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喧嘩仲裁 前

かなり空きました。すいません。

 かなりギリギリの時間で拾壱年(じゅういちねん)三組(さんくみ)の教室の席に着くと、数秒と待たずに先生が入ってきた。一反木綿のような姿をしている。始終、ひらひらフワフワしていてどこか頼りない。名前は確か、ヒラとか言っただろうか。なんか、そのままな名前だ。


「お、おはよう。皆さん」

「「「おはよーございまーす」」」


 教室にいる五十人ほどの生徒たちは声をそろえて挨拶する。

 間延びしてんなー

 頬杖を突きながらサキはこれから自分が約一年間過ごす教室を見回した。この学級(クラス)は銀次が紫月に妨害されながらも苦労して手続きした末に入れてくれた学級(クラス)だ。

 そういえば、九頭竜学園は東領が定める義務教育の六年間を過ぎるとこのまま残るかどうかは本人の自由なのだと銀次が言っていた。残って勉学を極めるも良し、家業に移っても良しという事なのだろう。しかし、この学園を卒業しておくと色々と役に立つことがあるらしいので、家の事情がない限り残るらしい。とはいっても、農民の子などは家の手伝いをするため抜けることが一般だ。なので、ここにいるのは町民や武士、少数だが公家もいる。神事などを行う種族は特例でもともと入学していない。

 人間界の日本よりもゆるく、柔軟な教育制度だ。

 それにしても、姿だけでなく様々な(よそお)いの者がいる。中には、これ絶対人間界の学校では問題になるぞ!、というほどの服もある。特にあの真ん中の席の角の生えたお姉さん、結構きわどい服着てないだろうか。後、左斜め後ろの席のヤツ。不思議な文様の入ったフードを目深にかぶってて、ちょっと近寄りがたい。確か、この学校は服装に対しての規制(ルール)が緩かった。妖怪と言っても様々な者がいるのであまり厳しくすると例外だらけになってしまうからだろう。

 妖怪も妖怪で何かと大変だな。


「さ、さて、今日は新しい仲間が私たちの学級(クラス)に入ります。さ、沙雪様、どうぞこちらへ」


 なんかなぁ

 「沙雪」と公の場面で言われることは慣れたっちゃ慣れたが、担任に敬語で呼ばれるのは何だか居心地が悪い。

 サキは担任の一反木綿に従い、教卓の隣へと移動した。教室全体の視線が自分に集中するのが分かる。


「雪華 沙雪です。気軽にサキと呼んでください」


 サキが自己紹介を終えると教室にざわめきが広がった。


「沙雪って弐年(にねん)の?なんか・・・・・大きくなったな」

「髪、黒くなった?」

「後、なんか喋り方変わってないか?」

「あだ名申請する(たち)でしたっけ?」

「あっ、あ、え、えーと」


 うわー。面倒臭いな

 質問の嵐にサキが裁ききれるかと考えていると隣で、ヒラが混乱状態(パニック)になりながら早口で説明を始めた。


「さ、沙雪様はつい昨日まで人間界に留学していたんですっ。えっとそれで皆さんは三日前、時空乱流があったのを知っていますか?それで人間界と妖界の時間がずれて沙雪様は人間界で十七歳を迎えてからこちらに戻ってきて・・・飛び級でこの学級にやってきたんです。後、えーと、沙雪様は帰界子女(きこくしじょ)なので妖界について忘れている所があるので皆さん、優しく教えてあげましょう!」


 あー、そんな設定だったっけ

 流石にそのまま説明するとややこしくなるので、校長()以外にはそう説明している。皮肉にも、この策を思いついたのは紫月だ。あの男、ただの変人(?)なのだが、時々妙に頭が切れて使える。

 それにしても、随分と口の回る先生だ。約200文字くらいを一息に言ったんじゃないだろうか。

 肺活量がヤバい


「そういう事で、よろしくお願いします」

「「「お、おう」」」


 一応納得したように三組一同。何だか居心地悪そうだ。

 ふと、ある事態が予想されて沙雪に質問してみる。


───沙雪、沙雪はそんなに有名だったんですか?(特に性格が)

