〈烏天狗〉
改修工事、完了!
さて、この『館』の住人の共通点を上げると、
・九頭竜学園に通っていること
・何かと問題児な事
この二つともう一つ。
・九頭竜学園の風紀委員会〈烏天狗〉に入っていること
〈烏天狗〉とは表向きは九頭竜学園の風紀委員会だが実際の所、「何でも屋兼探偵屋」のような組織だ。活動の内容は喧嘩の仲裁、たまに校内で起こる事件の現場保持・解決その他いろいろ、生徒会がさばききれない仕事が回ってくる。名前の由来は妖界のこの地域「東領」の警視庁的存在〈天狗〉からとったらしく、名前に負けず刑事のような仕事もやって来るらしい。
この組織に「ついでだから」と入れられたた咲希だが、今日の今日まで活動らしい活動はなく平和に暮らしていた。後で聞いたら咲希に活動の手伝いが回ってこないよう、銀次が操作していたらしい。
今回の依頼は「咲希でも大丈夫だろう」と銀次が判断したため回ってきたらしいが・・・
まさか、あんな結末になるなんて、この時点では誰も思っていなかったことだろう。
◇ ◇ ◇
「今回の『妖怪探し』の依頼人は雪華家当主、霞夜様から。御息女の消息が学園内で六日前の夕方から絶たれているため、安否を確認してほしいとのことだ」
淡々と依頼書を読む銀次の声を隣で聞きながら咲希は朝の九頭竜学園の廊下を歩いていた。
実は安全確保のためこの学園に一時的入学している咲希だが、別に「人間界に帰るまでの期間、一日くらい顔を出せばよい」と言われているので、この二日間は『館』にこもっていた。
べ、別に妖怪が怖いわけではない
ともかく、咲希は妖怪三日目にして初めて、九頭竜学園に登校したのだ。
九頭竜学園は全校生徒五千人というかなり大規模な小中高一貫の学校で、五つの大山に囲まれた盆地に「本部塔」と「円形特別教室棟」。
その地下には普通教室の群れと巨大な図書館。東の山には〈正門〉と「東寮」その他の山にそれぞれ「西・南・北寮」そして「鬼門寮」があるらしい。
こんな大きな学校は人間界でも見たことないので、今日の朝初めて見た時には思わず感嘆の声(ボー読み)が出た。
ところで、紫月と銀次の案内の中で一番驚いたのは咲希が泊っている『館』が以外にもこの学園と近かったことだ。と言うのも、『館』は九頭竜学園を取り囲む山の外側に設置された警備を兼ねた〈崖〉と呼ばれる所だったのだ。
今、咲希達が歩いているのは本部塔と円形特別教室棟の間にあるグランドも整備された広大な中庭の遊歩道だ。植えられた木が朝の光を程よく遮り、道に光の揺らめきを散らしている。
「消息が絶たれた・・・ですか?」
「ああ。御息女、沙雪様はこういうのが前々からたまにあるお方なんだが・・・六日も連絡がないのは異常だな」
「そうだね。なんかあるとしか思えない、と霞夜様は考えた訳だ。うーん」
銀次の隣を歩く紫月が中指をこめかみに突き付けながらうなった。銀次は報告書に再び目を落として今度は沙雪というお嬢様(?)の消息を絶つまでの様子を読み上げた。
沙雪は消息を絶つ直前、実の母である花吹雪と会っている事以外、特に変わったところはない。しかし、その母・花吹雪とは前々から仲が悪いらしく、殴り合いのけんかもしばしば・・・ここに何かありそうだが、咲希にはその何かが掴めない。
情報が少なすぎる。ここから沙雪の居場所を突き止めろ、というのは難しすぎないだろうか。
「それで、この報告を受けた後、俺は雪華家の有力な情報を持っているであろう人物を回れるだけ回った。その中で沙雪様と花吹雪様の面会に立ち会ったという下女に話を聞くことができた」
「お、仕事が早いね」
「ホウホウ」
「い、いや、それほどでも・・・とはいってもその下女は面会の間中、部屋外で扉の前に立っていただけなんだがな」
普通にほめると銀次は猫のように頭をなでながらそっぽを向いた。
あ、なんかかわいい。
ほめると、分かりやすく照れ隠しをする。紫月が銀次のことをよくいじる理由が分かったような気がした。
〇 〇 〇
下女の話によると、その日面会に来た花吹雪様と沙雪様の様子はいつも通りに剣呑だったそうだ。面会も中盤。通常にしては平穏に進む中、花吹雪様が沙雪様と自分を部屋に二人きりにしてほしいと言ったんだ。
