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オバサンは国王陛下と謁見する  7

 その後は淡々と処分の話が進められていたので、私はぼけっと椅子に座っていた。

 長いのよ。自分に関係のない話を、ただ聞いているだけって子供にはきついって誰か気付いてほしいわ。


「ではそうしてくれ」

「はっ。魔道省長官……いや、ゴールディング。立ちなさい」


 ようやく終わったのかと退場していくゴールディング様のほうを見たら、また目が合ってしまった。

 なんなんだろう。


「陛下、少しだけ時間をいただいてもいいでしょうか」

 

 なんだ。ちゃんと敬語を使えるんじゃない。


「なんだ」

「シェリル嬢と話をさせてください」


 は? 私?


「……まあいいだろう」


 よくないでしょう。許可しないでくださいよ。

 でも衛兵に両腕を捕まえられたまま、ゴールディング様がこっちに向かっているのに無視はできない。

 ここは立ち上がるべき?

 それとも座ったままでオッケー?


 困って左右にいるお父様とフェネリーの大伯父様を見たら、お父様がそっと肩に手を当ててくれたので座ったままでいいのね?

 フェネリーの大伯父様はゴールディング様を怖い目で睨んでいて、私の視線には気づかなかったみたい。


「きみは全属性の魔力を持ち、非常に才能に溢れているという報告を受けている」


 ああ、忘れていた。

 魔道省に私の情報を売り込んだやつがいたんだったわ。

 他の報告書は読まなかったくせに、それは読んだの?


「私の元で修業をしてみないか? きみなら最強の魔道士になれるよ」


 この状況で、そんな笑顔で話しかけてくるって、この人の精神状態はどうなっているの?

 あなたの背後で王弟殿下がこわい顔で立ち上がりましたよ。

 それを楽しそうに陛下が止めてます。


「このままではもったいないだろう?」


 私が無反応なので、ゴールディング様はどうにか説得しようと必死だ。


「きみはこの国で一番の魔道士にだってなれるかもしれないんだよ? 王宮で事務官なんてしていてはもったいない」

「あ?」


 この男、地雷を踏んだわね?


「事務官の仕事を馬鹿にしないでいただきたいですわ。事務官も補佐官も執務官も王宮を運営するのに必要な仕事です。もちろん、掃除をしてくれる人も料理を作ってくれる人も、必要とする人がいるから仕事があるんです。仕事をしない人に馬鹿にされたくありません!」


 …………あ、やってしまったかも。

 ついむかっとしてしまった。

 ゴールディング様も彼を捕まえている衛兵もびっくりしちゃってる。


「よく言った」


 でもフェネリーの大伯父様が笑顔で褒めてくれたってことは、大丈夫なのよね?

 だったら、ここは二度と私を弟子にしようなんて思わないように、きっぱり断ってしまいたい。


「あの、ゴールディング様は王族ではなくなって、魔道省長官でもなくなったので、もう貴族ではないということですよね?」


 周りにいる人たちを見回しながら聞いたけど、その辺は曖昧なのかな?

 貴族じゃなくても、血筋的に平民とは言えないとか?


「そうだ。彼は平民……というより、ただの犯罪者だ」


 おお、陛下がそう言ってくれたのなら間違いない。


「では、遠慮なくはっきりと言わせていただきます」

「おお、どんどんやれ」


 さすが王弟殿下の兄上。

 こういう時は反応が似ているわ。


「大事なことなのでお聞きします。あなたの弟子になって、この国一番の最強魔道士になって、それで?」

「え?」


 ゴールディング様は、国王陛下に犯罪者と言われてショックを受けていたところに、私に捲し立てられてきょとんとした顔をしている。


「ですから、最強の魔道士になった後はどうするんですか?」

「どうって……」

「戦場で戦うのでしょうか? それともコアハンターになって魔獣を倒すんでしょうか?」

「いや、そんなことをさせようなんて思っていないよ」

「じゃあ、最強魔道士になる意味がないですよね?」

「え?」

「使わない魔法を習得するために、両親と離れて暮らすのは嫌です」


 私とお父様の顔を見比べているんじゃないわよ。

 あなたの軟禁される城って遠いんでしょ?

 弟子入りするってことは、そこに住まないといけないんじゃないの?

 それとも王都から通えって?


「しかし……他の人には使えない魔法が使えるんだよ?」

「使えませんよ? そんな強力な魔法をどこで使うんですか? 町や自然を破壊しちゃうんじゃないですか?」

「…………」


 そもそも国で一番の最強魔道士って、厨二病?

 強力な魔法って魔力を一度にたくさん消費するし、詠唱が長いんじゃないの?

 そんなの、使用する場が限定されるじゃない。


「私は最強魔道士より、優秀な事務官になりたいんです」

「……そんな」

「シェリルは私にとっては孫のような大事な子だ。無職で犯罪者のあなたの元になどいかせない」


 俯いているゴールディング様に、ギルモアの大伯父様の冷ややかな声が飛んだ。


「あなたの弟子になどなったら、彼女の将来が潰されてしまう」

「同感ですな。自分のこともまともに出来ない人間が、人を育てるなど出来るわけがない」


 フェネリーの大伯父様は私に魔法の基礎を教えてくれている先生でもあるしね。

 大伯父様コンビが辛辣なことを言いたくなるのも当然よ。


「……そう……か」


 国王陛下に処分を言い渡されていた時より、今のほうが落ち込んでいない?