『ええ。恐らく、この学園で私を知らない者は一人もいないでしょう』


 そんなに胸張って言われても・・・

 サキの思った通りだった。人間界に来る前の沙雪、つまり六日前の沙雪の「気が強くて悪い意味で活発な沙雪」という印象が皆の頭にすっかりこびりついているようだ。一度、定着した強烈な心象(イメージ)を書き換えるのには中々、手間取りそうだ。


「そ、それでは朝礼を始めます」


 やれやれ、とサキが思いながら席に着くと、そのまま朝礼が始まる。教卓や机についているのが妖怪という点以外、人間界の学校と何ら変わらない光景だ。

 にしてもこの学級、妖怪だということを差し置いてもキャラの濃さそうな妖怪(ひと)ばっかだ。こういう事にサキは慣れているが・・・まあ、どうにかやっていけるだろう。

 ここでも何かと大変そうだな

 そう思いながらサキは窓の外を飛び交う正体不明の紙切れのようなものを眺めた。


◇ ◇ ◇

 四時間目、サキが生物の授業を終えて食堂に向かっていたところ、拾壱年三組の一軍女子とその取り巻きに鉢合わせになった。人間界に行っていて、たったの六日で十年成長した(年取った)サキに好奇心を抱いているのか、質問攻めにされる。


「サキさん、人間界ってどんなところ?」

「その黒髪、美しいわ。どのようなお手入れをなさっているの?」

「〈烏天狗(からすてんぐ)〉に入っているんですよね?かっこいい!」

「そういえば、サキさんってあの紫月様と婚約なされているんでしたわね。あの方ってどんなものが好きなのかしら」

神秘的(ミステリアス)眉目秀麗(イケメン)ですわねぇ、紫月様って・・・」

「ねえねえ、紫月様はどんな方が()()()なの?」


 最初は人間界やサキについての質問だったが、途中から誰かが紫月のことを持ち出してきたので、後半は紫月に関する質問しかしてこなくなった。

 あの紫月(変人)、結構モテてるようだ。確かに、あの容姿なので無理もないと思うが・・・サキとっては腹が立ってしょうがない。

 とんだ詐欺師がいたものだ。


「分かりません。私としては十年ぶりに会う仲のような感じですので」

「そうですか・・・いいなぁ、あたしも紫月様と結婚したい」

「馬鹿言うんじゃないよ、出世中の武家の紫月様と私たち町民なんて・・・望み薄だよ」

「でもねぇ・・・」

「わたくしたちにはまだ、機会(チャンス)はありますわ。側室になるため、頑張りませんと」

「応援してます!」


 「側室に」などとは、すごいことを言ってくれる。紫月は出世中の武家のお坊ちゃんなので、見た目・肩書ともに、皆あこがれるのだろう。町民、武家、あと農民で身分差がかなりあるが、なんだかんだ言って団結してる集団だった。

 と、そこに噂をすればなんとやら、皆さんあこがれる「イケメン紫月様」がやってきた(完全嫌味)。


「サキちゃーん!」

「それ以上、近づかないでください」


 抱きついてきそうな勢いだったのでサキはアズサからもらった髪飾りに手をかけて威嚇する。三組女子集団といえば、「キャーー」と黄色い声を出して、それぞれ、自分が一番きれいに見えるであろう姿(ポーズ)を取っている。あのきわどい服装のお姉さんの色気がヤバい。

 乙女たちをこんなにするは紫月の何だろうか。確かに紫月の容姿はそれこそ花のようだが、サキには変人っぷりしか目に入ってこないので不思議でしょうがない。


「紫月、何でここに存在してるんですか?」

「・・・なんか、微妙に傷つくこと言わないでよ。調度、隣の教室で化学の授業やってたからね。君がいると聞いて、急いで追いかけてきたのだよ」

「・・・」


 紫月の台詞にうんざりするサキとは対照的に、三組女子集団は「キャーキャー」と黄色い悲鳴をあげる。中にはヘナヘナと座り込む者もいた。

 皆さん、この甘い(マスク)に完全に騙されている。

 サキが人目をはばからず、紫月を生ごみでも見るような目つきになりかけていると、紫月のズボンの中から「ピピピ」と電子音がした。


「お、何だろ」


 紫月がそう言いながらポケットから取り出したのは・・・スマホだった。

 なんでこんな物が妖界に!?

