4 ラ・キャン帝国オ・ソレイユ領
○【ラ・キャン帝国オ・ソレイユ領】
蒸気塔の煙が朝霧と溶け合い、黒鉄の街並みは次第に姿を現し出す。
鈍い ❝魔動蒸気機関❞ の叫換が、遠方でひとたび響いた、
夜勤の者たちはそろそろ休憩だろう、家々も朝食の準備をしだす時刻だ。
空に浮かぶ巨大な魔動蒸気飛行船が、ゆっくり進むのが見える、
その影から漏れた暁は、甍の波を次々と照らし目覚めさせていく。
皆さま、ごきげんよう。
わたくしは、ラ・キャン帝国オ・ソレイユ守タタン家4女 令嬢、ギヨティーヌ・タタンでございます。
我がタタン家は、代々オ・ソレイユ領主として長い歴史を持つ名門で、文武共に優れ名を馳せ、農林畜水産業・魔炭鉱業など、領地経営の他、
現在、石鹸・洗剤の製造販売事業にも、力を注いでおります。
わたくしの性格は穏やかで、おっとりしておりますが、大切なことに決して妥協はいたしません。
このラ・キャン帝国では、14歳になると貴族の子弟は、剣と魔法を学びますの。
オ・ソレイユ領内にある、タタン家のビル屋上中庭で、と言っても、すぅん〜ごく広い中庭なんですけれど。
椅子とテーブル、お茶にお菓子、付添人であり、立ち居振る舞い教育係りのマダム・ローズ・タルトと共に。
本日は何時ものスカート姿から、明るいエメラルド・グリーンの上着と、動きやすい白スパッツの装いで、
翠玉色の、ゆるウェーブ・ロングヘアを、ふわり風へそよがせ、練習剣を持ち、構えから基本動作を、繰り返しているのですわ。
剣の先生
「ギヨティーヌさまッ、お上手でっす! 実に、実にすんばらしいですぅ〜」
と言いながら手を叩く、この先生、なんだか喋り方、変じゃございませ〜ん。
あぁ〜おべっかが癖になって、こんな風にしか喋れないんですのね。
っていうか… なぜワンレン・モヒカン?!
うっとうしい、別の先生に代えてもらおうかしら。
剣のお稽古なんて、このお上品〜なわたくしに、必要ありましてぇ〜〜〜
わたくしのバロックダンス・スキルをもてすれば、こんなの、お茶の子さいさいですわ〜
お遊戯と変わりませんことよ。お〜ほっほっほっほぉ〜 お〜ほっほっほっほっゲホ、ゲホ、
剣の先生
「ハイ、でェ〜は軽〜く、わたしと、基本の立ち会いをヤッてみましょお〜 では行きますよォ〜
気をつけ、礼。
ハイ、ハイハイハイ。いいィ〜、と〜てもいいィですよ〜ん。ハイハイハイ、ハイハイ ハッハ〜イ♬」
わたくしが、先生をお相手に、基本動作を繰り返していると――――
あらっ? ちょっと… おかしいですわ……
お腹の、おヘソの下の奥底から、吹き上がり出る何か?! 滾るモノに、突き動かされましてよぉー!!
何ですのぉ〜? いったい… 熱い、熱いぃぃぃ……
燃える熱き魂が、ヘソの下から湧き登って来る蟒蛇が! 爆発がっ昇って来ましてよぉ〜〜〜〜〜
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォ
燃え滾る熱き生命エネルギーが、頭頂部を突き抜けた時。わたくしは学んでもいない低い構えから、
先生の練習剣を天まで跳ね飛ばし、その頭上へ一撃を振り降ろした!
ギヨティーヌ
「セイヤッ!」
ヅドォォォォォォォォン
寸止めをしたはずの、わたくしの剣んよりほとばしる闘氣が、先生を縦真っ二つに、向こうへすり抜けたかと思うと、先生を遥か遠方へ吹き飛ばす。
忘れていた、俺の前世の記憶が… この身体を動かしたのだ!
俺は改めて自分を見てみる……
俺、ギヨティーヌ
「―――― なん〜じゃこりゃあぁぁぁぁぁ!」
女の子の姿じゃねぇ〜か!
昔、姉が読んでた少女漫画で記憶にある、男装の麗人の欧州めいた服装。
背は高く肩幅は広く、肉体がやたらに軽い、これが若さか!
皮膚の表面へ染み出るように、身体の奥底で ❝氣力❞ が静かに脈打つのが判る。
俺、ギヨティーヌ
(俺、生まれ変わってる?! この身体で生きてきた記憶もちゃんとありますわ……)
走馬燈の如く、前世の記憶がぐるぐる頭へ湧いて出て、俺はその場へ立ちつくした。