19 火山神の心臓
○【火焔牢獄】
ギヨティーヌ
「マノンさん、ご覧なさい! マノンさん、」
マノン・マドレーヌは、熔岩沼よりもさらなる熱気を感じ、つぶった眼を開けてみると、そこは『火山神の心臓』の中。
目の前で、激しく燃えさかる劫火の真真中に、
瞳を固く閉じ、銀色の長い髪を炎へたゆらせ、真裸の美しき青銅の少年像は、火焔に封緘され、逆さに一人立っていた。
少女たちの足元には、どこまでも漆黒の宇宙が広がり、共に落ちて行くさまは、重力の軛より解き放たれる思いだ。
マノン
「お師匠さまぁ〜」
火焔に真紅へ染まる世界に、巨大な⏳砂時計の砂は落ちず、反対に砂が登る ❝あべこべ砂時計❞ があり。
以前ギヨティーヌが見た、清らかな泉は、頭上へ裏返しに有って、森の太陽が変化した上弦の半月が泉へ映り込み、
本物の月は足元には無く、ただ闇が深くなるばかり。
天より真下へ伸びる木々の葉の一枚一枚に溢れた、雫に映る半月の灯りが暗黒へ溶けてゆく。
どこまでも、どこまでも落ちるかと思われたが、雲の上へふんわり着地した。
クロ・ド・プラチナが霧を呼び、そこへ一同で落ち着いたのである。
ギヨティーヌ
「お〜ぅ♬ クロさま、ありがとう存じます。」
マノン
「ありがとう御座います、クロ・ド・プラチナさま。ビックリしちゃいました〜」
クロ・ド・プラチナ
「マノンよ、我にしっかり捉まるが良い。」
マノン
「はい、クロ・ド・プラチナさま!」
❝あべこべ砂時計❞ が一杯になり反転すると、
燃えさかる煉獄の少年像の真下で、
ひときわ眩い炎が立ち上がり、空気は震え、一陣の風が吹き渡り真白き灰は舞い上がる。
火の鳥の姿が崩れ落ち、金色の翼はゆっくりと燃え尽きていった――――
けれども沈黙は長くは続かない、
灰の中ではほのかに灯火が脈打ち、鼓動は熱を帯び始め、焔は再び息を吹き返し、一筋の閃光が天へ向かって突き抜けた。
「カーーーーーッ!」
聞き覚えの有る雄叫びと共に、
荘厳な光をまとい、羽撃くたび飛び散る火玉と、玉眼は新たな生命の輝きをたたえ、
灰の中より黄泉がえりしその姿は、不死と蘇生、そして希望の象徴そのものの一羽の鳥、フェニックスである。
マノン
「お師匠さま!……」
ギヨティーヌ
「…… ええ、フェニックスの蘇生ですわね。」
クロ・ド・プラチナ
「だが、フェニックスが飛び立つことはない。
火焔牢獄とは、炎に青銅の魔人を囚えているのではなく、フェニックスを囚えているのだ。
飛び立てなければ、フェニックスはいずれまた焼け落ち、何度でもここで死と復活を繰り返すだろう。」
師弟はこの出来事に驚嘆し、ただ見守るばかりだったが、
古のサイクロンたる、クロ・ド・プラチナは。そうして飛び立てぬ不死鳥を、先頃までの自らになぞらえ、同情の念を抱いているように見えた。
タコ魔物
「うわぁぁぁん、うわぁぁぁぁぁん!」
タコ魔物はこの状況を、付け入る隙を得たりと見たか、一声叫ぶと、ギヨティーヌの手から逃れるべく、触手の真ん中の、尖いトンビのクチバシで彼女を噛み砕こうと仕掛ける!
ギヨティーヌはタコ足に、「ポ、ポ、ポ」と、人差し指を突き入れた。
タコ魔物
「あ? なんだ……」グニャグニャ グシャリッ
ギヨティーヌ
「タコ叩き拳、ですわ。茹でダコは、これにかぎりましてよ!」
タコ魔物
「い・ぼ・す!!」
タコを岩へ叩き付けたり、包丁の背、すりこぎ棒や、大根で叩き、柔らかく食べるのと同じだ。筋肉繊維がどんどん断たれ破壊していく、
タコ魔物は破裂して穴が開き、空気が抜けた風船のように潰れて、絶命した。
それでも、先程の一叫を相図とした突撃で、頭上の泉の水面より次々とタコ魔物が現れ、襲いかからんとする。
ギヨティーヌ
「出て来い、出て来い紫微一族!」
貪狼
「貪狼、御目通り光栄に存じます。はら〜り〜」
巨門
「巨門、行きまーす。一緒に世界へ羽ばたこうぜっ!」
禄存
「禄存、ただいま参上!」
文曲
「文曲でーす、DJやってまーす! 今夜は、一緒に盛り上がっていくぜ! よろしく♬」
廉貞
「廉貞、呼ばれて 飛び出て ジャジャジャジャ〜ン!」
武曲
「武曲、拝謁を賜り恐悦至極。」
死兆
「❦死兆ちゃん、じゃなくて ❥アルコルちゃん★彡 来ちゃいましたぁ (-д☆)キラッ✨✨✨」
破軍
「Yo 破軍だ、今日のMC OK? 俺たちゃハミ出し野郎 そうアウトロー
自由に向かって ビートぶち上がって
突っ走るゼ、We are! ぶっちぎり紫微ヒャッハ〜ズ!」
紫微大王
「子供たちよぉ、汚物は消毒だぁぁぁ〜〜〜〜!!」
紫微一族 一同
「ヒャッハー!!」