3ページ目の続き
ゴブリンの巣のキッチンに戻ったカズコは、エプロンを締め直し、大きな鉄板にヴェノムトードーの肉を載せる。ゴブ太が命がけで手に入れた肉は、見た目はグロテスクだが、彼女の手にかかれば香ばしい丸焼きになる。キッチンに異様な香りが広がる中、カズコは小さなメモ帳を取り出し、鉛筆でゆっくり書き始める。家事で荒れた手が、ページをそっとめくる。
「ゴブ太、ヴェノムトードーなんて危ないもん狩りにいって、ほんま心配やった。あの子、ゴブリンやのに、どこかお父さんそっくりで、頑固で自分を押し通すとこあるな。けど、今日、ちゃんと話して、母ちゃんの気持ちわかってくれた。『狩りしない』って言ったあの目は、嘘やなかった。
お母さんが若い頃、お父さんが危ない仕事してた時も、こうやってご飯作って待ってたっけ。ゴブ太が持ってきた肉、感謝しながら焼いてるよ。ヴェノムトードーの丸焼き、ゴブ太もお父さんも喜んでくれるかな。お母さん、いつまでゴブ太を見守れるかわからんけど、ご飯作れるうちは、家族でいよう。ゴブ太のこと、信じてるで。」
カズコはメモを閉じ、鉄板を覗き込む。ヴェノムトードーの肉がジュウジュウと焼ける音が響き、彼女の顔に小さな笑みが浮かぶ。ゴブ太と共に父親が帰ってくるのを、静かに待つ。