17 トゥオネラの白鳥
マノン
「何をやってるんですか、お師匠さまから離れてくださいぃぃ!
クロ・ド・プラチナさま、降ろしてください!」
クロ・ド・プラチナ
「降りてはならぬ、マノンよ。それはギヨティーヌの望むところではない。」
と、クロ・ド・プラチナは留めたが、マノン・マドレーヌが無理にでも、飛び降りようとするため、
クロ・ド・プラチナはマノンの意を汲み、地上へ降り立つ。
紫微大王
「良く来たねお嬢ちゃん、どんな願いでも叶えて上げるよ〜 どんな願いかな? お金持ちになることかな? 強くなることかな?
あ〜 わかった有名になりたいんだね、お嬢ちゃん位の年頃は誰でもそう願うものだからね。
良いよぉ〜 どうヤレば有名になれるか、占ってあげよぉ〜 さッ、コッチにおいで。さぁ〜〜」
マノン
「お師匠さまから、離れてください!」
紫微大王
「その願い、聞き届けてやるッ!」
紫微大王がそう言い放ち、ギヨティーヌから足を離す。
それと同時にマノン・マドレーヌは、ガクリとクロ・ド・プラチナの背の上へ、崩れ落ちてしまった。
紫微大王
「おお〜 美味ちい美味ちい、若い娘の ❝願望❞ は美味じゃのぉ〜 ブァッファッファッハッハッハッハ〜〜〜
もぉっとドロッドロッした願いごとは無いのかのぉ、お嬢ちゃぁ〜ん。ハアハア ハアハア」
マノン
「お師匠さまを返してください…… 元にもどしてください! それが願いです……」
マノン・マドレーヌは声を振り絞り、氣力を奮い立たせて身体を起こし、己が願望を表すが、
紫微大王
「はぁ?! 聴こえんなぁ〜〜」
顔芸も最高潮の紫微大王は、世のありとあらゆる物を馬鹿にして、再びギヨティーヌの頭を踏み付ける。
クロ・ド・プラチナ
「紫微、と言ったか?」
紫微大王
「はぁ? なっ、なんなんだよ? お前ぇ〜?」
静観していたクロ・ド・プラチナが、一声を発す。
クロ・ド・プラチナ
「我もお前の真似をしてみよう。その足を決して離すなよ。」
紫微大王
「なに言ってんだ〜ぁん?!」
その時、紫微大王の足に引力のような不思議な力が加わり、足を動かせなくなった。
同時に、凄まじい ❝氣力❞ の高まりが紫微大王の足元より生じ、盛り上がるギヨティーヌ・タタンの形貌に、
紫微大王
「なっ、なんなんだよ! これぇ〜〜〜〜〜」
紫微大王は、天地がひっくり返るほど驚いたようで、それでも足はギヨティーヌの頭から離れないため、
後頭部より後ろへ逆さまに転倒するのは、紫微大王の番だった。
ギヨティーヌ
「蘇生能力を獲て、ギヨティーヌ・タタン、大・復・活ぅ デスわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ━━━━━!!!!!!!!
マノンさん、貴方もお食べなさい。強い子になれましてよ。あら? わたくしの頭に何かクッ着いてる。」
紫微大王
「ひぃ〜〜〜〜〜」
ギヨティーヌ・タタンは、マノン・マドレーヌとクロ・ド・プラチナの元へ駆け寄る。腰を抜かして引きづられ、ギタンギタンギタンと、弾む紫微大王。
紫微大王
「あいったー、あいったー、あいったー」
マノン
「お師匠さま、良かったです……」
ギヨティーヌ
「あら、マノンさん、また泣いたりして。おかしいですわよ。
―――― 心配かけてしまったんですのね、わたくしのバカバカ。さっ、マノンさん、サラマンダーのお味、意外と悪く無いですわよ。
蘇生能力と引き換えに、三途の川で泳ぐ白鳥が見えましたけど…… 悪い眺めでは有りませんでしたわ。」
マノン
「い、いいですよわたしは〜〜」
ギヨティーヌ
「クロさま、失礼いたしますわよっ。」
そう言うと、紫微大王を後頭部へ付けたまま、クロ・ド・プラチナからマノン・マドレーヌをお姫様抱っこで降ろし、
また捕まえたサラマンダーの一匹を、マノンの口元へ……
マノン
「きゃ〜、助けてぇ〜〜〜」
ギヨティーヌ
「死んでも蘇りますから、さ、さぁ〜 遠慮せずに〜」
マノン
「んがっ、ぐっぐっ」
マノン・マドレーヌは、小さい山椒魚とは言え、生きたまま、丸ごと呑み込んだのは初めてである。
ましてやサラマンダーを口にするなど、考えもしないことであった。気は遠退いて行く〜〜〜〜
○【トゥオネラの黒い川(冥界の三途の川)】
マノン
(…… 水のほとりに一羽の白鳥は踊り、水面へ半月が映り、青白き光を照らし返す…
向こう岸に、笑顔で手を振る亡くなった、お祖父ちゃん……
あっ―――― お父さんっ! お父さん… 何か言ってる……)
「えっ何? 聞こえない、お父さん、お父さん、お父さぁん――――」
娘へ父親は、向こう側から大声で何か伝えたいようだ、しかしこちらへは届かない。
けれども父が指し示す水面を、覗き込むと、水鏡に映るのは、自分ではなく、激しく燃え立つ炎に焼かれた一体の銅像だ。
マノン
(この、裸の男の子の像が、先程クロ・ド・プラチナさまが申しておられた、❝古代文明を2度に渡り水没させた魔人❞ なのかも知れない。
今、見たことを忘れないようにしよう……)
と考えていたら、水面より伸びる触手がマノン・マドレーヌを捕らえて、
タコ魔物
「うわぁぁぁん、うわぁぁぁぁぁん!」
と、赤ん坊が泣き叫ぶような凄まじい喚き声を発しながら、水鏡へ引きずり込もうとする!
マノン
「チェスト━━━! セイャ! セイセイセイセイセイセイセイセイセイャ━━ッ!!」
大ダコの魔物が、触手の真ん中にある、尖いトンビのクチバシで喰いつこうとすれば、
マノンは反射的に、正拳の左右の連打を炸裂させ、触手から逃れ―――― たら目が覚めた。