16 火焔牢獄の上空
○【雲の上、火焔牢獄の上空】
ギヨティーヌ
「フェニックスが再生して、穴から火を吹くのですわね…… クロさま、もう少し近づけますかしら。」
クロ・ド・プラチナは、熱を肌で感じる所まで降りてくれた。
ここまで来れば、ギヨティーヌ・タタンには ❝氣❞ の流れ、この世界で言う ❝魔素❞ の流れが、手に取るように分かる。
ギヨティーヌ
「この魔素、中枢になる物が有りましてよ。別の巨大な ❝魔力❞ も感じますわ。
それと…… 無数の大小の魔力を持ったモノが蠢いていますわね。」
マノン
「何か出て来ましたよ、お師匠さま! 蜥蜴? ですか?」
ギヨティーヌ
「そぉみたいですわね……」
確かに、蜥蜴らしき数匹が赤く燃える穴から出て来る。これに対し、クロ・ド・プラチナは応えた。
クロ・ド・プラチナ
「あれは、サラマンダーである。」
ギヨティーヌ
「?!」
ギヨティーヌ・タタンは、教育係のマダム・ローズ・タルトから、教わった内容を思い起こす。
4大元素にはそれぞれ対応する『精霊』がいると。
土(地)には〈ノーム〉。水には〈ウンディーネ〉。風(空気)には〈シルフ〉。そして、火には〈サラマンダー〉だ!
ギヨティーヌ
「火の精霊、サラマンダーですわね。と言うことは両生類、初めて見ましたわ、サラマンダーなんて。」
マノン
「…… サラマンダー。お師匠さま、サラマンダーの話しは、聞いたことが有ります。」
ギヨティーヌ
「ケモイチ村に、伝承か何かが有りますの?」
マノン
「はい、毒が有るんですけど、その毒が万病に効く、薬になると云われてまして。
家族の病気を治すために、熔岩沼まで征く村人たちがいます。でも…… 魔物が出ますから、何人も戻って来ない人たちもいまして――――
小石が降ったり、骸骨が踊ったり。呪詛ピエロや、人狼ルー・ガルー、吸血鬼ヴァンピール、巨人ジェアンに。
メガネが浮遊して追っかけて来た、と云う人もいました。
でも一番凶悪なのは、タコの魔物なんです。」
ギヨティーヌ
「魔物の出る熔岩沼周辺は、サラマンダーの生息地でもあったんですのね。」
(なる程そうか。魔物はサラマンダーを喰い、毒を帯びて、あの蘇生力があった訳か。
是非、サラマンダーを食してみたいものだ!)
「ヌッフッフッフッフッハッハッハッ、あっ〜〜」
(おっといけません、地が出るとこでしたわ。)
マノン
(こ、怖いですよ、お師匠さま〜)
マノンには、とっくに正体を見抜かれていることへ気付かぬ、ギヨティーヌであった。
○【不思議の森、熔岩沼の周辺】
ギヨティーヌ
「聞いてんだろ紫微大王、出てこいやぁ〜〜!」
ギヨティーヌ・タタンは、完全に地が出ている。
マノン
「お、お師匠さま! 後ろから何か出て来てます!」
ギヨティーヌの背後より、ピンクと黒の互い違い燕尾服で現れたるは、
世紀末風のモヒカン…… と言うより、てっぺんだけ生えているキューピーさんのよう、顔を真っ白に塗り、鼻や唇が真っ黒、真っ白な歯だけが剥き出しな、
呪詛ピエロにして紫微一族の長、紫微大王であった。
紫微大王
「お呼びで御座いますか、御主人さま。これはサイクロプスさま、そしてお弟子さま、お初にお目にかかります。紫微大王と申します。」
マノン
「まっ、マノン・マドレーヌです。よろしくお願いします紫微大王さま。」
紫微大王
「はは、恐縮です。」
ギヨティーヌ
「こちらは、クロ・ド・プラチナさまでしてよ。」
クロ・ド・プラチナ
「クロ・ド・プラチナである。」
紫微大王
「はは〜 これはこれは、神代の昔、大災害をもたらされたサイクロンさま、いえクロ・ド・プラチナさま〜」
ギヨティーヌ
「マノンさん、この紫微大王が。この辺りを統べて悪さをしている ❝魔物の頭目❞ ですわ。」
マノン
「頭目ってその……」
紫微大王
「おやめください御主人さま〜、ご迷惑を、おかけしましたか? お弟子さま?」
マノン
「ほへー (~o~)」
ギヨティーヌ
「紫微大王、貴方、サラマンダーを食べてらしたのかしら。」
紫微大王
「はは〜、恐れながら申し上げます。わたくしども紫微一族はサラマンダーを、食しておりました〜」
ギヨティーヌ
「食べたいですわ。」
紫微大王
「は?」
ギヨティーヌ
「わたくしもサラマンダー食べたいですわ。どうすれば良ろしくて?!」
紫微大王
「いえ、あのぅ。ヒューマンがサラマンダーを食すのはちょっと……」
(コイツが死ねばまた俺の天下だぁ。サラマンダー喰わして、逆にコイツを食ってやる。この弟子も美味そうだな。ウヒヒヒヒヒ、
厄介なのはサイクロプスかぁ、何でコイツらを乗せてやがるんだ? このサイクロン野郎……)
「わっ、分かりました御主人さまぁ〜 でしたら、サラマンダーが脱いだ革が、落ちておりませんか?
サラマンダーの革を手袋にして、サラマンダーを捕まえるんです〜」
紫微大王の本音も、零れ出る。
クロ・ド・プラチナ
「なるほど、サラマンダーの脱いだ革か。ギヨティーヌよ、魔素を感じるぞ。」
クロ・ド・プラチナは、サラマンダーの革が落ちる森の中へ着地し、ギヨティーヌはマノンを残して、クロ・ド・プラチナの背より降りると。
ギヨティーヌ
「分かりましたわ、これですのね。あっ、もう一つ見付けました。ありがとう存じます、クロさま……
そしてぇぇぇぇ、サラマンダーもゲットぉ! 2匹捕まえましたわ、ご覧あそばせ。」
マノン
「凄いです、お師匠さま!
あっー! 駄目ですよそのまま食べちゃ〜〜〜〜〜」
ギヨティーヌ
「いただきましてよ、あ〜ん。モシャモシャ モシャモシャ、内蔵に良い工合に火が通ってて、不味くは無いデスわね。マヨネーズが欲しいです――――
うっ! 苦しい……」
バタッっと派手な音がして、顔色を真っ赤にしたギヨティーヌは、口から火を吹き、もんどり打って前のめりにブッ倒れた。
マノン
「あああぁぁぁぁぁ、お師匠さまぁぁぁぁ!」
慌てて、ギヨティーヌへ駆け寄ろうとするマノン・マドレーヌを、クロ・ド・プラチナは宙へ浮いて留める。
紫微大王
「そこのお嬢ちゃ〜ん。このワシ、紫微大王がお嬢ちゃんの願いを叶えて上げよう。
何でも良いぞ、紫微大王には予言の能力が有るんでちゅよ〜w」
と言いながら、ニヤけた真っ黒な唇は耳まで吊り上がり、ギヨティーヌの頭を踏んづける紫微大王。