が素早く動いて手首を掴まれた。銀次に憐みの目を向けられる。怒りが再沸騰を始めた。
「・・・」
「咲希、抑えろ」
「じゃ、咲希ちゃん、鏡の上の赤い石を押して」
覚えてろよ。
紫月をこのまま背負い投げしたい気持ちを我慢して、咲希は紫月に手首を掴まれている方の手で鏡の上の赤く輝く石を押した。
そのとたん、咲希達は鏡の中に吸い込まれた。アニメみたいなことが目の前だけならず、この身に起きた。
なんとなく、予想はしてたけど・・・
頭の中で再現するのと実際に体験するのではやはり、何か違う。
驚く暇もなく、気が付いた時には真っ白な空間にいた。上下も左右も分からない無重力空間。モヤモヤした黒いものがそこいら辺に漂っている。
「皆、いる?」
「はい、います」
「ああ、いるぞ」
「よし。〈時空記録帳〉、六日前に連れてって」
紫月は全員いることを確かめるとアレ○サに話しかけるように何かに向かって命令した。すると、いきなり後ろから見えない力で押された。結果、咲希達は高速で前進することになった。
結構強い。気を抜くと放り出されそうだ。
「わっ・・・」
「気を付けて。今手を離したら一生迷子になるよ」
「・・・はい」
まことに不本意ながら、咲希は紫月の手をぎゅっと握った。
なんか、ド○えもんのタイムマシンみたいだな・・・
ふと、咲希はこの前彼氏と家で見た映画をしみじみと思い出した。
押されながら高速で移動すること数分、突然、フッと後ろからの力がなくなった。
「着いたね」
「着いた・・・んですか?」
さっきと何ら変わらない景色に咲希は首を傾げた。変わった所があるとすれば、モヤモヤの位置くらいだろうか。
「んー・・・どうやら、『時空乱流』の所為で六日前の人間界と妖界の時間が十年ほどずれてるな。お陰で妖力の跡が混雑している」
銀次が所狭しと漂うモヤモヤを見てつぶやいた。
確かに、心なしかモヤモヤが先ほどより多く、混雑しているような気がする。
「さ、調査を始めようか」
「え、何をするんですか?」
「紫月が〈家系妖術〉を使い、沙雪様と花吹雪様の妖力の足取りを見るんだ」
「?」
咲希が『かけいいようじゅつ』という言葉に首を傾げると、銀次が丁寧に教えてくれた。
〈家系妖術〉とは文字通り、家系で受け継がれる妖術らしい。平民(農民や町人)には発現することはまずなく、力の強い者───武家や公家、天王家の者に多く発現するらしい。そもそも妖術を使える妖怪は少なく、平民では十人中四人しか使えないという。
余談だが、その妖術が使える者の二十人中三人に〈特殊妖術〉が使える者がいるらしい。
「それで、紫月の〈家系妖術〉は『妖力判別』妖力を色で判別する。妖力の鑑定、追跡にうってつけだ」
すごいな。
純粋に驚き、すごいと思ったが、それを口に出すと紫月がふんぞり返る。それは非常に腹立たしいので咲希はホウホウと頷くだけにとどめた。
「そういう、銀次は平民には珍しい〈特殊妖術〉者なんだけどね。さ、発動するから手を離して」
「はい」
「おう」
ん?今、もっとすごいことを聞いたような?
「────『妖力判別』」
───!!
