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オバサンは懐かしい料理をプレゼンする  4

「誰に狙われているんだ!? 危険な目にあったことがあるのか?」


 がんっとテーブルに手をついて大伯父様が立ち上がった。

 

「いえ、え?」


 頭を抱えている殿下と自分は関係ないと言いたげに食事を続けているレイフ様以外が、驚きの表情で私を見ていたので言葉に詰まってしまった。

 うちの両親なんて青ざめてしまっているわ。


「まだ、危ない目なんてあってませんよ」


 こんな反応が返ってくるとは、私のほうがびっくりよ。

 殿下が護衛をつけるのは当然だという雰囲気で話していたから、ギルモアも両親も同じように考えているんだろうと思っていたのに。


「落ち着いてくれ、ギルモア侯爵。シェリルの噂は隣国にも届き始めているんだ。それで何かあっては遅いから、王宮に通わせる以上は俺のほうでも警護をきちんとつけるという話だ」

「あ……ああ、そういうお話でしたか。すでに特定の誰かの襲撃計画でもあるのかと……」

「少なくとも俺の耳にそんな話は届いてはいない。だが、今後ますます彼女は注目を集めることは間違いない。アレクシアに爵位を譲り領地の復興を任せると話したのは昨日なんだぞ? それから一晩でこれだけいろんな復興のプランを考え、試食会まで用意したんだ。もちろん、クロウリー商会の存在は大きい。クロウリー男爵もたった一日でここまで準備し、バリークレアに多くの物資を届ける手腕はさすがだ。だが、シェリルはまだ子供で危うい」

「そうですな。私共も彼女の警護については話してはおりました。縁組を望む声も多く、断っても何度も手紙が送られてきます。シェリルに直接接触しようという輩もいずれ出てくるでしょう」


 直接自分の子供を売り込む人とは関わりたくないなあ。

 私と仲良くなれば、なにか金儲けに繋がることを話すんじゃないかと思われるのも困るわね。


「それもある。だがそれ以上に危険なのは、シェリルと話の合う男となると少なくとも五歳以上は年上でないと無理だろう? その年齢の男はもう大人と体格が変わらない。体格的にも腕力的にも暴力で支配しようとする可能性もある」

「そんな馬鹿がシェリルに近付いたら、親類縁者全員潰しますぞ」

「手伝う」


 いやおかしいって。

 なんでそこで突然デンジャラスになるのよ。


「ちょっと落ち着いてください。そんなこわいことを考えるより、私が目立たないように協力してください。私は当分、目立ちたくないんです。私ばかりが活躍しているように思われていますけど、本当はそろばんを作るために動いてくれたのはギルバートですし、私のやりたいようにさせてくれて、子供の意見もちゃんと聞いてくれるお父様がいなくては何も出来ませんでした。そのお父様が悪く言われるのであれば、準男爵にはなりたくありません」

「確かに、クロウリー男爵が今まで目立たなかったのは意外ですね」


 顎に手をやり考えこみながらレイフ様が呟いた。


「ワディンガムでは、正当な評価を受けられなかったのでしょう。でももうギルモアの一員なんですから、これを機に一気に優秀さが広まれば……ワディンガムの立場が更に悪くなりますね」

「それは困ります」


 お父様が慌てて言った。


「ワディンガムの一族をあまり刺激するのは、危険なのでしたくないんです。魔道士に警護に加わってもらえるようになりましたが、家族が狙われる恐れもありますから」


 家族も狙われる!?

 ギルバートやセリーナも?


「ワディンガムから嫌がらをせされているのか?」


 王弟殿下のまなざしが険しくなった。


「いえ、ワディンガム公爵ではなく、以前、領地経営の相談に乗っていた地方貴族からです。突然クロウリー商会とは接触するなとワディンガム公爵から命じられたため、他の人間に相談して騙されたり、途中から経営がうまくいかなくなってしまったようで……」

「だったらワディンガムのせいじゃないか」


 公爵には逆らえないから、お父様に嫌がらせすれば、うまくいけば金を巻き上げられるかもってこと?

