44 強さは愛だ
○【ケモイチ村、外れの物置跡】
先程まで降っていた氷雨は止み、乾いた空気が濡れた土を凍らせる深夜。
ケモイチ村は村外れ、転移してきたウォートロールが吹き飛ばし、床だけ残るかつての物置の上へ、魔術師たちの描いた、転移✪魔法陣❂へ ❝魔力❞ を流し維持するため、
村に残ったマノン・マドレーヌと、そのすぐ隣では、肌の燃える一際でかいサラマンダーが、腹ばいになりこちらを向いて、大口を開けアクビをしている。
サラマンダーが近くにいてくれるお陰で、寒い思いをせずに済んではいるものの。マノンは、まるごと小型のサラマンダーを、一呑みにしたことを思い出し、
マノン
「お腹すいてますか? 食べないでくださいね。わたしは一匹、食べちゃいましたけど……」
(今度は逆に、一呑みにされるんじゃ〜?)
と、ついつい想像して戦慄した。
すると、巨大なサラマンダーはいきなり目を開き、頭をもたげるものだから、マノン・マドレーヌはびっくりした。だが彼女もその異変にそくざに気付く。
月夜に奇妙な影が揺れていた。森の奥から、数人の村人がふらつくように歩いてくる。その歩みは不自然で、まるで糸の切れた操り人形のようだ。
叫びとも呼べない、獣のようなうなり唸り声が上がる。
次の瞬間、彼らは足だけを素早く動かし走り出した! 常人のものとはとても思えぬ速さだ。
マノン
(村の人たち… 感染したんですね……)
「サラマンダーさん、ここ任せて良いですか。」
サラマンダー
「だふ。」
サラマンダーは、マノンの維持していた、転移✪魔法陣❂へ前足を起き、代わりをしてくれる。
マノン・マドレーヌは足を肩幅、向きは内八の字に、膝は余裕をもたせ、足で大地を掴み、
腕を胸の正面から引っ張り込むように脇を締め、拳は逆八の字に肩の高さ。
呼吸はゆっくり吹くように息を吐き、足の裏から素早く吸う、身体全体を巡らせ、おヘソの下、臍下丹田に息を貯めた。
顔見知りの村人、大工のデオダの目は靄にグルグル染まり。口元からは、泡と血の混じった唾液が滴っている。
マノン・マドレーヌは、手持ちの ❝サラマンダー・パウダー❞ を包んだ黒い袋を投げるが、デオダは耳を劈く魔動回転ノコギリで、それを受けると、朱い霧の如く粉末は飛び散り、効果が見られない。
そして遂には、魔動回転ノコギリを振り上げ、マノンへ飛びかかった!
村人 デオダ
「ゲヴバビベヴ〜〜」
マノン
「チェストォォォォ━━━!!」
マノン・マドレーヌは左斜め前へ飛び出し、右足で横蹴りを繰り出すと、彼の右腹レバーを洗った。
デオダはくるりと、マノンの側へ向き治るが、流石に苦痛でひっくり返り、マノンはすかさずサラマンダー・パウダーを振りかける。
マノン
「おじさん、ごめんなさい〜」
鎌を両手に持ったおばさんと、鍬を持ったおじさんは、お隣に暮らすご夫婦だ。
ウォーウイルスに侵されたご夫婦は、夫婦喧嘩のように、恐ろしく引きつった顔を突き合わせ、お互いに物凄い勢いで、獲物を振り回しながら走って来た!
おばさんが両手鎌を、縦に横にとたくみに振りまくり。おじさんは鍬をひたすら、縦に打ちふるう。
マノンは、後ろへ円を描いて回り込み、サラマンダー・パウダーを投げた。すると2人は咳き込み倒れ、このご夫婦は事なきを得る。
今度は定食屋の女将さん、お皿をひたすら投げて来る。皿が無くなるのを待ち、サラマンダー・パウダーを投じて解決した。
次の、椅子をブンブンむやみに振回すのは、家具屋のご主人だ!
