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見た目は幼女、中身はオバサン  7

「じゃあ、きみにはロージーと一緒に勉強してもらおう」

「いいんですか!?」


 公爵令嬢なら一流の講師陣がついているはず。

 学びたいことがたくさんあるのよ。


「しばらくうちに住むことになるのなら、是非そうしてくれ。頑張ってはいるけどロージーはあまり勉強が好きではないんだ。でも頭がいいからそれなりに出来てしまうのが困る」

「学んで新しいことがわかるようになるのは楽しいじゃありませんか。成人して社交界に出た時に、知識は武器にも防具にもなるんですよ」

「それはわかっているのよ。だから頑張ってはいるの」


 よかった。公爵家で生活できそう。

 しかも勉強もさせてもらえるなんてラッキーだ。

 お世話になるのだから、勉強は諦めなくちゃいけないかもしれないって思っていたの。


「シェリルさんが恋愛に興味ないほうが私は安心だけど、実際にゲームのストーリーが始まる時期がきたら、攻略者側が動き出すかもしれないわ。お兄様、さっきの誓約書を作り直してほしいの。私はこれからずっとシェリルさんの友人として、彼女が困っている時に助けたい。シェリルさんも友人として私の味方でいてほしいわ。シェリルさんは、年齢差がある私なんかが友人だと嫌かしら」


 年齢差なんてありませんよ。

 私たちふたりとも八歳ですよ。

 確かにローズマリー様は娘より年下ですけど、それは前世の話です。


「とんでもありません。嬉しいです。ふたりっきりの時は前世の話も出来るじゃないですか」

「そうよね。相談し合えるお友達が欲しかったの」

「さん、なんていりません。呼び捨てにしてください」

「じゃあシェリルも敬語はやめて」

「それは駄目です」

「えーーー」


 ローズマリー様を味方に出来たのは大きい。

 彼女が私を友人だと思ってくれるなら、ジョシュア様もコーニリアス様も私を排除しようとはしないでしょう。


「わかった。誓約書を作り直そう。僕たちはそれぞれがそれぞれの友人として、今後この中の誰かに悪意を向けたり、(おとしい)れたりしてはいけない。友人として互いの幸せのために協力し、困っている時には助け合う」


 え? そんな文面まで載せてくれるの?

 ローズマリー様のための文章なのはわかるけど、一度に三人も上位貴族の友人が出来るって、私にとってはお得でしかないわ。


「将来、僕がワディンガム公爵になってもそれは変わらない。シェリル嬢を助けるためにいつでも尽力しよう」

「待ってください。子供の時にそんな先のことまで約束してしまってはいけませんわ。世の中は何が起こるかわかりません。今この場で決めなくてもいいのですし、もう少し考えてから」

「その代わりきみは、この先何があっても決してローズマリーを裏切らないと誓ってくれ。彼女の友人として、彼女が幸せでいられるように力を貸してほしい」


 そんなにヒロインの存在が怖いのかしら?

 成長して攻略者と出会って恋に落ちたら、私が悪役令嬢モノのヒロインのようにローズマリー様を陥れると思っているのよね。

 ないないない。絶対にないとここに誓うわ。


「それと、記憶を取り戻したばかりだと言っていたが、両親には転生の話はもうしたのかな」

「いいえ。話さないつもりでした」

「よかった。僕たちも家族には話していないんだ。いや、話せないんだ。……シェリル嬢、これから話すことは国家機密だと思ってほしい」

 

 ………………はい? 今なんて?


「シェリル嬢? 返事を」

「いえ、あの、そんな重要なお話をしないでいただけませんか?」

「知らないときみが困るよ。それに説明するように指示を受けているので、話さないわけにはいかないんだ」


 公爵家令息に指示を出せる人って誰よ。

 ジョシュア様はまだ子供だし爵位を持っているわけじゃないから、彼に指示できる大人は何人も……いそうにないわよね。

 それに国家機密ってことは……。


「転生者はきみとローズマリーだけじゃないんだよ。この世界には複数の転生者がいるんだ」


 私だけが特別なんてありえないから、そのほうが自然といえば自然なことのようにも感じるけど、転生の話をここまで厳重に秘密にしているということは、一般の人は知らないってことでしょ?


「私が知っているだけで、私たちを含めると八人の転生者がいるわ」

「ロージー……」

「転生者って、この世界にとって脅威にもなりえるでしょう? ゲームの主要人物ばかりだから身分が高い人もいるし、影響力を持っている人もいる。前世の知識を利用して彼らが好き勝手なことをしたら困るのよ」

「確かにそうですね。同郷だから、小学校や中学校の同級生だからって信用して騙されるのと、同じパターンにならないように気をつけなくてはいけませんね。騙されたり利用されたり、宗教に勧誘されることもありますもの」

「そうそう。向こうは友達感覚で急に接近してくるということもあるわ。まったく知らない男の人に急に親しげに振舞われる恐怖をわからない人もいると思うの」


 そういう心配もあるのね。

 突然に街中で知らない人がニコニコと近付いてきて、きみの秘密を知っているよ、なんて言われたら恐怖以外の何物でもないわ。


「それで転生者と転生者の存在を知っている人たちで、ゲームに出てくるキャラの動向を監視し、転生者である可能性がある場合はこの世界にとって脅威になりうるのか、それとも協力できる相手なのかを判断しているんだ」


 ジョシュア様は当たり前のように話すけど、本当にこれって国家機密だわ。

 政府か軍の秘密組織なんじゃないでしょうね。

 

「きみにもこのグループに加わってもらうよ。グループの存在やメンバー、転生者について他言しないという誓約を交わし、後日、グループの責任者に会ってもらって正式な制約が交わされることになる」


 これって、どんどん話が大きくなっていない?

