31 急襲、トロールの森
○【トロールの森】
昼なお暗きトロールの森に、静かに足を踏み入れる武曲と禄存の前で、不審な影の複数が蠢いた。
白く丸っこいドラム缶から、手足が生えたような、感染症の防護服… と言うよりパワードスーツであろうか。
侍⚔武曲の左手は、腰の鞘口へそえられた。
武曲
「ラ・キャン帝国の救援隊ならば、わかりやすく喧伝するであろうな…」
禄存
「『WHVI』と、ロゴが入って御座る。」
パワードスーツの集団は、ぞろぞろ移動して森を西へ抜け、数台の魔動蒸気トラックに、大きな何かを乗せ北へと走り去って行く。
忍者✦禄存は追跡のため、その1台の黒い煙を吐き出し動き出す、魔動トラックの屋根に張り付いた。
武曲
(禄存どのは、彼奴らに着いて行かれたか。では某は、残っておる奴ら目を……)
そこには、5体の白いドラム缶パワードスーツが、バチバチと唸る棒状の、雷魔鉱物スタンガンを持ち、数名のトロールを追い詰めている。
武曲
「おい。」
短く、武曲は一声発すと、
左手で腰の物を押し出し、右手の平は上へ向け、刀の柄へ置かれた。
白いパワードスーツの群れが、一斉に振り向き、
一体の両手に握られる、雷魔鉱物棒スタンガンは、青白い火花を散らして唸りを上げ、右・左と電撃の閃光は、武曲へ向けて突き出される。
だが武曲の姿は、もうそこにはない。
滑るように左へ回り込み、鞘走りの音とともに、雷魔鉱石を鍛え造られし電光の刀⚔紫電は抜かれ、蒼光を帯びて瞬いた。
一閃。斜め上へ残像だけを残し斬り上げ1体。
二閃。振り下ろして次の1体。
三閃。踏み込み突いてもう1体。パワードスーツの装甲を貫く。
一息の半分の速さで、3体の白いパワードスーツは、雷魔鉱物棒のスタンガンごと、雷鳴と共に斬り伏せられた。
同じ ❝雷魔素❞ の獲物でも、
❝雷魔素❞ が結晶化した ❝魔鉱石❞ を鍛えた一振りの『刀』と、
❝雷魔素❞ をふくむだけの ❝魔鉱物❞ 製スタンガンでは、天と地ほどの差があるのだ。
電磁網を広げた2体のパワードスーツが、武曲を包囲する。しかし、網は張りきる間もなく、紫電の一閃であっさり斬り裂かれ。
焦げた火花が宇へ零れた。それと同時に、
背後で金属を軋ませる音が響く。
ギギギッ! ガガガガガ!!
感染から狂暴化した、身の丈2メートルほどのウォートロールが吼え、パワードスーツへ組み付き、装甲ごと締め上げ、合金の腕をねじ切った音だ。
そしてウォートロールが、今度は武曲へ向かって来た。
武曲は黒い小さな包みを飛ばし、トロールの顔へ当たると、朱い絹のように煌めく粉が舞う。
サラマンダーを黒焼きにして、粉末にした薬『サラマンダー・パウダー』だ。
効果のほどは如何なものか、未知のモノだが、命を奪う類のものではない。
ウォートロール
「ウオォォ〜ォォォ〜〜」
トロールは粉を嫌がり、苦悶の叫びとも、浄化の呻きともつかぬ声を上げ、巨体が震え、痙攣した。
暗い靄に覆われる目が、次第に澄んだ色を取り戻し、
そして膝を折り、座り込んで、静かに呼吸を整えるように動かなくなる。
武曲は、倒れていたトロールへも、サラマンダー・パウダーを投じ、朱い光は淡く糸を引き。
ほどなく彼らの動きも止まり、荒い息だけを残して、木にもたれかかるように眠りへついた。
武曲
(動き回って、疲れたのであろう。サラマンダーは効き目が有りそうで何より、愛弟子どのも喜び申そう。)
「さて、お前たちには聞きたいことがある。素直に喋ってもらおう。」
パワードスーツへ向きなおり、中に居るであろう人物へ語りかける武曲。
パワードスーツの中身
「何も喋るものか! なめるなよ〜」
くぐもった声が中から聴こえ、武曲が脇差し代わりの ❝兜割り❞ を、パワードスーツへ突き刺すと。
パワードスーツの中身
「わぁ〜っ! 私たちは、世界衛生ウイルス研究所の職員である。
ウォーウイルスの調査に来た!」
武曲
「なぜトロールたちを襲っている。」
パワードスーツの職員
「感染個体の採集のためだ!」
武曲
「生きたトロールがいないのは何故だ、すべて採集したのか?」
パワードスーツの職員
「いや、それは… ウォートロールを、ケモイチ村に追いやったから……」
武曲
(やはりそう言うことを、やっておるのか。)
「どうしてこの感染症が蔓延するに至ったか、知っておるか?」
パワードスーツの職員
「それは… そんなことを言うわけないだろ〜!」
武曲
「そうか。」
兜割りをパワードスーツより抜くと、武曲はもう一度、別の箇所へ突き刺そうと、トントンその場所を小突く。
パワードスーツの職員
「わわわっ、知ってます、知ってます。ごめんなさい、思い出しました!
ウォ、ウォーウイルスに感染した人間を、トロールが住む丘に放したからです!」
武曲
「なに?! 何故にそのような酷いことをする!」
パワードスーツの職員
「所長の… 世界衛生ウイルス研究所の、所長の娘が、トロールに取り替えられたから… と聞きました!」
武曲
「これは… 至急、連絡をとらねば。」
武曲は懐より木札を取り出し、空へ踊らせると、それは白金色の手乗り豆柴の、御霊犬へと変わった。
武曲
「たのみまするぞ、貪狼どのの御眷属どの!」
眷属霊犬 戌
「 ◤˶•̀㉨•́˶◥ わんわんお! わんわんお!」