 ようやく自分のしてきたことを理解できた?


「それでも魔法は素晴らしいんだよ?」


 だめだこれは。


「おじ様って」


 だからここは強気な女の子っぽく。

 出来るだけかわいく。


「私よりお子様なのね」


 大人の真似をするおしゃまな女の子をイメージして、胸をはって言ってやった。


「これはいい。さすがレオンが気にかけている娘だ」

「陛下、誤解を生む発言はやめてください。彼女の天才的な頭脳と才能を王宮で活用してもらいたいだけです」


 笑いが起こったから、これで大丈夫だろう。

 愕然とした顔のままで引きずられていくゴールディング様のことなんて、知ったことじゃないわ。

 もう私を、自分とは関係ないこの騒動から解放して。


「だいぶ時間がかかってしまったな。それぞれ自分の仕事に戻ってくれ。クロウリー男爵、申し訳ないが本日の謁見は中止だ。きみはさっそくアレクシア嬢を呼んで説明をし、領地関係の書類の作成をたのむ。法務大臣、あとはまかせる」

「承知しました」


 やっと解放される。長かった。

 これだけ陛下と話をしたら、謁見なんてもうどうでもいいわ。


 ぞろぞろと謁見室を出て、ついさっき騒動の起こった廊下に戻った。

 大臣たちが出てくるのを待っていた人たちや、通行人で廊下はたくさんの人で溢れている。

 せっかく正装を用意したのに、大臣たちは普段の装いだから私たち親子だけ浮いているわ。

 でも国王兄弟もマントをつけていて、目の保養になったしまあいいかな。


「ではクロウリー男爵は法務省に来てくれ」

「ちょっとお待ちください。シェリルがひとりになってしまいます」


 法務大臣に言われて、お父様が困ってしまっている。

 今日はアレクシアがいないんだよね。

 大伯父様コンビも、この後まだ用事があるらしい。


「大丈夫だ。グレアム伯爵が……ああほら、あそこに」


 誰が手回しをしてくれたのかは知らないけど、グレアム伯爵がちゃんと待ってくれていたわ。


「彼がシェリル嬢を責任もって家まで送り届けてくれるはずだ」

「はい、お任せください。ただその前に、仕事のことで少し打ち合わせがしたいと王弟殿下から伝言がありました」


 さっきまで同じ部屋にいたのに、いつのまに?

 まさかこれも、最初から決まっていたことだったり?


「お仕事ですか?」


 私は呆れて言ったつもりだったんだけど、どうやら周りにいた人たちはそうは受け取らなかったようだ。


「まあ、あの子ががっかりしているわ」

「魔道省が問題を起こしたせいで、謁見が中止になってしまったんですって」

「魔道省長官が追放になったらしいぞ」

「やっとか」


 情報の広がりが早い。

 これはまだ中で話をしていた時から、小出しに情報を広めていたわね。

 こわいこわい。だから政治に関わるのは嫌なのよ。


「では執務室にまいりましょうか」

「はい。お父様、いってまいります」

「うん。ではあとで」


 私より、王宮にはほとんど来たことのないお父様のほうが心配なんだけど、大丈夫かしら。

 あ、ギルモアの大伯父様の側近が同行してくれている。

 それなら安心だわ。

 

「今日のドレス、とてもよく似合ってますね」


 ふたりで歩き出してすぐ、グレアム伯爵が話しかけてきた。


「ありがとうございます。正装を着るのは初めてなんです」

「そうでしたか。謁見が中止になってしまったのは残念でした」

「……陛下は、魔道省長官のことでお心を痛めていらしたようですもの。しかたありませんわ」


 これでいいのよね?

 反応としては間違ってないわよね?

 少しでも話を聞きたくて、しらじらしくそばに近寄ってきている人がいるもんね。


「さすが、シェリル嬢。つらい目にも合ったと聞きましたが、しっかりなさっていて安心しました」


 もうさ、いいからさっさと執務室に行きましょう?

 気が抜けなくてしんどいのよ。


 子供の私の足で出来るだけ早く歩いて、ようやく知っている廊下に出てきた。

 ここをまっすぐ行って渡り廊下を通れば……。


「シェリル嬢、こちらです」

「え?」

「国王陛下と王弟殿下が、内密にシェリル嬢とだけお話なさるそうです」


 げっ! まじですか。


「ここから先の警護は陛下の近衛が行う。きみたちはここで待機してくれ」


 大きな騒ぎになったばかりだし今日はアレクシアがいなかったから、王弟殿下の近衛が警護についていてくれたんだと思ったら、周りに知られずに私と陛下が接触するために、信用出来る近衛を配置していたのね。

 しかもここからは、王弟殿下の近衛でも近付けないの?


「私も部屋の外でお待ちします」


 ぱっと見、使われていない細い廊下を通り過ぎて何回も角を曲がった先に、近衛騎士が両脇に立つ立派な扉が待ち構えていた。


「わ……かりました」


 お父様にも用事を言いつけて別行動にしたってことは、転生者について話がしたいってことよね。

 これからが本当の謁見だわ。


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