28 完璧な赤
○【世界衛生ウイルス研究所、講堂】
ベラ・マルグヴェンは若くして、世界衛生ウイルス研究所の、所長となる程の才気にあふれ、
結婚・離婚と、子育てを経験しながら、その年齢を感じさせない、秦皮樹の実のように真っ赤な髪の輝きと、クリームの肌の瑞々しさを保つヒューマン女性である。
「才色兼備とは、まさしく彼女のような女性を、指すための言葉であろう。」
とは、ベラ・マルグヴェンを、世界衛生ウイルス研究所所長へ推した、学会・政界・財界のフィクサーたちの言葉だ。
ベラ・マルグヴェン所長の瞳は、常に冷徹な戦略を湛え。穏やかな微笑の奥には、氷のように澄んだ、狂気の輪郭が見え隠れしている。
そして皆は彼女のことをこう呼ぶ。
『完璧な赤 (Rouge parfait)』
彼女の計画した、ウォーウイルスの感染爆発計画を、実行すべく。
❝トロールの丘❞ へ、そして ❝ケモイチ村❞ へ。感染者を送り込む実行犯、研究員・職員たちを前に、
世界衛生ウイルス研究所の講堂は、ベラ・マルグヴェン所長の靴音が、床を踏むごとに響き、皆は息を飲む。
照明は抑えられ、壁に映る影が人々の顔を濃く深く切り取った。
そして、ベラ・マルグヴェンの姿はその中心で、彫像とも女神ともつかぬ、静謐を湛え、彼らを煽動するための演説が今、始まる。
ベラ・マルグヴェン所長
「諸君、私はウイルスが好きだ。
私はウイルスが好きだ。
私はウイルスが大好きだ。
ノ○ウイルス が好きだ。
天○痘ウイルス が好きだ。
アデ○ウイルス が好きだ。
インフルエン○ウイルス が好きだ。
風○ウイルス が好きだ。
ヘルペ○ウイルス が好きだ。
コロ○ウイルス が好きだ。
この地上で感染する、ありとあらゆる、ウイルス性○患が大好きだ。
ウイルスが細胞に付着して侵入し、その細胞を宿主細胞にするのが好きだ。
ウイルスが宿主細胞を操り、自分のDNAやRNAを強制的に複製させる時など、胸がすくような気持ちだ。
ウイルスに強制された宿主細胞が、撹乱されて正常に機能できなくなり、死ぬ様は感動すら覚える。
宿主細胞が死んで、その細胞から新たなウイルスが放出されるのも最高だ。
そしてまた、他の細胞に感染して新たな宿主細胞にする。
これをウイルスが繰り返すのが大好きだ。
諸君、私は感染を。地獄のようなパンデ○ックを望んでいる。」
世界衛生ウイルス研究所 研究員
「パンデ○ック! パン○ミック! パンデ○ック! パン○ミック!」
ベラ・マルグヴェンの言葉は詩となり、詩は呪文になる。
若い研究員たちが、ある者は熱狂し、ある者は鼓舞され、集団は激しく歓呼の声を上げて、足を踏み鳴らし賛意が波となって広がり、
その波は不穏な振動を呼んで、床を震わせた!
ベラ・マルグヴェン所長
「よろしい、ならばパンデ○ックだ。
世界をウイルス○染しつくしてやる。
逝くぞ、諸君。」
皆の歓喜は、際限の無い渦となり増大して征く――――




