34 渓谷の黄昏
○【ベイト・ノワール渓谷の黄昏】
未だ氷雨やまぬ、
かつて ❝死の谷❞ と呼ばれた、ベイト・ノワール渓谷の山間の底深く、
硫黄の臭い漂い、赤黒く熱風吹き出す、熔岩湿地帯を過ぎると、一筋の光明が奇跡のように目へ飛び込む。
清らかな水が湧き出し、泉を湛えたそこだけは、まるで楽園に咲ける蓮の花の如く、煌煌と輝いて見えた。
馬防柵に囲まれる、ウォートロールたちは。
その光りへ誘われ導かれ、這いずり廻り進んで来る。
ウオォォオォォ……
ウオォォォオォ……
ウオオォォォォ……
けれどこの理想郷の内にあっても、感染症の病状は、心身を蝕み、暴力は止むことを知らず、
侵された身体は痛みに狂い、互いを殴り、喚き、血と泥を撒き散らした。
その有様は、澄んだ湧き水の水面へ、ありありと映し出されている。
その鏡のように透明な水の表面が、静かに波紋を広げ、水鏡の底から、ぬるりと何かが姿を現した!
水面から伸びる、列車ほどもあろうかという触手から、さらに触手が生え伸長して、暴れ狂うウォートロールたちの、身体を絡め取る。
それは、鏡モンスター ❝触手大帝 タコシャチョー❞
抵抗する間もなく、ウォートロールは一人、また一人と、水鏡の向こう―――― ありし日の『火焔牢獄』跡へと、引きずり込まれて行く。
そこには C:。彡 C:。ミ、タコ魔物共が待ちかまえ、
サラマンダー・パウダーによる、治療がウォートロールに施されていた。
氷雨もそろそろ降るのをやめ、渓谷はふたたび熔岩沼のざわめきと、安けき泉の平穏へかえる。
雲の切れ間から夕陽のみが、何事もなかったかのように、泉を照らし続けていた。
○【ケモイチ村への道、夜】
ギヨティーヌ
「うまくいってる、みたいですわ。」
巨大化した巨門は、馬防柵の位置を操作しながら、ウォートロールを上手に、❝ベイト・ノワール渓谷❞ へ導くか、もしくは ❝トロールの丘❞ へもどして、
ケモイチ村へは入れないようにしていた。
マノンの言葉による ❝虫除け❞ に「塩のラインを引いてバリアを作ります。」から、ギヨティーヌが思いついた計だ。
馬ではないウォートロールに、馬防柵がどれほどの効果が望めるか、分からなかったのだが、効果は有るように見えた。
馬防柵は、『長篠の戦い』で織田・徳川連合軍が、武田騎馬隊を防ぐため築いた柵である。
○【ケモイチ村への道、夜の馬防柵】
当然、ウォートロールの数が多ければ、思惑通りに誘導できず、馬防柵に張り付いて、ベイト・ノワール渓谷へ行かないウォートロールもでてくる。
ウォートロール
「ウオォォォオォォォ!」
アルコル
「❧ゴスロリ❦冥土に✾メタモルフォーゼ★彡❤」
メガネをはずし、四次元バッグが ✪マジカル❥アルコル★彡ステッキ❂へ変わり、
ステッキを頭上へかざし、くるくるっ回転させると、地味目なメイドから、❧ゴスロリ❦冥土へ✾華麗なる変身を果たす★彡
タコ魔物たち
「投げるタコ、投げるタコ〜〜」
アルコル
「あたしの下僕ぇ〜〜〜✨✨✨タコ魔物さ〜ん C:。彡 C:。ミ 頑張って❤」
タコ魔物
「相変わらず、タコに厳しい職場タコ〜」
馬防柵を乗り越えようとする、ウォートロールが出るであろう、そんな場所には、あらかじめタコ魔物を待機させていた。
サラマンダー・パウダーは、朱絹のような糸を引き、ウォートロールの顔めがけ投げつけられていくと、トロールは粉を嫌がり、一瞬痙攣するが、黒い靄のかかった目が澄んだ色へもどり、力尽きたように大人しくなる。
こうして、ウォーウイルスの治療を、次々やっていくのが、❥アルコルちゃん★彡と、タコ魔物の役割なのだ。
そこへ一定のリズムで、
地面が、かすかに震えているのを感じる。
最初は、風が木々を揺らす音だと思った。鳥の群れが羽ばたいているのだと考えた。
でも、その小さな低音は、大地の底から響いて、徐々に規則的なリズムが、地響きがだんだんと、近くなって来るのがわかる。
ズン…… ズン…… ズン……
山が動いている?! 地盤の移動? 岩盤の隆起??
ウォートロールを、ベイト・ノワール渓谷へ誘導するため、馬防柵を移動したり、ウォートロールを手で追いやったりしていた。
巨人ジェアンの巨門とその肩に乗るのは、
❝恐怖の大王❞ の少年像に憑依する、幽霊ファントームの廉貞と、ギヨティーヌ・タタンだ。
そのギヨティーヌの高い目線からは、山の接近が良く見えた。
森の木々は、右へゆっくりと揺れ、次に左へと傾きながら迫って来て、
根を引きちぎられた高木が宙に浮き、土煙は舞い上がる。
青銅の少年、廉貞
「山が動いてるの〜」
ギヨティーヌ
「… 近付いて来てますわ……
目が有りますのね… こちらを睨んでますわぁ!
ꉂꉂ(๑˃▿˂)ノ゛)) おほほほほ」
巨門
「なにィ❕」




