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第7話 大当たり

「♪~♪♪♪~」


 夕方、厚皮が帰宅すると妻は鼻歌を軽快に歌いながら上機嫌のニコニコ笑顔で家事をしていた。

 明らかに機嫌がいい。何かいい事でもあったのか? 聞いてみると……。


「? どうした? やけに機嫌がいいじゃないか。何かあったのか?」

「まぁね。ホラ、私宝くじ買うのが趣味じゃない。それでね、組違い賞の10万円が当たったのよ!」


 そう答えてくれた。日ごろの行いが良かったのか、幸運が舞い降りたのだ。




「だから今夜はお寿司の出前を取ることにしたのよ。ね、紗理奈(さりな)

「おすし♪ おすし♪」


 紗理奈(さりな)も好物の寿司が食べられるとあって上機嫌で、ピョンピョンと飛び跳ねていた。


「ハハハッ! そいつは良かったな! 10万円もあるんだ、いい寿司を頼んだんだろ?」

「もちろんよ。宅配寿司とかじゃなくてお店のお寿司だから。時間はかかるけど良いのが来ると思うわ」


 彼女が言うにはいわゆる宅配寿司チェーン店ではなく、本格的な握り寿司店の出前サービスを使っているらしい。これは期待できる。




 1時間後……厚皮家のインターホンが鳴った。


「どうも、握りの一平です。出前の品をお持ちしました」

「はーい。今エレベーターを出しますからお待ちいただけますか?」


 普段荷物が届いた時と同じように、厚皮の妻は配達員を自宅へと招き入れた。




「うわぁー♪」


 マグロ、アナゴ、ウニ、イクラ、玉子、等々色とりどりの寿司ネタが皿の中に鎮座していた。特に紗理奈(さりな)からしたら「宝石箱」のようなものだった。

 3人は「いただきます」をして食事を始めた。


「んーっ!」


 家族はその美味さに感嘆の声を上げる。回転寿司の物とは鮮度が違うし、ネタの美味さも段違い。

 マグロ1つにとっても回転寿司のマグロとは同じ「マグロ」という名称だけれども全くの別物、と言っていいくらい違う。身自体の味わいの深みや脂の乗りもケタ違いだ。




「さすが本物の寿司なだけあって美味さがケタ違いだなぁ。これ食っちまったらもう回転寿司なんて食えねえな。なぁ紗理奈(さりな)

「……」


 両親が娘の異変に気付いたのはその時。彼女は寿司も食わずに中空をぼーっとうつろな目で見つめていた。


紗理奈(さりな)……紗理奈(さりな)!?」

「!! ママ、どうしたの?」


 彼女がようやく母親の声に気づいたようだ。何かあると思って母親は娘の額に手を当てると……。


「!! 紗理奈(さりな)!! あなた熱があるじゃない! 何で黙ってたの!?」

「おねつ……? これが、おねつ……?」


 紗理奈(さりな)は熱があり、どこかぼんやりとしていた。この前咳をしていた頃からなのか? その日は食後すぐに寝かしつけられた。




 翌日の土曜日、紗理奈(さりな)は厚皮家かかりつけの診療所で診てもらう事になった。その結果は……。


「ふーむ……見た感じ風邪のようですね。冬ほどじゃないんですがこの時期の風邪って意外と多いんですよね。とりあえず解熱剤を出しますのでそれで様子を見ましょう」


 医者は「風邪」と判断して解熱剤を渡してそれっきりだった。




 結論から言おう。紗理奈(さりな)の病気は風邪ではなく、もっと重い病だった。それこそ「適切な治療を行わずに放置すると死に至る」ものだ。

 今後、彼女の「病魔」を境に絶頂を極めた厚皮の帝国は壊れだしていくことになる。

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