投げたサラマンダー・パウダーを、椅子の座る部分で防いだ、かと思うと突撃して来る。4本の椅子の足をマノンは受け止め、座る部分を正拳で、
マノン
「セイヤッ!」
と叩き割り、サラマンダー・パウダーをサラッと一振りかけた。
そこへ全速力で走って来て、左手のフライパンを右へ左へスイングするのは…
マノン
「?!…… お母さん!…」
母 ロザリー
「ゲグググ〜〜」
表情は変わっているが、だれが見間違えよう。まぎれも無くマノン・マドレーヌの母、ロザリー・マドレーヌだ。
右手には、肉切り包丁を携えている。
マノンは黒い包みごと、サラマンダー・パウダーをロザリーへ投げ付けるが、彼女は手に持つフライパンでそれを受けて、効果がうかがえない。
マノン
「お母さん!」
母 ロザリー
「ヴヴヴヴ〜〜ゲ〜」
鈍く月光を照り返す肉切り包丁を、ロザリーは振りかざし、我が子へ突進した!
マノンは余りのことに、構えも出来ず棒立ちだったが、
とっさに右手で受け流し、身体は左へかわしながら時計回りへ回転し、左拳のボディアッパーを、ロザリーの右腹へ入れようとする、
だが母親に対し、そんなことは出来ない。
村人 アラン
「止めるんだロザリー! 自分の娘だぞ……」
マノンの父、アンドレ・マドレーヌと親しかった、アラン・フリュイが出てきて、横からロザリーを取り押さえようとした。
しかし物凄い力で彼を振り払い、包丁でアランの手に切りつけるロザリー。
マノン
「おじさん!」
(いけないッ… このままでは、お母さんに人を傷付けさせて仕舞う!!)
マノンの脳裏に、師匠であるギヨティーヌの言葉が蘇る――――
ギヨティーヌ
「…… 村人が暴れてお互いに傷付け合ったり、それ以上の取り返しが付かなくなる前に…
相手を制するための力を、迷わず使うことです。〈愛のために戦う〉ことです!
〈強さは愛〉ですわ!!」
マノン
「チェストォォォォォォ━━━!!」
マノン・マドレーヌは改めて、足は内股で八の字、両腕をX字から引き込み脇を締め、拳は逆八の字に肩の高さ。
足の裏から素早く息を吸い、ヘソの下の臍下丹田へ力を込め、吹くようにゆっくり吐いて征く!
マノン
「呼ッ‼」
ロザリー
「ヴヴヴ〜ゲグゲグ〜〜」
ロザリーが向かって来るのを一旦、前蹴りで距離をとり、機を見て左手で、包丁を持つロザリーの右腕を掴み、
右手で襟を取ると、マノンは後ろへ仰向けに倒れ込みながら、ロザリーを引っ張り込み、右足で持ち上げるように体勢を崩す。
綺麗に後ろへはワザと投げきらず、包丁を持つ右手側へ倒して右手を膝で封じると、フライパンを持つ手を右手で制して、
サラマンダー・パウダーを母へ振りかけ、ロザリーの奇行はやっと止まった。
マノン
「おじさん、大丈夫ですか?!」
アラン
「ありがとう、ホラ、大したことないよマノンちゃん。
アハハ、強くなったんだな――――」
アランは彼女に無事を見せながら、感慨深けに、マノン・マドレーヌを見つめる。
マノン
「お母さ… 村の人たち、このままじゃ風邪をひいて仕舞います。」
アラン
「ちょっと待って、リヤカー持って来るよ。
あぁ、あんまり直接ふれない方が良いよ、マノンちゃんまで感染しちゃう。」
マノン
「大丈夫です、サラマンダー呑んでますから。」
アラン
「サラマンダー、を。呑んだの?!」
アランは巨大なサラマンダーへ目をやった。
サラマンダー
「だふ?」
マノン
「もっと小っちゃいサラマンダーです。」
アラン
「あっあ〜 そーなんだ。アハハハ」