そのとたん、紫月の黒い夜空のような瞳に虹色の光が加わった。雰囲気も先程の飄々としたものとは違う、人知を超えた物に変わっている。
これが妖術。
咲希は息をのんで自分の見えないものを見る紫月を見守った。
「あった!」
「お!それはどこだ?」
「こっち」
紫月の案内で白い空間の中を泳ぐように移動して沙雪と花吹雪の妖力の跡の所まで行くと、モヤモヤが何やら形を取り始めた。
逃げるように走る銀髪、水色の瞳の少女とそれを追うような恰好をしている髪がメデューサのように無数の白蛇でできている女。こちらも、瞳が水色だ。なるほど、確かにこの二人が親子であることが外見から分かる。
〈時空記録帳〉には時空を渡っている間の状況も記録しているらしい。恐らく、これが沙雪と花吹雪で間違いないだろう。よく見ると、二人の頭上に「人間界」と達筆な筆文字で書かれていた。行先も表示されるようだ。
「間違いないね。やっぱり、沙雪ちゃんと花吹雪様は人間界に行った」
「紫月の予想が当たったな」
「うん。でも一応、今の時間に戻りながらこの妖術を使おうと思う」
「? それはなぜだ?」
「ああ、そうでした。まだ、沙雪様が妖界にいるという可能性がぬぐえてません」
「じゃ、〈時空記録帳〉、元の時間に連れてって。一日ずつ」
また、紫月の声とともに咲希達は見えない強い力に押され、今度は元の時間に向かって、一日ずつ戻った。
◇ ◇ ◇
「・・・どうですか」
咲希は〈家系妖術〉を発動させて三日前の〈時空記録帳〉内を見渡す紫月に尋ねた。
四日前の記録は先程調べ終えたばかり、今は、今日の分の記録を調べている。ちなみに、四日前と五日前の記録には沙雪の妖力の痕跡はなかった。
「んー、微妙だけど、ここいら辺に跡がある気がする」
紫月は近くにあった見えるか見えないかというほど薄い、モヤモヤを指さして言った。側に筆で描いたような実線がある。これはなんだろうか。
「本当か!沙雪様は三日前、帰ってきているのか!?」
「こうやって近くに来ても反応しないから、本当に微妙なんだけど」
そういうと、紫月は目の前の実線を指さした。
「この実線は咲希ちゃんが妖界に来た時のものだろうね。だとすると、沙雪ちゃんは咲希ちゃんが人間界から来た時に同時に同じ場所に戻ってきたって可能性が高い。とりあえず、私の庭に戻って桜の木の所を妖術と〈時空記録帳〉を併用して見てみようか」
「そうだな」
よく分からないが、銀次がうなずいたので咲希達は元の時間の『館』の庭へ戻ることになった。
〈時空記録帳〉から出ると辺りは暗くなっていて、庭に点在している街灯のような照明に明かりがともっていた。
その中、咲希達は庭の崖っぷちにある桜の木が鏡に映るように〈時空記録帳〉を椅子に縛り付けた。なお、縛り付けるための紐は紫月が持っているものを使った。ベストの裏側から棕櫚縄が次から次へと出てくる光景は少しシュールだった。
何、隠し持ってんだよ
「咲希ちゃん、さっき押した赤い石の隣にある緑色の石押して。あ、二つ同時にね」
咲希は言われたままに緑色の二つの石を同時に押した。すると、桜の木に先ほど〈時空記録帳〉の中で見たモヤモヤしたものが鏡の中に映し出された。よく見ると、鏡に映りこんでいる紫月と銀次の周りにも同じものが見える。
「映りよし。〈時空記録帳〉、三日前の午前十時ごろの様子を見せて」
紫月がそういうと、鏡の中の景色が変化した。
サンサンと照る午前の光の中、桜の花が白く輝きながら降っている。思わず鏡から目をあげて桜の木の方を見ると、変化はない。また、目を鏡の中に戻すとなんと咲希達が映っていなかった。
どうやら、「映し出される景色だけが三日前になっている」ようだった。そこにもあの黒いモヤモヤが映っている。実線も見えた。
「どうだ、紫月」
「・・・」
銀次が問いかけると、紫月は黙りこくったまま〈時空記録帳〉を凝視した。既に妖術を発動させたらしく、目の中に虹色の光がある。
「・・・やっぱり、沙雪ちゃんは妖界に戻っている」
「また、紫月さんの勘が当たりましたね」
「ああ。しかし、これで足引零。捜索は一から始めるようだな」
銀次の言うとおりだ。沙雪が妖界にいるとは分かったが、居場所が分かったわけではない。また、捜査をする必要がある。
まだ手伝うのか・・・
咲希がうんざりしかけた時だった。
「いや、私、沙雪ちゃんの居場所が分かったよ」
〈時空記録帳〉をもとの時間に戻していた紫月が突然、そう言った。
は?
銀次もそう思ったことだろう。思わず、紫月をポカンと見つめる咲希と銀次。対する紫月は、目が何処か遠くの景色を映しているように見えた。
「説明するより、見せた方がいいだろう。もっと広いところに移動しようか。沙雪ちゃんは隠れてなんかいない。もっと、単純なところにいる」
紫月は有無を言わせない声でそう言った。その視線は、〈時空記録帳〉に移る景色を見ていた。
読了ありがとうございます。
自分の作品がどれほどのものか知りたいので、評価などなどよろしくお願いします。
(不定期更新なので、とても空くことがあります)




