事の発端
あー、書きたいのに、時間無い。
紫月を殴り飛ばして気が済んだ咲希がやってきたのは、『館』の食堂だった。立派な内装の屋敷にピッタリな、住人の数の割には無駄に広い食堂だ。各自で自炊することも考えて作られたのか、ダイニングキッチンのようになっている。
咲希はキッチンの冷蔵庫を漁って卵と菠薐草を取り出すと、フライパンを火にかけて法蓮草と卵の炒め物を作った。その後、紅太郎がこの屋敷に住む皆のために朝早くに起きて作ってくれているという味噌汁と白米をそれぞれ盛ると、先程の皿と一緒に食事場所へ向かった。
空いてる席───とは言っても広すぎてどこに座ってもほかの住人と椅子取り遊戯をするという心配はない───に着くと、咲希は食事を始めた。
「おや、今日は早いんだねェ」
卵をほおばっていると、ふいに後ろから声をかけられて咲希は振り返った。
おや、珍しい。
そこにいたのは、この『館』の住人其の二───アズサだった。アズサは咲希より歳が一つ上の茶色い髪と黄緑色の瞳を持つ、妖艶な美少女だ。学校には行かず通信教育で学んでいるほどインドア派で、なかなか部屋から出てこないため、咲希がこの屋敷に泊まり始めてから三日間、片手で数えれるほどしか会っていない。しかし、かなりのおしゃれ好きのようでどこでも取り扱ってなさそうなド派手な服(和服ロリータ?)を着て髪をアニメに出てくる花魁のように結い上げ、色とりどりの硝子簪や花飾りをつけている。なのに、全く埋もれているような気がしないのだ。
こういう人を伊達者っていうんだろうな・・・すげぇ
それから紫月が紹介の時に言っていたが、アズサはこの屋敷の中で「頼れる姉貴分」的な存在らしい。
ちなみにアズサは下半身が蛇の「濡れ女」のような妖怪だ。
「おはようございます」
「あァ、おはよう。ところでさっき、妖怪が殴られるみたいな音が聞こえたんだけど、なんかあったのかィ?」
確かにかなり思いっきり殴ったが、そんなに響いていたのだろうか。今のところ「無表情だが、大人しい子」で通っている咲希なので、ここで引かれるのは困る。なのでとりあえず、「さて、どうしたんでしょうね?」と惚けておくことにした。
「それにしても、そろそろ銀次が紫月を連行しにやって来る頃なんだが、遅いねェ」
「そうですね。学園の先生が用事で遅れて連行の指令が遅れているのではないでしょうか?」
────タタタタタッ・・・バタン!
「「お?」」
噂をすればなんとやら、名前とは正反対の深紅の毛をした二足歩行の狐(銀縁眼鏡付き)が食堂のドアから入ってきた。銀次は紫月の学友(本人曰はく、親友)でアズサと同じく咲希より一つ年上の少年だ。眼鏡から受ける印象の通り、絵にかいたような優等生で紫月の自由奔放さと変人さに振り回されている苦労妖怪だ。
今、その右手には資料らしき紙の束、左手には気絶した紫月の首の後ろが握られていた。
「咲希・・・昨日言っていた資料が出来上がったぞ。それと・・・紫月に何をした?」
「あー。ありがとうございます」
挨拶もそこそこに、銀次は肩で息をしながら紙の束を渡してきた。
咲希は後半の質問は無視して、紙の束を受け取った。後ろから「あー、さっきのは・・・」とつぶやく声が聞こえてきたので恐らくアズサにはばれているだろうが、最後のあがきだ。
資料に書かれていたのは、人間界と妖界の間の「時空」の揺らぎについてまとめたものだった。なんでも、この揺らぎ次第でいつ咲希が人間界に帰れるのか決まるらしい。
咲希は資料にザッと目を通した。
「・・・見る限り、四日後が一番帰るのに最高ですね」
「おい」
「それまでに、お前さんが紫月に取り上げられた物を取り戻した方がよさそうだねェ・・・かなり難しいと思うがね」
「おい」
「そうですね」
銀次の追求を無視して、アズサと会話を続けた。アズサもそれを察して会話を合わせてくれた。流石、頼れる姉貴分(?)。
「ところで銀次が来たのって、これだけのことですか?」
「察しがいいな。勿論そう・・・」
「あー、あー、あーーーー」
こちらが質問したのが悪いが、その先を聞くとすごく面倒なことになりそうだったので慌てて咲希は銀次の声を遮った。が・・・
「勿論そうじゃないよ」
「なんだ貴様、起きてたのか」
折角銀次の声を遮ったのにその続きを続けてくれたのは、銀次に首の後ろを掴まれたままぱっちりと目を開いた紫月だった。
「うん、実は咲希ちゃんに殴られてからずっと意識はあったんだけど、このままの方が学校さぼりやすいかなぁって思って気絶したふりしてた」
「き、貴様」
「まぁどちらにしろ、私は今日の授業をさぼれるようだけど」
「・・・」
「ンで、お前さんたち咲希に何のようなんだィ?」
アズサが好奇心に目をキラキラ輝かせながらそう言った。
あ、それ言っちゃ・・・!
忘れていた。この姉貴分、噂話や騒ぎのあーだこーだが好きな野次馬気質だった。慌てて止めようとしたが時すでに遅し。紫月が得意顔で「それはねぇ・・・」と話を始めてしまった。
「〈烏天狗〉の『妖怪探し』を手伝って欲しいんだよ」
「へ?」
思わず、間抜けな声が出た。さっきの嫌な予感は気のせいだったのだろうか。
なんだ、そんな事
咲希は何の疑問も持たずにあっさりOKした。後で、もう少し疑問を持つべきだったと後悔することになるのだが・・・
読了ありがとうございます。
自分の作品がどれほどのものか知りたいので、評価などなどよろしくお願いします。
(不定期更新なので、とても空くことがあります)




