12 女の怪物 ③
マノン
「この木を割るんですか?……」
ギヨティーヌ
「どんな方法でもかまいませんわよ、殴っても良い、蹴っても良い。斧みたいな物を使ってもかまいませんわ。
言葉を使いたければ言葉で、自分の得意な『これで割るんだ』と思う方法で。
一回で無くて良い、何回やってもかまいませんから割るんですわ。」
マノン・マドレーヌは少しだけ考えていたが、木に一発の拳を入れた。
ギヨティーヌ
「解りましたわマノンさん、貴方は ❝拳❞ で木を割りたいんですのね。でしたら拳で木を割る方法をお教えします。
でも貴方は修行を始めたばかり、決して無理はいけませんわよ、拳を痛めてしまいますからね。
ですから最初は拳を木に当てないで、型から入りましょう。
先ず、わたくしがやって見せますわ、真似をしてくださいまし。
では足を肩幅、向きは内八の字に、膝は余裕をもたせ、足で大地を掴んで、
腕を胸の正面から引っ張り込むように脇を締めて、拳は肩の高さ。」
マノン・マドレーヌは、言われたとおりに構える。
ギヨティーヌ
「呼吸はとても大切ですわ。吐く時はゆ〜っくり、吸うのは足の裏から素早く、身体全体を巡らせた後、おヘソの下に息を貯めるのを想像して。
次は、右足を地をはうように内側から外側へ回して前へ出す。
では、下半身はそのままで、右左と順番に拳を突き出していきます。
いきますわよ。チェスト━━━! セイャ、セイ、セイ、セイ・・・」
マノンも同じように、隣で正拳を放つ。
ギヨティーヌはマノンの姿勢を眺め。
ギヨティーヌ
「お尻を後ろに突き出さない、胸を張ってお腹は引っ込める腰は前へ。ちょと触りますわよ。」
ギヨティーヌ・タタンは手でマノンのお腹をおさえ、もう片方の手で腰の下側を前へ押し出す。
ギヨティーヌ
「身体の中心に、縦に一本の柱が、軸が有るように想像して。
太い軸がブレないように、足を後ろへ蹴るように踏ん張り、腰を回転運動で前ヘ出す、次は肩を前へ、そして拳を前に押し込む。身体全体を使って突くんです。
突くのは人体の急所の一つ ❝水月(鳩尾)❞、肋骨の下、お腹の上部中央の窪んだ部分ですわ。」
ギヨティーヌは自らの水月を示しながら、共に拳を突き出して行く。
ギヨティーヌ
「セイ、セイ、セイ、声が出てませんわよ。」
マノン・マドレーヌも声を出した。
マノン
「セイ! セイ! セイ! セイ!・・・」
ギヨティーヌ
「これから厳しく行きますわよ、ついて来れないならそれまでですわ。」
と言うとギヨティーヌ・タタンは、マノン・マドレーヌへ足払いを掛け、マノンは尻餅をつく。
マノン
「あっ……」
マノンは、座り込んだ。
ギヨティーヌ
「お立ちなさい! 立って拳を突出すんですわ、やらないならココでこの稽古は終了です。」
マノン
「ハイ、お師匠さま。」
ギヨティーヌの叱咤に、マノンは立ち上がり拳を握りしめる。
ギヨティーヌ
「声が出てませんわよマノンさん。セイ、セイ、セイ、」
マノン
「セイ、セイ、セイ、セイ、セイ・・・」
ギヨティーヌ
「良いですかマノンさん。相手を倒せる能力が有ってこそ、始めて『倒す』のか、それとも『倒さない』のか、と言う、2つの選択肢が生まれるんです。
貴方は先程『トロールさんを倒して欲しい訳じゃない』と言いましたわね。
けれど暴れるトロールさんを病気が治るまで、気絶くらいは、しといてもらわないと、いけないかも知れない。
それを、わたくしに頼んだのでしょう。」
マノン
「セイ、セイ…… はい、」
ギヨティーヌ
「賢い貴方なら、今の稽古の意味が飲み込めたハズです。
❝必殺の拳❞ 有ってこそ、活かすも殺すも貴方の思い通りに出来る『活殺自在』になるのですわ。」
ギヨティーヌはまた、マノン・マドレーヌに足払いを掛ける。
だがもうマノンは座り込まなかった、すぐさま立ち上がり拳を出して行く。
マノン
「セイ、セイ、セイ、セイ・・・」
稽古は夕暮れまで続いた。マノンの腕は上がらなくなり、掛け声を出す喉も枯れ、足払いで起きるのがやっとだ。
しかしマノンは、その度に立ち上がる。
九山八海を越え、18度目にマノンが立ち上がった時、ギヨティーヌ・タタンは彼女を抱きしめた。
ギヨティーヌ
「素直ですわね、足払いを避けても良いんですのよ、怒ってわたくしに食ってかかっても良いのに……
ほんとに、ほんとにほんとに〜〜〜〜〜」
マノン
「やっぱり良い香りです…… お師匠さま――――」