11 女の怪物 ②
ギヨティーヌ
「この石鹸、食べられるのっ! って言う宣伝がウケて売れてるんですのよ。
でも本当に食べないで下さいましね、子供の口に入っても安全と云う意味ですので……」
マノン
「ふふっふっふ……」
と、マノンの泣き顔がほころんだ。
ギヨティーヌ
(笑ってくれた、とりあえず良し! しかし先程の了承なしに髪へ触れてしまったのは、うかつでしたわ…… 今後は充分に気を付けよう。)
「あ、あらどぉなさったんですの〜?」
マノン
「だって怪物さまが面白いことおっしゃるから……
―――― お願いが有るんです、お救けてください怪物さま! わたしは、ケモイチ村のマノン・マドレーヌと言います。
わたしの住むケモイチ村から山を一つ越えた、トロールの丘のトロールさんたちが、伝染病でおかしくなってしまって……」
ギヨティーヌ
「ほう、どんな風に?」
マノン
「…… それが殺し合って、いるらしいんです… ケモイチ村に戻って来た父が…… 知らせてくれて――――」
ギヨティーヌ
「なにぃ? フッフッフッフッ…… トロール討伐か。
この辺りの魔物は全部、喰ったばかりよ。
動かぬ物を壊すのも、そろそろ飽きたところだ。ワッハッハッハッハッハッ〜〜〜〜〜」
マノン
(やっぱり怖いです、この怪物さま……)
「ち,違います怪物さま! 倒して欲しい訳じゃないんです。トロールさんたちは病気なんです! 何とかそのお力をお貸しください。」
ギヨティーヌ
(倒す訳では無い、だが力を貸せとな?)
ギヨティーヌ・タタンはしばし考えたが、言えることは只一つである。
ギヨティーヌ
「先ず、貴方がお強くおなんなさい。強く無ければ正義を行えませんわよ。」
マノン
「強く成る…… どうやって。どうやって強く成れば良いんでしょうか? 分かりません。教えてください!」
ギヨティーヌ
「―――― 強さにも、いくつか種類が有りましてよ。物理的に強い。精神的に強い。知識が豊富なのも強さと言えますわ。
経済力も強さになります。権力も強さ。知名度も諸刃の剣ですが強さとして使えます。
弱さを使い同情や油断を誘って、相手を操縦する方法も有りますわ。強さは ❝強かさ❞ なんですのよ。」
マノン
「すっ、凄いです怪物さまぁ! なぜそんなに物知りなんですか?!」
ギヨティーヌ
「これくらい……」
(中身は57歳のオッサンだからな。武術家として兵法は大切だし、孫子くらい諳んじてるし。)
「まぁ、嗜みですわねっ。」
マノン
「怪物さま、わたしにもっと色々教えてください!」
ギヨティーヌ
「…… うむ、教えるのは良いんですけれど、わたくしも修行の身ですし。」
(魔法学院の入学も4カ月後にひかえてますからねっ。)
マノン
「お願いです、わたしを弟子にしてください。怪物さま!」
マノン・マドレーヌは両手を地へ付き、にじりよって、ギヨティーヌ・タタンに懇願する。
ギヨティーヌ
「そんなことをしては、いけませんことよマノンさん… でしたわね。お歳はおいくつですの?」
マノン
「14才です!」
ギヨティーヌ
(14と言えば、数え年で元服の歳。わたくしが前世の記憶を取り戻したのも14でしたわ、新たな扉を開くのに丁度良い年齢ですね……)
「ここへは、誰と来ましたの?」
マノン
「一人で来ました。」
ギヨティーヌ
「ケモイチ村から一人で? 誰にも相談はしなかったんですの?」
マノン
「一人です。一人で考えて来ました。怪物さま、お弟子にしてください! どうか……」
ギヨティーヌ
(体力と胆力、決断力、行動力も有りますわね。無謀とも言えますが……)
「その ❝怪物さま❞ と言うのはおよし下さいまし。」
マノン
「はい、お師匠さま!」
ギヨティーヌ
「本当にわたくしが師匠でよろしいんですの? 言って置きますが修行は厳しいですわよ。」
マノン
「石を割るのはちょっと、出来ないと思うんですけど……」
ギヨティーヌ
「ほう、❝石❞ 以外なら割れると言うんですのね。ならば、さっそく稽古ですわマノンさん。
そちらの木を割ってご覧なさい。」
彼女が示す先には、岩をまるで掴むように根を張る、一本の立木が生えていた。