 危ない目に遭っていたのは私じゃなくてお父様だったんじゃない。


「ギルモアは把握していなかったのか? それとも知っていながら放置していたのか?」

「……その話は初めて聞きましたので」


 殿下ってこういう時、煽っていくスタイルなのね。

 大伯父様が言葉に詰まる場面って珍しいんじゃないかしら。


「ギルモア一族に加わって二年か? いまだにクロウリー男爵の噂があまり聞こえてこないということは、ワディンガムとあまり変わらない待遇だということではないか? それで頼りにされていないのか」

「王弟殿下?」


 これ以上、大伯父様を責めないであげて。

 おそらくひいお婆様や大伯母様に怒られたはずだから。


「大伯父様は最近いろいろと大変だったんですよ?」

「ああ、そうだったな。お互い身内に苦労させられるな」

「まったくです」


 殿下も、昨日はそれで大変だったんだもんね。

 大伯父様だって、まだドイルや迷惑老人会のやらかしの後始末に追われているのよ。


「それとだな、シェリルが目立たないというのは今後も無理だ」

「え?」

「アレクシアを手伝いたい気持ちもわかるが、商売に関わるのも時間的に無理だろう」

「ええ!? どうしてですか?」

「おまえな……二か月半後に祝賀会があるのを忘れていないか?」

「……ワスレテイマセンヨ」


 そんな物もありましたね。

 忘れてはいませんよ? いませんけど、祝賀会って王宮がやってくれるんでしょ?

 ドレスはお母様にお任せだから、私は何もしなくていいのよね?


「父親は優秀で頼りになって、自由にやらせてくれて感謝しているというのを、アピールする絶好の場だろう」

「あ!」


 確かにそうだわ。

 他人任せにしないで自分で噂を広めたほうが早いわ。


「高位貴族はほぼ全員出席する」


 保護者のみなさんは出席してくれるでしょうから、たぶんそうなるわね。


「王宮なので成人していない子供は参加できないが、多くの招待客が成人したての年代の男を連れてくるだろう。高位貴族に売り込めて、シェリルとも親しくなれるチャンスを逃すはずがない」


 ……めんどくさい話になってきた。


「クロウリー男爵家が主役だ。招待客全員の名前と身分、派閥、役職、その他もろもろ。覚えなくてはいけないことが山ほどあるぞ」

「……うそ」

「今回、王族の問題に巻き込んでしまったことと謁見が中止になったことへの詫びで、当日は俺がシェリルをエスコートすることになった」

「は!? 聞いていませんけども!」

「初めて話したからな」

「お父様は知っていたんですか!?」

「……僕も初めて聞いた」


 そんな悲しい顔をしている場合じゃないですよ!

 王弟殿下にエスコートされるなんて目立ちまくりじゃないですか。

 いくら準男爵になると言ってもおかしいでしょう!


「クロウリーは巻き込まれてしまった被害者だということと、マガリッジの領地は放置されていたために復興がかなり厳しい土地なのだが、五年の間になにがしかの成果をあげるようにと陛下に命じられているということを、その場で俺が説明する。そうすればアレクシアもクロウリーも妬まれる危険が減るだろう」

「それはありがたいですな。大勢の人間が招待される祝賀会で、殿下がシェリルの傍にいてくださるのは大変ありがたい」


 大伯父様は殿下と私が仲良くしていると嬉しそうに見えるのよ。

 まさか、私と殿下をくっつけようとはしていないわよね?

 大公と準男爵では身分に差がありすぎるから平気よね?


「いい番犬になりそうだろ?」

「はははは。猛獣が守ってくれるのなら安心です」


 大伯父様、それは殿下を褒めていることにはなっていないんじゃないですか?

 それにお父様ががっくりしているんですよ。

 エスコートをしてもらうだけですから。他には何もありませんからね。


「その祝賀会のすぐ後に、今度はシェリルの誕生日会があるだろう? 祝賀会を大々的にやっておいて、誕生日会は親戚だけとはいかないだろう」

「……そうなの?」


 小声で隣にいたアレクシアに尋ねたら、首を傾げられてしまった。

 親戚だけって言ってもギルモアとフェネリーの主だった親戚だけでも結構な人数なのよ?