 複数の転生者と誓約を交わしたグループとか、妖しい組織みたいじゃない。


「そんな衝撃的な内容かな?」


 両手で顔を覆って俯いてしまっていたので顔は見えないけど、ジョシュア様の声が楽しそうな気がするのは気のせい?


「シェリル、そんな難しく考えることはないのよ。緩い組織なの」


 組織って言っているじゃないですか。


「そうだよ。僕なんてロージーのお供について行って、美味しいお菓子をもらって帰ってくるだけなんだ。月に一回くらい顔を出しておしゃべりするだけだよ」

「え? それだけ?」


 何度も言うけど、この場にコーニリアス様がいてくれてよかった。

 精神安定剤の効果があるわ。


「そうだよ。他の人は……あ、ジョシュア、誰がリーダーかもう話してもいいのかな?」

「僕が話そう」


 思わず片手をジョシュア様のほうにピシッと伸ばしてしまった。


「待っていただけますか? 聞かないで済ますという選択は」

「ないよ」


 ああ、間違いなく楽しんでいるな。

 ジョシュア様だけじゃなく、ローズマリー様もコーニリアス様も楽しそうだ。

 ここまで話すということは少しは信頼してもらえたということで、それは嬉しいのよ。

 でもこれ以上の話は、男爵令嬢には重すぎる。


「この組織はね」


 さっきまでグループって言っていたじゃないですか!


「リーダーが王弟殿下で、国王陛下も協力者なんだ。王弟殿下は転生者なんだよ」

「ああああああ」


 知りたくなかったあ!

 王族なんて恐れ多すぎて、お近づきになりたくないのよ。

 下手なことをして怒らせたら、サクッと首と胴がさよならするんじゃないの?


「そんな重要な話を初対面の子供にしては駄目ですーー!」

「きみ、おもしろいね」


 そんなことで気に入られたくない。

 ジョシュア様は今後もこうして私をからかう気でしょう。


「ふふ。ヒロインがあなたみたいな人で良かった。仲良くなれそう」

「それを聞いて安心したよ。ヒロインが会いに来ると聞いた時から、ロージーは不安で圧し潰されそうになっていただろう? 食欲もなかったし。でもこうしてきみが元気になって嬉しいよ」


 ……ワディンガム公爵とお父様は学生の頃からの知り合いなんだから、私の存在は前から知られていたっていうことよね。

 そうじゃなくてもその組織は転生者を監視しているんでしょ?

 ヒロインの私を監視していないわけがない。


「みなさんは、私の存在をいつからご存知だったんですか?」


 私の声のトーンが変わったことに気付いたんだろう。

 三人の顔から笑顔が消えて、ローズマリー様は一気に不安げな表情になってしまった。


「誤解しないで。少なくとも私は、あなたが誕生日会に来ると聞くまでは知らなかったわ。ゲームではヒロインのことはみんなが名前で呼んでいたから、ファミリーネームは覚えていなかったの。クロウリー男爵は知っていたけど、ヒロインと結びつけて考えていなかった」

「ローズマリー様、落ち着いてください。監視されていたというのなら、ローズマリー様もそうだったのでしょう?」

「ええ、お兄様は私が話す前から転生者の話を王弟殿下から聞いていたので、転生の話をした時にはこんなに早く話してくれてありがとうって感激されたわ」

「それはそうだよ。きみが幸せになるにはどうしたらいいのか悩んでいたんだから」


 妹が悪役令嬢になって国を亡ぼすと聞いた時、ジョシュア様は何を思ったんだろう。

 とてもじゃないけど信じられなかったと思う。

 でも相手は王弟殿下だ。

 半信半疑でローズマリー様の成長を見守っていたんじゃないかしら。

 転生者かどうかもわからないのだから、接し方がむずかしかったでしょうね。


 私がすぐそばにいることを、幸いにもローズマリー様は気付いていなかった。

 先程までの彼女の様子から察するに、ヒロインにかなりの恐怖を感じていたようだから、彼女の精神的負担を考えて王弟殿下は黙っていたんでしょうね。

 ゲームがどういうストーリーなのか、ローズマリー様やジョシュア様に聞くのはやめたほうがよさそう。 


「監視じゃなくて見守っているって考えてほしいな。王弟殿下は自分も転生者だから、きみたちの不安や心配もよくわかってくださっている。悪いようにはしないと思うよ」

「コーニリアス様、本当に十歳ですか?」

「ふふ。汚い大人と嫌というほど接してきたからね。生きていくためには子供らしくなんて言っていられないよ。大人に経験では勝てないのだから、他で補わないと」


 この年である意味悟っているな。

 大人になったらどうなるのかしら。


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