38 古よりの叡智
紫微大王
「んじゃ、いくぞ【第3問】チャラッ♪
この『理想国 正義について』を書いたオヤジは、❝子供❞ はどんな存在だと、考えているでしょ〜か?
チッチッチッチッチ・・・」
言葉を使えば使うほど、「言葉遊び」へ陥る。沈黙の中にこそ知恵がある。
だが、トロールはすぐに答えようとした。
マウンテントロール
「子供は… 親の愛情に包まれる存在…… んんんんんんんん〜〜〜〜〜 家庭のぬくもりで… 育まれる存在!……」
紫微大王
「ブーーーーー❗❗ … 時間切れ、残念!
正解は〜〈子供は社会に生えてくる〉存在ぃ〜。」
マウンテントロール
「親から生まれるのに… ナゼだぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!」
紫微大王
「だ・か・ら、50過ぎの偏屈オヤジが、こんな本、書いたんだって言ったろぉ〜
生まれた子供は、母親から引き離して、公営の保育所で養育するんだと。しかも、
親は ❝適格❞ な人間の繁殖のため ❝選別❞ されて、結婚は一ヶ月間だけ。」
マウンテントロール
「子供には、家庭のぬくもりが必要だッ……
コイツの書いた本は… ヒューマンたちに影響を与えたのか?……」
紫微大王
「与えた、与えた、与えまくりヨォ〜〜
子供に、家庭の中で親を見張らせて、政府に批判的な親を、告発させたバカ政府。
子供に親を処刑させた、バカ野郎たちもいたぜぇ〜〜〜
しかもコイツらは、裁かれることが、有りませんでしたっ! 本当だぞぉ〜」
マウンテントロール
「狂ってる… ヒューマンは…… 狂ってる!!」
紫微大王
「ヒューマンはすでに、5~6回は滅んでんだゼぇ! 今の連中は知らんがな〜〜
… だから、トロールとヒューマンの約定、詰まり〈ヒューマンは、如何にバカで間抜けであるか〉が書いてあって、その秘密を記した、『古よりの叡智の書』な訳よぉ〜」
マウンテントロール
「… ブウウウウゥゥ……」
だいぶ、トロールの感情はもどり、落ち着いて来ている。
紫微大王
「オレはな、兄弟がヒューマンを滅ぼしたいってなら、止めねぇよ。いやむしろ、手を貸しても良いねぇ。
でもな兄弟、ここの村はヒューマンの村じゃ無い〜 獣人の村だぜ。ソコんとこは考えた方がな、後悔しても、寝覚めが悪りぃだろぉ〜」
マウンテントロール
「…… そぉだな… 自分は優秀だと思っている馬鹿は、始末に負えない。ヒューマンはまた、勝手に滅ぶだろぅ……」
大王はゆっくり、頷いた。
静寂の中、真実は響く。
トロールの目が、わずかに潤んだように見えた。
その瞳に渦巻く黒い靄がスゥッと引いた。まるで瘴気が解けるように、
マウンテントロールの身体から、闇が剥がれ落ち、壊れて消えて行く。
草生す苔の下から現れたのは、活況の長寿者のような、笑顔であった。
マウンテントロール
「… 知は、檻…… だが、解放でもある……」
そう言い残して、マウンテントロールは後退ると、山々の奥へ消え…… 動くのを辞めた。
あたりの音は、つつがなく消失し、
暴風も、山鳴りも、木がきしむ音も、森のざわめきも、その一切が無くなる。
残された者たちは、ようやく息をついた。
大王は、少ない髪をかき上げながら。
紫微大王
「ま…… 喧嘩より頭使う方が、腰痛くなくて良いなぁ。
もうイイ歳なのよ〜」
村人も、誰も笑わなかったが―――― その頭のてっぺんの、透けて光沢のある頭皮だけは、山よりも高く誇らしげに眩しく見えた。
× × ×
とは言え、ことが終わると流石に、❝紫微大王❞ を、怪しむ者も出てくる。どうしても先ず、この道化の扮装をする男の、場違いさだ。
マウンテントロールを追い返した、彼の雄弁には舌を巻いても、仲間内で、騒いでいるようにも見える。
なんと言っても。ベイト・ノワール渓谷の、魔物の噂を、ケモイチ村の村民なら、知らぬ者はいないのだから。
世界衛生ウイルス研究所の、防護服とパワードスーツの者たちが、紫微大王へにじりより、
白いドラム缶のような、パワードスーツの手には、棒状の、雷魔鉱物スタンガンが、バチバチと唸りを上げている。
紫微大王
「しゃがめ! しゃがめ… しゃがめ〜って!」
紫微大王は唐突にそう言い出して、しゃがむと、近くの村人もしゃがみ、それへ釣られて、防護服の者たちまでが、しゃがんだ。
パワードスーツの者たちだけは、なにが起こっているのか理解できず、例えしゃがむ者がいても、パワードスーツは容易に、しゃがめるようには、出来ていないようで、
しゃがんでも、それなりの上背は何ともできない。
そうこうしている処へ、ヌッと顔が出ました、一際大きなサラマンダー。
青銅製の美少年像の、❝恐怖の大王❞ に憑依する、幽霊ファントームの廉貞を、頭へ乗せて、
時計の針とは反対に、身体を回転させて、尻尾を一振りした。
紫微大王の数少ない髪が、激しくそよぐ。
ドド〜〜〜ン!
そこに居たパワードスーツ全部が、この一かきの衝撃を受け、村の外へと、見事に吹っ飛ばされた者4体。その場で転げ回った者2体、建物に突き刺さった者3体。となり、
パワードスーツはピクリとも動かず、中の者の状態も不明だ。
紫微大王
「良かったろぉ〜 しゃがんどいて〜 ギャハハハハ〜〜!」
捨て台詞を残し、ダッシュで逃げ出す紫微大王。




