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オバサンは祝賀会でおばさんのアイドルになる  6

 また男の子たちに声をかけられたら面倒だわ。

 こういう時は目的があるんだと雰囲気を醸し出せばいいのよ。

 まっすぐ前を向いて迷いのない歩き方で、声をかけにくい雰囲気にして……。


「アッシュフィールド準男爵」


 えー、さっそく声をかけられちゃったじゃない。

 今度、ジョシュア様に声のかけづらい雰囲気の出し方を教えてもらおうかしら。


「エフィンジャー侯爵令嬢?」


 声をかけてきたのはビヴァリーだった。

 私を邪魔者扱いしていたくせに、なんで話しかけてくるのよ。

 両親と一緒に帰らなかったの?


「先程のことをお詫びしたかったんです。失礼な態度をとってごめんなさい」


 いやいやいや。その顔は悪いと思っていないでしょう。

 この子って十八くらい?

 もう少し若いとしたら余計に、化粧が濃すぎるんじゃない?


 今はこういう化粧が流行っているのかしら。でも十代でそれはどうなの?

 それは、二十代半ば以上の女性が夜会や舞踏会に出かける時にする化粧よ。ラメはいっちゃってるもの。

 エフィンジャー侯爵が王弟殿下を陥落させるのに使おうと思うくらいに、もともと華やかな顔立ちの美人さんだから、派手な化粧をするとケバいのよ。

 

 もしかして王弟殿下は二十代半ばだと思ってる?

 それで釣り合いそうな化粧をしてきたのなら、あの人は老けて見えるだけで、実はまだ十六だと教えてあげたい。

 でも、学園で同じクラスになったことがあるって言ってたわよね?

 じゃあ、年齢はわかっているでしょうに。


「ちょっと、聞いてます?」


 ああ、答えるのを忘れていたわ。


「先程のことでしたら、気にしていませんので大丈夫です」

「よかった。よければお友達になってください」


 ……嫌ですって答えては駄目よね?

 ここは愛想笑いで誤魔化そう。


「そうだ。そこの廊下の向こうに中庭があって、噴水が素敵なんですよ。そこでお話をしましょうよ」

「嫌です」

「え?」


 あ、脊髄反射で答えてしまった。

 でも、謝罪じゃなくてこっちが目的でしょ。

 何をしようとしているの?


「両親からも王弟殿下からも、会場の外に出てはいけないと言われているんです」


 王弟殿下と言ったら、一瞬目つきが険しくなった。

 親に王弟殿下に気に入られろと言われているのか、彼女が本当に恋をしているのかはわからないけど、私に敵意を向けるのは違うんじゃないかしら。


「ちょっと中庭に行くだけですもの、平気よ? みんな、そのくらいのことはするわよ。ちょっとした冒険じゃない」

「興味ありません」


 私があっさりついて行くと思っていたの?

 中身オバサンじゃなくたって、こんな誘いに乗らないわよ。


「親の言いつけをいい子に守るなんて、まだ子供なのね」

「子供ですよ。十歳ですから」


 そんな煽りなんて聞くわけがないでしょう。

 苛々してきたのか、ビヴァリーの顔つきが険しくなってきたけど、これ以上は付き合っていられないのよ。


「ビヴァリー様」


 急に名前を呼んで私が身を寄せたので、彼女ははっとして身構えた。


「今なら誰にも気づかれずに私を連れ出せると、本当に思っているんですか?」


 子供らしい表情も笑顔もやめてじっと見上げる。

 彼女は慌てて周囲に視線を走らせた。


「何人かこちらを見ているでしょう?」


 たぶん見ているはずよ。知らないけど。


「成人していない子供の祝賀会を王宮で開催するのは初めてですから、間違いが起こらないように警備が厳重なんです。それにここでもし私に何かがあったりしたら、主催者である王弟殿下の責任問題になってしまいます」

「え?」

「あなたは、王弟殿下の評判を落としたいんですか?」

「ち、違うわ」

「その前に、あなたが私を連れて会場から外に出たらすぐに、捕まってしまいますけど」

「な、なんなの、あなた」


 化け物でも見るみたいな顔をしてビヴァリーは私から離れた。


「ジョナスのやつ、話が違うじゃない」

「ジョナス?」


 はっとして口を押え、ビヴァリーが慌てて駆け出したので、私は出入り口近くの壁際に目を向けた。

 王弟殿下が何人か近衛騎士を配置してくれているのよ。


 彼らは思っていた通り私の様子をずっと見守っていてくれたようで、すぐに視線があったのでビヴァリーを指さしてみた。

 すぐに頷いてくれたのはロイド様ね。

 隣にいたジョシュア様に何か言って、すぐにビヴァリーを追って会場の外に向かってくれた。


 ジョッシュ様とロイド様は、第四騎士団の中でも優秀な方なのに、王弟殿下ってばそのふたりを残してくれたの?

 感謝していいのか、自分の傍に優秀な騎士は残しておくように注意するべきか……迷うわね。


「シェリル」

「うわ、びっくりした。驚かせないでよ、アレクシア」


 いつの間に傍にいたの?