 (ハテナ)が頭の中にあふれかえったが、サキは平静を保ちながらスマホに耳を当てる紫月を眺める。


「うん、うん・・・サキちゃんとは今一緒にいるよ・・・分かった。じゃ、私達もそちらに向かうね」


 紫月はそう言って電話を切ると、こちらに目を向けた。


「早速、仕事だよ。学園内を縄張りとする(リトル)ヤクザの炎鶯組(えんおうぐみ)天流組(てんりゅうぐみ)が運動場で睨み合ってるらしい。刃傷沙汰にならないうちに喧嘩の仲裁するよ」


 紫月はそう真剣な顔で言うと、運動場の続く方向に走り出した。登校初日に早速、〈烏天狗〉の仕事とは。

 どれもこれもアイツの仕業・・・

 サキはだるそうに半眼になりながら三組女子集団に「では、失礼します」と断って紫月の後を追う。後ろから「紫月様、ステキー」と悲鳴が上がっていたのが実に腹立たしい。

 

「紫月、さっきのはスマホですよね?」


 サキは走りながら紫月に話しかけた。


「ああ、これのこと?そう、人間界で言うスマホだよ」


 紫月によると、妖界では定期的に職人たちが人間界に行ってその技術を学んでくる制度があるらしい。その中でスマホなどの電子機器に目をつけた職人がいて電力や電波の代わりに妖力で動く「妖界版電子機器(エレキテル)」とやらを作ったらしい。「妖術の使えないものでも使える妖術」のようなもので、当時、かなり画期的な発明だったという。


「アズサの持ってるパソコンも同じだよ」


 江戸時代~明治・大正時代っぽい妖界だが、妙に最新電子機器があるのが謎だったが、そういうことだったのか。


 紫月の後を追ってやってきた運動場には一触即発のピリピリした空気が流れていた。

 おー、人間界のより迫力ある。

 運動場のど真ん中で睨み合っているのは赤の羽織を着た一団と青の羽織を着た一団・・・と、それを遠巻きに見る大勢の野次馬達(ギャラリー)。その中でも一段と目立つのは中央に立って睨み合っている、赤い猪の妖怪と青い翼の生えた半鳥人のような妖怪だ。立ち位置や醸し出す雰囲気(オーラ)から両ヤクザの組長(ドン)と見て間違いないだろう。


「おい、そこ!下がれ下がれ!」

「あ、そこのかわいいお嬢さん、危ないよー」

「下がってー」「「下がってー」」


 群がる野次馬達を安全なところまで下がらせているのは〈烏天狗〉の凪と猫桜、それと三人の少女達だった。初めて見る顔だ。三人とも背丈・顔つきがそっくりなため、三つ子だろうか。頭に生えた羊のような角が黒いので、黒鬼の仲間だろう。

 なお、猫桜はこんなところでも女の子たちにナンパしている。

 サキがそれを生暖かい目で見ていると、野次馬を一生懸命にかき分けて銀次がやってきた。


「二人とも、よく来てくれた。この二つの組は冷戦状態で前々から気にしてはいたが、とうとう爆発したようだな」

「それだけいつもの喧嘩より手こずりそうだね。・・・まぁ、サキちゃんにはいい経験になりそうだけど」

「頑張ります。できる範囲内で」

「じゃ、始めよっか」


 紫月はそう言うと、慣れた様子で睨み合う二つの組の間へ歩いて行く。サキと銀次もそれに続いた。

 ケガしなきゃいいな、そう、サキは思った。

読了ありがとうございます。


自分の作品がどれほどのものか知りたいので、評価などなどよろしくお願いします。


(不定期更新なので、とても空くことがあります)

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