14 漆黒の馬
○【場面変わって、大草原】
次の瞬間―――― 遙か向こうまで、夕映えの草原が広がっていて、ただ野生の馬群が穏やかにあるばかり。
師弟の眼前へ見知らぬ光景は迫る。
ギヨティーヌ
(先程と全く別の場所へ送られたのは、間違いなさそうですわ。
いえ、もしくは誤認識させられていて、移動などしていないのかも?)
マノン
「お師匠さま。こ、ここは何処ですか?!」
ギヨティーヌ
「マノンさん、別れ別れになるのが不味いですわ。もっと近くに……」
さらに強く抱き合うと、ギヨティーヌ・タタンに得も言われぬ、幸せは広がった。
ギヨティーヌ
(はァ〜、なんとも言い表せないほど幸福ですわ〜〜〜
まぁ今は自分も女子なのですから…… イエ、なりませぬ、なりませぬ!
前世で男女複数いた弟子とも、何もなかった、わたくしです!
―――― けれど、マノンさんと一緒にいる満たされた気持ちは、特別ですわ。
14歳ですかぁ、前世の娘とは小さい頃に別れたきりで、親の役割も果たせずじまい……
娘が14歳になった姿は、どんなだったか〜〜)
心情が混乱するギヨティーヌ・タタンだが、師弟はお互い相手の無事を確認しあって、胸をなでおろす。
ギヨティーヌ
「話しが出来る方でも居られれば、良いのですけれど。
あっ ❝氣❞ の流れが違います… あの方、良いのではなくて?」
マノン
「えっ?どこですか。」
ギヨティーヌ
「あそこの方の ❝氣力❞ が… ❝魔力❞ が違うんですのよ。」
そう言うと、ギヨティーヌはマノン・マドレーヌを柔らかく、お姫様抱っこして、
マノン
「きゃっ❤(*ノ▽ノ*)」
野生の馬の集団へ駈けて征く。
ギヨティーヌ
「そこの方、不躾で申し訳ございません、教えて頂きたいのですけれど……」
そこには、見事な漆黒の肌に、額から一筋の白金の毛を流す、取り分け大きな、一頭の馬を中心にする群れがあった。
ギヨティーヌ
「非礼を承知で、お伺いしたいのですが。もしかして、意志の疎通して頂けますでしょうか。」
漆黒の馬
「―――― 我に話しかけるヒューマンがいるとは、驚くべきことだ。」
マノン・マドレーヌの頭の中で声がする。
良く良く見ると、野生馬に紛れたその真黒き馬は、顔の真ん中に一つだけの眼を持つ、サイクロプス・ホースであった。
ギヨティーヌ・タタンはマノンを降ろすと、取り急ぎ略式の自己紹介を、礼儀正しく。
ギヨティーヌ
「わたくしは、ラ・キャン帝国オ・ソレイユ守タタン家4女 令嬢、ギヨティーヌ・タタンでございます。
以後お見知りおきを、お願い申し上げます。」
漆黒の馬
「自己紹介おそれ入る、我は…… 今はただのサイクロプス・ホースである。個別名が無いため種族名にて失礼する。」
ギヨティーヌ
「サイクロプス・ホース様、ここが何処なのかご存知でらして?」
漆黒の馬
「ここは、ヒューマンがニューホライズンと呼ぶ国の、西部の大草原である。」
ギヨティーヌ
「ありがとうございます。ニューホライズン国ですのね、わたくしたちはムー大陸からやって来たのですわ。」
漆黒の馬
「ムー大陸か、かつては行くこともあったが。」
ギヨティーヌ
「マノンさん、ここはアトランティス大陸の国ですわよ。」
マノン
「えぇ?! お師匠さま! どぉしたら良いんですか。」
マノン・マドレーヌは驚きながらもサイクロプス・ホースへ挨拶し、質問した。
マノン
「サイクロプス・ホース様、わたしはムー大陸のラ・キャン帝国ターラーラヤ山脈、ケモイチ村のマノン・マドレーヌと言います。
実はわたしたち、ターラーラヤ山脈の不思議な森から、ここに飛ばされて来ちゃったんです!」
漆黒の馬
「ほう、それは気の毒なことだが、今の我では何とも出来ぬ。」
マノン
「いいえ、お応え頂きありがとうございます……
お師匠さま―――― サイクロプス・ホース様にお名前をお付けして差し上げたら、いかがでしょうか?」
ギヨティーヌ
「マノンさん……
わたくしごときが、そんなお名前だなんて。」
ケモイチ村へもどる術は、今のところ無い。あまりの絶望に実感が湧かないのか、マノンの知覚は鈍くなっているようだ。
ギヨティーヌは名付けなど、流石に恐縮し、ご遠慮申し上げた。だが、サイクロプス・ホースは、
漆黒の馬
「いや、是非つけて欲しい。我を見い出せしギヨティーヌならば。」
ギヨティーヌ
「わたくしがですか。」
漆黒の馬
「是非に。」
ギヨティーヌ・タタンは少し考えるが。
ギヨティーヌ
「―――― わかりました、僭越ながら名付けさせて頂きましてよ。
…… 額から鼻筋へ掛かる縦一文字のプラチナの毛と、一つの瞳がクロスして見えますから、
『クロ・ド・プラチナ』ではいかがでしょう。」
漆黒の馬
「我名は、クロ・ド・プラチナ――――」
いずこからともなく蒸気は漂い、にわかに霧深くなると、夕暮れ差し込む残光が空へ虹をかけた。
漆黒の馬、クロ・ド・プラチナ
「両人とも、我が背へ乗るが良い。」
そう言い2人を乗せたクロ・ド・プラチナが、前脚を高く掲げヒヒーンと嘶けば、
宙へと舞い飛び、虹の橋を渡って、たなびく雲の中を潜り抜け、霞の頂きまで差し昇る。
途中で、大型の魔動蒸気飛行船とすれ違った。向こうの旅客室から雲を走る馬と、それへ乗る二人は見えたろうか。