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AI技術が社会に浸透し始め、その勢いで成長した大手IT企業「ネクスツー」の社長室は、ガラス張りの高層ビルに構えられている。

社長の大樹。辣腕を振るう若き経営者だが、部下へのパワハラや高圧的な態度で社内に緊張感を撒き散らしている。

社長室は、ガラス張りの壁越しに都市のネオンが映り込み、冷ややかな空気が漂う。デスクには書類とタブレットが散乱し、彼の苛立ちがそのまま形になったようだ。扉がノックされ、大樹は気だるげに声を上げる。


「…あー、入りたまえ? 緊張しなくてもええよ?」


ドアが勢いよく開き、ズカズカと入ってきたのは、カズコだった。エプロン姿のまま、手にはスーパーの袋を提げている。


「大樹! アンタ何してるの!?」


大樹は目を丸くし、慌てて椅子から立ち上がる。顔が一瞬で青ざめる。


「お、おふくろ!? なんでここに...仕事の話してるんだから邪魔しないでよ!」


カズコは腰に手を当て、大樹を睨みつける。彼女の声には、母親特有の迫力が宿る。


「仕事の話って、今、アンタ一人やないの!? アンタ、しっかりと会社の社長さんやってるの!?」


大樹は苛立ちを隠せず、机をバンと叩く。顔を真っ赤にして声を荒げる。


「うるせぇな! 俺だってちゃんとやってんだよ! おふくろには関係ないだろ! さっさと帰れ!」


カズコの表情が一瞬曇るが、すぐに強い口調で返す。


「関係あるでしょ!? お母さん、家族やで!? 関係ないってどういう事!? お母さん、悲しいで!?」


大樹は一瞬言葉に詰まり、勢いで叫ぶ。


「うっせぇ! 家族だからって何でも口出しすんじゃねぇ! お前なんか...もう母親じゃねぇ! 出ていけ!」


その言葉に、カズコの目に涙が滲む。彼女は震える声で、静かに続ける。


「なんでそんな事言うの……? お母さん、後何年生きれると思ってるの……? もう10年も残ってへんかもしれへんねんで……アンタ、最後の最後にお母さんと家族やめるん……?」


大樹は机に突っ伏し、声を詰まらせる。社長室の冷たい空気が、急に重くなる。


「…ごめん...おふくろ...俺、最近ストレスで...」


カズコは目に涙を溜めながら、そっと大樹に近づく。優しい声で、だが力強く言う。


「大樹の気持ちはわかるよ……お父さんそっくりや……お父さんもお母さんに仕事のストレスでよう当たってきた……アンタはお父さんより凄い社長さんやってるもんな? そらストレスも溜まるわ……大樹はしっかりやってるわ……大樹は立派や……」


大樹は涙をこらえ、声を震わせながら呟く。


「…おふくろ...俺、ちゃんとした社長になりたかっただけなのに...なんでこんな...」


カズコは涙を流しながら、静かに続ける。


「大樹は凄い事やってるから、ストレス溜まるのもわかる……でも、お母さんからの最後のお願いや……そういうのは家族以外の人にはぶつけんとって……お母さん、お父さんに何十年もやられてるから、お母さんにやったらなんぼでもぶつけてくれていいから」


大樹は顔を上げ、声を震わせながら約束する。


「…おふくろ...ごめん...俺、もう誰にも当たらへん...約束する...」


カズコは涙を拭い、優しく微笑む。


「大樹がしっかり社長さんやってる所見れて嬉しいわ……お母さん、先帰って大樹の好きなシチュー作っておくから、お母さんが死ぬ時まで心配させへんとってな……お母さん、心配性やな? アンタが一生懸命やりすぎる所がちょっと怖いねん……」


大樹は小さく笑い、涙を拭う。


「…おふくろのシチュー、久しぶりに食べたい...今日は早く帰るわ...」


カズコは満足げに頷き、スーパーの袋を手に提げてドアに向かう。振り返り、ニコリと笑う。


「じゃあ、大樹、シチュー冷めんうちに帰ってきなよ。待ってるで。」

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