そのとたん、沙雪様の雰囲気がガラッと変わったそうだ。下女が言うに、無表情だったが何か気配が変わった、とのこと。
下女は後ろ髪を引かれるような気持ちで退出。部屋の扉の前で待つことにしたそうだ。
その後、しばらく防音の壁を越えて聞こえてくるほどの言い争い、喧嘩音。ここまでは下女は予想していたそうだが、この後突然、物音一つも聞こえなくなった。下女が反対に心配になって思わず扉を開けると、中には穏やかに言葉を交わしている二人。
下女は大変不自然に思ったが、面会は不自然なほど何のこともなく済み、花吹雪様は帰り沙雪様はそのまま部屋にこもったそうだ。そして、他の下女が沙雪様を夕食ができた、とに呼びに行った時、いないことに気づいたそうだ。それまで沙雪様の部屋から出た物も入った者もいない。これは部屋の前に立っていた護衛と庭師が証言した。沙雪様は密室から消えたんだ。煙のようにな。
俺が聞けたのはここまでだったな。あ、それから、花吹雪様も同時刻に姿を消していたらしい。こちらは事が大きくなると困るので霞夜様が雪華家の影部隊を使って捜索中だ。
間違っても口外するなよ。
○ ○ ○
銀次の語りが上手いのもあるのだろうか。下女の言っていたことは報告書よりもより詳しくて、その場の状況が分かりやすかった。
しかし、これで何か進歩したのか?
情報は報告書と何ら、変わらない気がした。むしろ、謎が増えた気がする。密室で何が話し合われたのか。なぜ、喧嘩音の後と前で二人の行動および性格が正反対なのか。
分からーーん
咲希のような素人にはさっぱりである。
「どうだ、紫月。ここまで話を聞いてなんか分かったか?」
おや、意外。
紫月は自由奔放な変人だ。とても頭脳派な感じではない。優等生な銀次がそんな紫月に意見を求めるのは、何だか意外だった。
「そうだねぇ。失踪後の花吹雪様と沙雪ちゃんの部屋には紙切れが落ちてたんだろう?喧嘩音の後の二人の性格も真反対になっている。・・・多分それは、式神でも使ったんじゃないかな」
「ああ、それは俺も考えている」
式神・・・
人間界じゃ絶対にない発想だ。これは沙雪の居場所を突き止めるのは妖界の住人である紫月と銀次に任せた方がよさそうだ。
「後、面会に使われた部屋は少し空間に『揺らぎ』があったんだろう?それは恐らく・・・人間界に通じる〈扉〉でも開いたんじゃないかな。六日前は『時空乱流』で時空が荒れまくりだったし、開きやすかったのだと思う」
うわー
もう、話についていけない。咲希は思考を停止することにした。手伝いの咲希は結論を聞くだけで十分だと判断する。
「なるほど・・・となると、刺客というセンもあるな」
「だね。んー、でも微妙だな」
なんですか、刺客って。物騒な言葉だ。非常にきな臭い。
「ともかく、二人は人間界に行っている可能性があるな」
「いや、でも『人間界に行って、帰ってきた』と言う可能性があるよ。一応、〈時空記録帳〉を確認しようか。可能性を一つでも潰すために。でも、妖力があると〈時空記録帳〉に跡が残って『刺客のセン』ならから、まずいことになる。どうすれば・・・」
紫月はそこまで言って、咲希の方を見るとニヤリと笑った。
・・・
咲希は無意識に後ろに一歩下がった。紫月がずいっと前に出る。咲希がまた一歩後ろに下がる。足に何か当たった。近くの茂みの葉っぱだった。
紫月はそれを見ると笑みを深めてずいっと咲希の真ん前に立った。咲希は銀次に助けを求めるように視線を向けるがそっと目を逸らされた。
「君、〈時空記録帳〉を本部塔から借りてきてくれないかな」
有無を言わせぬ花が開いたかのような満面の笑みの紫月。紫月はそこそこの美貌のため、普通の乙女なら多分この時点でどんなに嫌な予感がしても、それが頭から吹っ飛んで快く受け入れるのだろう。だが、咲希は普通ではない。
残念ながら咲希は嫌々やるしかないのだった。
読了ありがとうございます。
自分の作品がどれほどのものか知りたいので、評価などなどよろしくお願いします。
(不定期更新なので、とても空くことがあります)




