家族との初対面(父のみ)
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紫月への宣戦布告から二日後の夕方。サキは明日から登校する九頭竜学園について『館』の食堂で銀次から補足の説明を受けていた。
「・・・という事で、九頭竜学園の授業の進行はほぼ人間界のものと寸分違わない。後・・・」
「後、どうしたんですか?」
妙な所で言葉を詰まらせた銀次に嫌な予感を覚えながら、サキは銀次に先を話すよう、促した。できれば厄介ごとは聞きたくないが、明日からの学園生活に関わってくるものなら、知っていた方がいいだろう。
「いや、その、入学の手続きの途中に紫月が乱入してきて・・・サキ、お前は〈烏天狗〉に入る羽目になった」
「・・・」
早速、厄介事を作ってくれたようだ。
〈烏天狗〉は農民の子供から東領を治める〈青龍〉の御子息までが通う「もう一つの政治場」と言われる九頭竜学園の裏を取り締まる委員会だ。
喧嘩の仲裁から校内で起こるきな臭い事件の解決まで。生徒会が抑えきれない分の仕事が回って来る。そんな委員会に入るヤツはもちろんいないので、紫月がやって来るまでほぼ、壊滅状態だったらしい。
「『サキちゃんは人間界で問題児だらけのクラスにいたらしいし、どんなことが起きても冷静だから、ピッタリでしょ?』と言っていた」
「まさか、この前、人間界の学校の事を言ったの紫月に話しました?」
「ああ・・・」
すまなそうに頭をかく銀次。これはうかつに自分の事も話せない。どこに落とし穴があるか予想できない。
まぁ、別にいいだろう。
それにここで拒否すると、紫月に負けた気がするのだ。
以外に自分は負けず嫌いなんだな、とサキは心の中で思った。
「いいでしょう。他に、何か気を付けることはありますか?」
「いいのか、本当に?」
「はい」
「分かった。すまないな」
「いいえ」
「そうだな。気を付けることと言えば、〈烏天狗〉に入っている以上、ケガしないことだな」
「難しそうですね」
「う、言うな。後はお前は自覚がないようだが、一応、妖怪の名門武家のお嬢様だ。政治云々に巻き込まれる可能性がある。その時は自分の命を第一に優先すること」
「はい」
沙雪の捜索中にも「刺客」とい物騒な言葉を聞かされているのでまあまあ覚悟はできていた。
にしても、お嬢様って大変だな。
サキは政治云々に自分が巻き込まれないことを祈った。
「ああ、俺も祈っている」
「あ、声に出ていました?」
「・・・思考の半分くらい出ていたと思うぞ」
やべ。
サキには周りの状況などを頭の中で客観的に文章でまとめる癖がある。それがたまに声に出ているので、初対面の人には白い目で見られることがしばしある。
ここは妖界とは言え、気を付けなくては。
「そう。そういう事で、私とアズサから贈品だよ」
「お、紫月。授業は終わったのか」
いつの間にか、サキを強引に〈烏天狗〉に入れた元凶・紫月、『館』の姉貴分ことアズサ、それから紫月の召使たる紅太郎が食堂に入って来ていた。
紫月はサキと目が合うと、してやったりと笑いかけてきた。
コイツ、後で深い落とし穴に落としてやらねば。(物理的に)
「先生の話が長くてうんざりしたよ。あの科学の先生、私のことを目の敵のしてるみたいでいちゃもんつけられて居残りさせられた」
紫月は帰ってきた後、アズサの所に行ってそれから食堂にやってきたらしい。しかし、紫月が遅れたのはともかく、紅太郎が遅れたのはなぜだろうか。
「はい、僕は紫月様の居残りが終わるまで廊下で待機しておりました!」
常に笑っているように細めた目を綺麗に弓なりにして、元気に答える紅太郎。
いい子過ぎる。
サキと銀次は頭を抱えた。紅太郎は紫月の無茶に振り回されながらも、それを自覚していない節がある。幸せな性格何だか、損な性格何だか。
どちらにせよ、今後、紅太郎に悪影響が及ぶ可能性は大だ。
「それで。贈品なんだけれど、わっちからはこれ。紫月からはこのループタイだヨ」
「はい」
「ありがとうございます」
アズサからもらったのは、華やかな白い花と水晶の房飾りがついた金色の簪。紫月からは橙色の水晶のついたループタイだった。
なんも変哲の無い物だけど?
