24 ルーン秘文
○【火焔牢獄、少年像は眼の前】
マノン
「なんだか、ドキドキしますねお師匠さま。」
ギヨティーヌ
「そぉ、ですわね……」
(これはどう言う状況なんでしょう、観客が多いようですが……)
クロ・ド・プラチナの雲に乗り、上下逆さまの火焔牢獄の少年像を、あらためて真正面に相対する少女たち。
巨人ジェアンの巨門が、タコを蹴り込み、興奮していた大量のサラマンダーも、少しは落ち着いたかと思っていたが……
紫微一族全員に大勢のタコまでも、ことの顛末を見守ろうと、詰めかけるものだから、またも騒めくサラマンダー。
ギヨティーヌ
「みなさん、とにかく魔人さんとフェニックスさん、それと騒がせたサラマンダーさんたちに、敬意をはらい礼を取りましょう。」
紫微大王
「いや先程、サラマンダー食べてませんでしたっけ〜」
ギヨティーヌ
「それはそれ、これはこれ、ですわ。」
弓張り月の光は泉より栄え、ギヨティーヌたちを照らし出す静寂を乱し、眼の前で燃え盛る炎の声と、サラマンダーの蠢く喧騒が、低音に響く。
ギヨティーヌ・タタンは長い翠玉色の髪を、熱風に吹き上がらせ、厳かな所作で火焔牢獄へ、そして面前に逆さで向き合う『眠れる魔人』に、一礼を捧げた。
背後の、クロ・ド・プラチナ、それへ乗るマノン・マドレーヌ、紫微一族たちが控え、これに倣う。
一刹那、それへ応えるように牢獄の焔は揺らめきを止め、サラマンダーの動きは止まった。
逆さの砂時計だけが、不可思議な時を刻み続けている。
禄存
「ギヨティーヌさま、何者かが……」
忍者の禄存が、ギヨティーヌへ何やら耳打ちすると姿を消した。
火焔牢獄の中で、永き夢の世界を旅する少年の魔人は、ブロンズのドナテッロ作『ダヴィデ像』にも似て、無言を護る唇だけが生の名残を主張する。
クロ・ド・プラチナ
「見るが良い、泉を。」
濁りなき泉へ波紋は走り、淡く紅の輝きが踊った。やがて水面へ、古びた文字が浮かび上がる。
『"ᛋᛖᛗᛖᚾ ᛋᚢᛗ ᛢᚢᛟᛞ ᛖᛉ ᛋᛟᛗᚾᛟ ᛟᛗᚾᛁᚢᛗ ᚱᛖᚱᚢᛗ ᚷᛖᚱᛗᛁᚾᚨᛒᛁᛏ ᛖᛏ ᛗᚢᚾᛞᚢᛗ ᛗᚢᛏᚨᛒᛁᛏ.
ᛟᛒᛚᚨᛏᛁᛟ ᛋᚢᛗ ᚲᚱᛖᚨᛏᚨ ᚨᛞ ᛗᚢᚾᛞᚢᛗ ᛈᚱᛟᛏᛖᚷᛖᚾᛞᚢᛗ ᚢᛖᛚ ᚱᛖᚷᛖᚾᛞᚢᛗ.
ᚷᚢᛏᛏᚨᛗ ᛋᚨᚾᚷᚢᛁᚾᛁᛋ ᛏᚢᛁ ᛁᚾ ᛚᚨᛒᛁᚨ ᛗᛖᚨ ᛁᚾᚠᚢᚾᛞᛖ, ᛖᛏ ᚱᛁᛗᚨᛖ ᛁᚾ ᛗᚢᚾᛞᛟ ᚢᛖᚺᛖᛗᛖᚾᛏᛖᚱ ᚠᚱᛖᛗᛖᚾᛏ ᛖᛏ ᚠᛟᚱᛗᚨᛗ ᛗᚢᛏᚨᛒᚢᚾᛏ."
"ᛈᚱᛟᚷᚱᛖᛞᛁ ᛖᛋᛏ ᚱᛖᚲᛖᛞᛖᚱᛖ, ᚠᛁᚾᛁᛋ ᛖᛋᛏ ᛁᚾᛁᛏᛁᚢᛗ."
"ᛢᚢᛁ ᛢᚢᚨᛖᚱᛁᛏ ᚾᛟᚾ ᛢᚢᚨᛖᚱᛁᛏ, ᛖᛏ ᛢᚢᛁ ᚺᚨᛒᛖᛏ, ᚨᛒᛁᚲᛁᛏ."
"ᛚᚨᚲᚱᛁᛗᚨᛖ ᛖᛉ ᛟᚲᚢᛚᛁᛋ ᛈᚢᛖᚱᛁ ᚠᛚᚢᛖᚾᛏᛖᛋ, ᚲᛟᛚᛚᛁᚷᛁ ᛈᛟᛏᛖᛋᛏ ᛏᚨᚾᛏᚢᛗ ᛚᚢᚾᛁᛋ ᛁᚾᚢᛖᚱᛋᛁᛋ, ᚠᛚᚨᛗᛗᚨᛖ ᛈᚺᛟᛖᚾᛁᚲᛁᛋ ᚢᚾᛟ ᚺᚨᛚᛁᛏᚢ ᛖᛉᛋᛏᛁᚾᚷᚢᚢᚾᛏᚢᚱ."』
ギヨティーヌ
「ルーン文字、みたいですわね……
あーあ? ハァ〜〜… アルファベットの数だけ、文字が無いんですのよ―――― これは難解ですわ!」
ギヨティーヌは、マダム・ローズ・タルトより教わった古語知識から、エルダーフサルク・ルーン文字であろうことは判るのだ、しかし読み解こうと試みるも、
古代文字はあまりにも未知であり、意味をなさなかった。重い沈黙が流れる。
文曲
「❝我こそ万有の眠りより芽吹き、世界を変える種子なり。
我は世界を護るため、あるいは支配するため創られし供物である。
汝の血の一滴を我が唇へ注げ、世界の綻びは激しく咆哮し姿を変えるであろう。❞
❝進むは退く、終わりは始まり。❞
❝求める者は求めず、得る者は捨て去る。❞
❝少年の瞳より流れた涙は、逆さの月でしか集められず、フェニックスの炎は一息にて消える。❞」
朗々たる響きをもって歌うは、アンデッドにして古代の文章博士、文曲であった。
黄昏のメガネを✴クイッと指で押し上げ、文字をひとつひとつ読み上げて行く。