 

「まさか財務大臣や法務大臣を招待しない気か? ワディンガムだって表立って敵対する気がなければ招待するべきだろう。それにノースモア侯爵にグレアム伯爵も」


 ええ? 招待しないといけないの?

 代理って言って子供がたくさん来たらどうしよう。

 何をどう話せばいいかわからないんですけど。


「それに年が明けて七月には入学試験が控えている」

「七月!? 再来年の一月ではないのですか?」

「一年で卒業するんだろう? 飛び級を希望する者は七月に入園試験。九月から一学年目を飛び級するための試験が開始される」

「ひい」

「一年で最長八年分の試験を全科目分受けるんだぞ。入学前に二年までの試験に合格する必要があるんだ」


 そんな話は初めて聞いたわよ。

 でもそうよね。私の周りに一年で卒業した人なんていないもんね。

 殿下は、昨日私が国王陛下に正式に要請されたから話してくれたんだろうから、これは本格的に殿下とレイフ様に協力してもらうしかないわ。

 ノートを借りるとか、過去問を教えてもらうとか、やれることは全部しないと無理。

 あとは自分の記憶力を信じるしかない。


「王宮の仕事にローズマリーとの勉強、商会の仕事までやっているんだ。マガリッジ復興をする時間はない」

「……商会の仕事はもうあまりしてません」

「その時間は勉強に当てろ」


 うわーー、なんてこと。

 それじゃあ、たまに顔を出すくらいしか出来ないわ。

 広場に女性専門の店を出そうと思っていたのはお母様にお願いして、食品関係も赤髪くんたちに頑張ってもらうしかない。


 せめてお金だけは出そう。

 広場の整備くらいはやらせてほしい。


「アレクシア、役に立たなくてごめん」

「何を言っているのよ。いろいろアイデアを出してくれたじゃない。王宮に通う馬車の中で相談に乗ってくれれば充分よ」

「護衛は続ける気なの!?」

「いつまで続けられるかはわからないけど、出来るだけやらせて」


 転生者のアレクシアが傍にいてくれるのはありがたいけど、無理はしてほしくないわ。


「ひとまずこれで話は済んだか? 子供たちはそろそろ部屋に戻る時間だろう。クロウリー男爵は少し時間をくれ。一族の中で相談したい者が今後増える可能性がある。無料でというのはやめたほうがいいだろう。そのへんのことを話し合おう」


 つまり大伯父様が、面倒なことに巻き込まれないようにしてくれるってことよね?

 ちゃんとお父様が評価されるようにしてもらわなくちゃ。


「ではこれで」

「待ってください!」


 立ち上がりながら手をあげたら、なんでみんな嫌そうな顔をするのよ。

 まだ何かあるのかって思っているでしょ。


「シェリル、今日はもう……」

「いいえ、お父様。大事なことを忘れてます」


 立ち上がろうとしていた人が座るのを待って話し始めた。


「マガリッジの鶏肉と玉子は王室御用達に出来るような高級品だったんですよ。マヨや照り焼きチキンバーガーに使う玉子はどうするんですか! 庶民向けの手軽な値段にならなくなってしまいます!」

「「「あ」」」


 ほら、私のほうがしっかり者じゃない。

 でもまさか、こんな贅沢な問題が出てくるとは思わなかったわよ。

 






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うーむ、卵と鶏肉とかは一年程度では 増産して供給量を『すぐ』増やす訳にはいかないでしょうね、 運送費や量も、街道の整備を考えると、例えば王都に運ぶとして、時間がかかり、一朝一夕にはな。つまりまだまだ値…
シェリルおばちゃん生き急いでんなぁ 行動からの自業自得とはいえ忙しすぎでしょう 中身がそのまんまなら発狂もんの予定ですわ しかしお父様娘好き過ぎではw 落ち込みすぎ まぁ成人前の娘のエスコートは父親の…
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