サキはそう思いつつも、何だか気になってアズサからの簪をいじくりまわしてみた。すると・・・
「!」
花飾りのついている方から数十糎の部分がスラリと抜けて、テラリと光る刃が出てきた。
友達の家で見た、七段飾りのお雛様。あのお内裏様が持ってる刀みたいだ。かなり裕福な家の友達だったので、お内裏様の刀も嘘ではあるが本当に抜ける物だった。あれを本物にしたような感じだ。
こりゃ、すごいの持ってるわ
「・・・」
「フフフ、これで襲われてもグサッと行けるだろう?」
思わず絶句するサキに満足そうに頷くアズサ。これはかなり役に立つ。正直にうれしい。だが、こんなものどこで売っているのだろうか。この姉貴分はたまに、普通、店頭ではお目にかかれない物を持っている。
「ありがとうございます」
「えー、私のは?」
残念そうに眉を下げる紫月。そういわれても、このループタイのどこが役に立つのだろうか。試しにいじくりまわしたが、何もなかった。
「あ、そっか。私の贈品、時間がたたないと普通との違いが分かんないんだっけ。そのループタイにはまってる水晶は普通の水晶じゃないよ。〈空色水晶〉と呼ばれる希少な水晶なんだ」
「へー」
とりあえず、サキは希少な物をもらったようなので「ありがとうございます」と頭を下げる。
それからしばらく、紅太郎の入れた紅茶を皆で飲みながら噂話などをしていると、食堂の扉がバタンと思いっきり開いて、薄く白みがかった紺色の毛色をした、大きな狼の妖怪が入ってきた。腰には刀が二本刺さっており、江戸時代の武士のような恰好をしている。
いや、実際に武士なのだろう。珍しく、紫月の緊張感が上がっている。もしかしたらこの狼は沙雪側の妖怪なのだろうか。
「霞夜様・・・」
「沙雪が見つかったらしいな」
どうやら、当たりだったようだ。にしても、名門武家妖怪の当主が直々に来るとは驚いた。
使いの者あたりが来ると思ったんだけどなぁ。
霞夜は当主なだけに貫録と威圧感を持っているので、かなり話しずらい。正直にいうと、かなりコワイ。
「私です」
「うむ、確か君は沙雪の二重人格のサキだったか。髪の色が黒いが、瞳の色は沙雪のものだな・・・話は聞いている。沙雪と話すことはできるだろうか?」
瞳の色?
そういえば、最近、鏡もろくに見ていない。普通にしている心算だったが、瞳の色が変わっているのに気が付いていなかったのなら、サキにも結構余裕がなかったという事だろう。
「はい。沙雪、どうぞ」
『はい』
頭の中に沙雪の声が聞こえる。沙雪はサキの脳内に話しかけることができ、サキが許せば体の感覚の一部を「所有」することができる。沙雪との話し合いで、いくら何でも、沙雪が不自由すぎる、とサキから提案したものだ。
サキの顔左半分と口元の感覚がなくなる。『館』の一同と銀次が後ろで「おおっ・・・」と小さく声を上げた。
サキの口を借りて、沙雪が話す。
「お父様、ご心配をおかけました」
「沙雪・・・」
霞夜の顔が険しくなる。
あー、こりゃ怒られるな
サキは他人事のように心の中でつぶやいた。
沙雪は六日間も消息を絶っていたのだ。その間、どのくらい心配をかけたのだろう。霞夜は父として、心配で胃が痛かったのではないだろうか。
サキも人間界で生活していた時、迷子になって約三日間、町中をさ迷い歩いた事がある。見つかった時、お父さんに物凄く怒られた上に、泣かれた。沙雪はその倍、いなくなっていたのだ。人間と妖怪との違いがあっても、沙雪がサキの倍以上怒られることは簡単に予想できる。
霞夜はゆっくり歩いてサキの前まで来た。
たたかれるのかな
サキは身構えた。だとしたら、左の方でお願いしたい。一応、いなくなったのは沙雪の方なのだ。とばっちりを食らうのはサキとてごめんだ。
が───
「よく無事だった・・・!」
安堵したような声とともに、ギュッと強く抱きしめられた。人狼の固い胸板が顔に押し付けられて、危うく窒息しかけるサキ。あくまで、口と顔の左半分だけを沙雪に貸しているのが、呼吸器官はサキのものなのだ。
苦しい。苦しいが、霞夜の腕の中はとても暖かくて、安心感があった。
「私が悪かった、許してくれ・・・」
「許すだなんて、飛んでもございませんわ、お父様!最初から、悪いのはあの女ですもの」
なんだか嬉しそうな沙雪。もしかして、サキと人間界のお父さんの仲が以上に良かったのも沙雪の父親好きのせいかもしれない。
にしても苦しい。仲のいい親子に水を差す心算はないが、早く離してくれ。
「お父様、サキが苦しがっております。そろそろ、話してください」
「お、おお」
やっと離してくれた。サキは与えられた空気をむさぼるように吸う。紫月が視界の端で羨ましそうに霞夜を見ていた。理由もなく、サキの背中の毛が逆立つ。
そういえば、雪華家には長男もいると聞いたが、今日は来ていないようだ。サキは引っ掛かりを覚えたが、今は考えないことにした。
ともかく、サキは痛い思いをすることなく家族(父のみ)との初対面を終えたのだった。
読了ありがとうございます。
自分の作品がどれほどのものか知りたいので、評価などなどよろしくお願いします。
(不定期更新なので、とても空くことがあります)