「エフィンジャー侯爵令嬢と話していた雰囲気がやばそうだったから、急いで来たんじゃない」


 ここにも私を気にしてくれている人がいた。

 やっぱり何人もの人がビヴァリーの不自然な様子に気付いているのね。


「ナイスタイミングよ。今日は魔法使用の許可が出ているのよね?」

「会場の周りだけだけどね」

「この廊下の先に噴水が素敵な中庭はある?」

「素敵かどうかはわからないけど、中庭も噴水もあるわよ」


 彼女、そこは本当のことを言っていたのね。


「そこに行って、ビヴァリーが誰と何を話すか聞いてきてほしいの」

「でもあなたの……ああ、イールが来たなら平気ね。盗み聞きだけでいいの?」

「うん。巻き込まれないほうがいいと思う」

「了解」


 さすがに会場で転移魔法を使うのはまずいと思ったのか、アレクシアは会場の外に駆け出して行った。

 私と話をした女性が、ふたり続けて駆け足で外に出て行くって、周りから見たらどういう状況に見えるのかしら。


「シェリル」

「イールも来てくれたのね」

「王弟殿下はどうしたんだ。なんで傍にいない?」


 エスコートするはずの殿下が私の傍を離れたので、ギルモアで文句が出ているみたいね。


「祝賀会とは関係ないんだけど、ちょっと問題が発生しちゃって」

「問題?」

「内容までは言えないの」


 たぶん表沙汰にはしないだろうから黙っていなくちゃ。


「じゃあ、さっきの女はなんなんだ」

「なんかね、お友達になりたいとか言って、会場を抜け出して中庭に行こうって」

「……近衛が追ったんだよな?」


 おお、ちゃんと見ていたのね。

 普段はちゃらいおにいちゃん風のイールだけど、真顔になると大伯父様に似ているかも。

 でもせっかくの祝賀会なんだから、ここでそういう怖い顔をしちゃ駄目よ。

 

「そうみたいだし、アレクシアも見に行ってくれたから大丈夫」

「……そうか。何かわかったら教えろよ」

「もちろんよ。それより私は安全エリアに行きたいの」

「安全エリア?」

「あそこ」


 私が示したのはもちろん、奥様方が集まってお茶を楽しんでいらっしゃるエリアだ。

 大伯母様もロゼッタ様もいるわよ。


「うへえ」

「なんて声を出すのよ。あそこより安全な場所はないわよ」

「まあな、ここに突っ立っているよりはいいな」


 挨拶が済んだから、うちの両親と話をしたい人以外はもう勝手にパーティーを楽しんでいる。

 飲み会もそんなもんでしょ?

 集まって飲む理由なんてなんでもよくて、挨拶さえしちゃえば飲んで食うぞって、それぞれのテーブルで楽しむじゃない。


 奥のソファー席は高位貴族の方々が、男性と女性に分かれて陣取っているので、他の人達は窓際に並べられたテーブル席に座るか、お皿とグラスを器用に持って立ったままで談笑している。

 その中で私は、いまだに食べ物にも飲み物にもありつけないままで、大人の人達の中央にぽつんといたんだから、そりゃ目立つわよ。


「じゃあ、あそこまで一緒に行こう」

「イールもあそこに座る?」

「女性しかいないところに行くわけがないだろう。邪魔者扱いされるわ」

「歓迎されそうなのに」

「絶対に嫌だ」


 私もさすがに、奥様方の真ん中にイールを放り込もうなんて思ってはいないわよ。


「シェリル、何かあったの?」


 ロゼッタ様が立ち上がって、私を迎えに来てくれた。


「いいえ。私は何もないんですけど、王弟殿下は祝賀会とは別のところで問題が発生して、対処しなくてはいけなくなってしまったんです」

「あの男、役に立たないわね」


 ロゼッタ様、あれでも彼は王族ですよ。

 そんなことを言っては駄目です。


「戻ってくるの?」

「どうでしょう。私は早く退席しますので間に合うかどうかは……。それで帰る時間まで、大伯母様やロゼッタ様とお話したいなと思ったんです」

「せっかく友達を作る機会なのに?」

「母上、話しかけてくるのは男ばかりで、女の子たちは自分から声をかけてくる気はないみたいですよ」

「はあ、なんのために招待したのか理解出来ない子ばかりのようね。いいわ。向こうで一緒にいましょう」

「はい」


 もしかして、私に話しかけなかっただけでも注意されたりするのかしら。

 普段の友人たちとのお茶会ならいいけど、こういう場は仕事のお付き合いだと思ったほうがよさそうね。


「じゃあ、俺はこれで」


 奥様方の注目を浴びてイールはすっかり腰が引けていて、私とロゼッタ様が会話している途中から徐々に距離を取り始めていた。


「ええ。ちゃんとシェリルを保護してくれてさすがね」

「そりゃ妹だからな。んじゃ」


 妹ではないし、一目散に逃げないでもいいのに。


「あの子の妹なら、あなたは私の娘ってことになるわね」

「ははは」

「うーん。やっぱり姪っ子っていう響きのほうがいいわ。お義母様、シェリルが帰るまでここにいたいそうです」


 ロゼッタ様に連れられてソファー席の奥に進むまで、体に穴があきそうなほど奥様方の視線が刺さってきた。

 大伯母様とロゼッタ様が座っていた周囲は、ギルモアやプリムローズ伯爵の関係者ばかりの奥様ばかりだけど、少し離れた場所にはそれ以外の方々もいるのよ。

 その全ての視線が私に向けられている感じよ。


「まあ、せっかくだから年の近い子とお話をしたほうがいいのでは?」

「それが、女の子は誰も声をかけてこなかったんですって」

「……どういうこと?」


 大伯母様は扇で顔を隠しながら、険しくなったまなざしで何人かの奥様方に視線を向けた。

 視線の先の奥様方は顔色が見る見る悪くなっている。


「どうやら、仲のいいお友達と美味しくスイーツをいただくことに夢中か、王弟殿下にばかり目を向けている馬鹿な娘しかいないみたいですわ」

「誕生日会と年末年始の招待客の見直しが必要なようね」


 きゃー、やめて。

 女の子たちに話しかけられても、それはそれで困ったことになったかもしれないわ。

 でもまあ、唯一いい感じでお話しできたのが、貴族派のアリス様というのは問題なのかもしれない。


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