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妖界、三日目

初トーコーです。

よろしくお願いします。

(ん~、いい朝だ)


 十七歳の人間、咲希(さき)は朝日に目を細めながら、『館』の窓を大きく開け放った。清々しい光の中、美しい(ひれ)をたなびかせる精霊のようなモノが東領(ひがしりょう)の首都「江都(えと)」の上空を優雅に通過していく。

 あれは何の精なのだろうか。

 咲希がもう一つの「日本」、妖界に来てから早や三日。もう、この世界の生態系(生き物)にもそうそう驚かなくなった。


 お父さん、元気かなぁ。

 今頃、咲希のことを探して血眼(ちなまこ)だろう。何だかこんなに平和に暮らしているのが申し訳ない。でも、すぐに帰れないからこればっかりはしょうがない。

 それまでどうにか生きててもらお。

 切実にお父さんの健康を祈りながら咲希は着替える。服装はブラウスにサスペンダー付き黒スカート、水色の石がついたループタイと大人っぽいもの。これは妖界(ここ)で着替えた時に借りた物だ。

 勿論(もちろん)、この世界の住人「妖怪」から。

 でなきゃ、こんなフォーマルな服を普段着にするなんて、一生、なかっただろう。


 着替えを終えて部屋を出ると、朝食をとるために食堂へ向かう。この『館』は大正時代にでも建てられたかのような三階建ての洋館だ。武家妖怪(勝手につけた名称)の子供が管理しているので、それなりに立派なものだ。大きな書庫までついている。

 

 階段を下りて『館』の中心の正面玄関に行くと、丁度そこにこの屋敷の(あるじ)と住人()(いち)がいた。何やら楽しそうにおしゃべりをしている。・・・主の方が。

 なんか、嫌な予感がする。


「やあ、咲希ちゃん。おはよう」

「お早うございます!」


 何を話しているのかと近づいていくと、元気に挨拶をされた。咲希も無愛想なりに「おはようございます」と返す。

 「咲希ちゃん」と()()れしく呼ぶのはこの屋敷の主こと、紫月(しづき)だ。咲希と同じ歳の美しい顔立ちをした少年だが、性格はわがままで、マイペースで、掴みどころのない変人だ。

 なぜ、「変人」という位置づけなのかは説明したくない。体験談も含めて。

 元気よくはきはきと挨拶するのは住人其の一こと、紅太郎(こうたろう)。名前とは正反対の銀髪を持つ、咲希とは二、三歳年下の少年だ。優しいうえに忠誠心があり、その上気が利くので紫月の召使の真似事(まねごと)をしているらしい。

 勿論、二人は妖怪だ。紫月には黒い猫耳と尻尾。紅太郎には額の真ん中に角が生えている。紫月は猫人(ねこびと)、紅太郎は白鬼(しろおに)なのだ。

 この二人はどちらかと言うと人型に近い妖怪だが、この『館』にはもっと「妖怪らしい」者もいる。


「咲希ちゃん、今日もきれいだね」

お世辞(フォロー)丸見えな挨拶、止めてください」

「むあーい」

「変な返事、止めてください」

「むあーい」

「・・・」


 こいつ、たまに殺意がわく。


「あ、紫月様、もうすぐ学校の朝礼の時間になりますよ。そろそろ、向かいませんと・・・」

「えー」


 紅太郎が腕時計をみてそう言うと、紫月は面倒くさそうに頭をかいた。

 この世界の時代風景は江戸~明治・大正時代のような感じだが、「学校」というものは存在するらしい。紫月と紅太郎を含め、この近くに住んでいる妖怪の子供が通うのは「九頭竜学園(くずりゅうがくえん)」という大きな学校だ。

 近く、って言われても周りは断崖絶壁なんだが・・・。

 『館』の周りは切り立った崖と山に囲まれているので、咲希はここに住んでいる妖怪以外、妖怪を見かけたことがない。

 ある意味、ありがたいと言えるけど。


「やだ。まだ行きたくない。別に遅れてもそんなに怒られないし」


 いや、それはお前だけの話だろ。

 時代風景が江戸時代っぽいだけあってこの世界にはゆるいものだが、身分制度があるらしい。

 紫月は武家で、紅太郎は商人の子供。比較的、身分が高い方が優先される世界で遅刻して怒られないのはどちらか、容易に想像できる。


「分かりました。僕も一緒にいます」

「って、いやいや。紅太郎は行ってて下さい。紫月(あれ)のことは放っておいてください」


 律儀に職務を全うしようとする「召使もどき」を慌てて止めて、玄関の方に引っ張って行く。後ろ髪を引かれるように外に出ていく紅太郎を「いってらっしゃ~い」と間抜けた声で紫月が見送った。

 まったく、純粋無垢で有能な少年の成績を落とすのは止めてほしい。


「いやー、おしゃべりをしてると時間がたつのはあっという間だね」

「何を話してたんですか?」

「んん~、まぁ、面白い話」


 何を話していたのかそれとなく気になったので、聞いてみると紫月は意味深に笑いながらそう言った。


「咲希ちゃん、聞きたい?」

「嫌な予感がしますが」

「えっとね、昨日の朝の君の事」

「!」


 咲希は殴りかかって行きそうになって何とか踏みとどまった。


「誰にも言わないでください、と言ったはずですが・・・?」


 咲希が怒りを押し込めた低い声で言うと、紫月はニッコリと笑った。


「あの時、君が大声出したから心配されたんだよ。下手にウソつくより正直に言った方が良いだろう?こういうのって。ま、どっちみち私から(みんな)に言いふらしてたかもしれないけどね~♪」

「・・・・・・」


 咲希の中でブチッと何かが切れる音がした。

読了ありがとうございます。


自分の作品がどれほどのものか知りたいので、評価などなどよろしくお願いします。


(不定期更新なので、とても空くことがあります)

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