7 渓谷、獣への変身
○【ベイト・ノワール渓谷、岩山】
大岩だらけの理想的な山奥に、テントを設営して、道着を着込み、
極寒修行のため座禅から呼吸法にて、生命エネルギーを呼び起こし、内側より熱を生み出し、体温を操作して上昇させていく、
❝忍者❞ の修行法「山中で断食し毒草を食べ耐性をつける」に習い、
滋養強壮や疲労回復、健胃作用、精神安定にも効果がある、忍者の携帯食 ❝兵糧丸❞ を食し、
それでも腹を満たしたければ、蘇生力のある魔物を求め、熱風吹き出す熔岩の沼地に、たむろする者共を素手で倒し、その毒ごと喰らい、苦しみの中、頭蓋を枕に横たわる。
「お前は獣だ、獣になるのだ。」腹の底から声がしてギヨティーヌは跳び起きた。
「狂うならばそれも良し」と考え、始めた山籠りではあったが、
糖質を多く含み、抗ストレス作用のある伊賀忍者の保存食 ❝かたやき❞ を口に入れ、気持ちを落ち着かせる。
ギヨティーヌ
(あの娘から受け取った乾燥チーズも、長く口の中に残って食べられたな。過酷な環境に対応する食事は、似た志向へ至るものなのか。)
などと思っているところへ。ふと、何かに呼ばれたような声がして……
顔でも濯ぐついでに、少し見て来ようと、雪解けの清水へ顔を近付け、ギョッと驚いた!
だがそれが、水鏡に映った我が顔と気付くや、ギヨティーヌ・タタンは思わず吹き出してしまう。
ギヨティーヌ
「これが、強さに狂うた愚か者の顔か。面白いこれは面白い!」
水面から、こちらを伺う2つの眼だけをギョロ付かせ、口元の歯を剥き出しにした、
空腹からでも、繁殖争いでも無く。ただ自分勝ってな都合だけで、容赦なく他の生命を犠牲にする、最も醜く奇妙で残忍な生き物の形相。
ギヨティーヌ
「この顔を一生忘れるものか、この顔はまともな生物の顔では無い、怪物の顔だ。ワッハッハッハッハッ!
だが、只の怪物には成らぬ、熱き魂を持った、滾る大きな怪物になってやる!
フアッハッハハハ!! ハァ〜〜〜〜〜ッハッハッハハ!! フア〜ッハッハッハッハッハッハッ〜〜〜〜〜」
この邪悪な高笑いは、吹雪と共に峰々へと轟き響いた。
そしてその禍々しき吠声は、麓のケモイチ村へも届き、ギヨティーヌが世話になった、あの宿屋の家族が一晩中、抱き合ってすごす程、
ケモイチ村や周辺の人々を、一頻り怯えさせたと云う。