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古びたアパートのキッチンに戻ったカズコは、エプロンを締め直し、ガスコンロに火をつける。ローストビーフの香りがじんわり広がり、台所の蛍光灯に湯気が映る。彼女は小さなメモ帳を取り出し、鉛筆でゆっくり書き始める。家事で少し荒れた手が、ページをそっとめくる。
「拓也、屋上でタバコ吸ってたこと、ようやく認めたな。あの子、お父さんにそっくりで、頑固やけど、根は素直や。嘘ついてたこと、ちゃんと謝ってくれて、お母さん、嬉しかったわ。お父さんが若い頃、タバコで金使って苦労した話、なんかピンときたみたいやな。
屋上で弁当の話、懐かしかったわ。お母さんも若い頃、友達と屋上でご飯食べて、笑い合ってた。あの頃の事は今でもええ思い出やし、拓也もそんな感じやろ。授業サボるのも、ちょっとお母さん似てるんかな。けど、『約束する』って言った拓也の目、ほんまやった。ローストビーフ、楽しみにしてくれるとええな。
お母さん、いつまで拓也を見守れるかわからんけど、ご飯作れるうちは、ちゃんと家族でいよう。拓也のこと、信じてるで。」
カズコはメモを閉じ、食事を作る。ローストビーフの香りがキッチンに満ち、彼女の顔に小さな笑みが浮かぶ。拓也が帰ってくるのを、静かに待つ。